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第36話 真相

深夜十二時。指定された河川敷へ、俺たちは三人で向かった。

人気の全く無い、街灯も少ない河川敷。びゅうと強い風が吹き、雑草が波打つ。


「ここで合うてるんか?」


逆巻の問いかけに、俺は頷く。要は表情を固くして、高架の暗がりを睨んでいた。

すると──。


サク、サクと雑草を踏みしめる音。


「あれ? 思ってたより早かったね」


要が睨んでいた暗がりから、今しがた電話口で聞いた声。


「こんばんは、素直くん」


暗がりから姿を現したのは、スーツ姿の湊さんだった。


「……湊さん」


湊さんが俺を見て、要と逆巻を見る。


「あはは、お友達まで連れてきちゃったの? せっかくだから二人きりになりたかったのになぁ~」


その言葉も、きっと嘘だ。

湊さんは俺に嘘をついてたんだ。会ったときから、ずっと。


思わず俯くと、要が俺の前に立つ。

湊さんはそんな要を薄く目を開いて見つめ、口元を緩ませた。


「連続殺人事件の犯人は、貴方ですね?」


少し沈黙が流れる。湊さんは、にやりと口の端を釣り上げた。


「うん。大正解」


湊さんはそう言って、スーツの懐へ手を差し入れる。

ゆっくりと引き抜かれた手には、何かが乗っていた。


目を凝らし、ぎょっとする。


それは人間の臓器──いや、心臓だった。


「っ!」


要と逆巻が身構える。俺は、ショックで立ちすくむしかなかった。


「これ、さっき取りたてほやほやなんだ。死体はその辺の草むらに置いてきた。中学二年生の男の子だよ。探してくる?」


まるで清涼飲料水のCMの俳優みたいに、爽やかスマイルで問いかけてくる。

湊さんは再びジャケットの内側へと手を差し込み、引き抜く。すると、手にあったはずの心臓が消えていた。


「あんたは、エデンの人間なのか」


「へえ。要くん、エデンを知ってるんだ。どこから漏れたんだろう? ……もしかして、君も関係者?」


「質問に答えろ」


要の声には強い怒気が滲んでいる。だけど、湊さんは余裕の笑みのまま答えた。


「ご明察。そう、僕はエデンに属している。中高生の心臓を集めてたのも、そう命令されたからだよ」


能力者だけで構成された組織が心臓を集めてるらしいという話は、こないだ要から聞いた。

湊さんはその組織の人間ということなのだろう。

でも──。


「なんで……俺達みたいな子どもの心臓ばっかり」


喉の奥から、声を絞り出す。

すると湊さんは俺を見て、笑った。


「君のせいだよ。素直くん」


「……え?」


「エデンはね。君の心臓が欲しいんだ。君の心臓は並の能力者百人分……いや、それ以上の価値があるからね。エデンに属する人間は、みんな君を探してるんだよ……でもあの人、君が県内に住む中高生だってことまでしか教えてくれなかったんだ。だから大変だったよ。手当たり次第に殺ったのに、外ればっかりでさ。正直、途中から飽きてきてた」


まるで退屈だったと言わんばかりに、湊さんは肩をすくめる。


「そんな時に、スーパーで偶然君に出会ったんだ……運命だと思ったよ。このチャンスを逃さないようにと思って、君に好かれるために、結構頑張ったんだよ?」


湊さんはいたずらっぽく首をかしげ、俺に微笑みかける。


杭を打ち付けられたみたいに、胸がズキンと痛んだ。


湊さんは、スーパーで出会ったあの時から、俺を殺そうとしてたんだ。

それに──。


「じゃあ……今まで殺された人達は……みんな俺のせいで、死んだってこと?」


自分で言葉にして、恐ろしくなった。

もしそれが事実だとしたら、俺は、なんてことを──。


「違う!」


叫ぶような否定の言葉にハッとする。見ると、要が俺を振り返っていた。


「違う。素直は悪くないよ」


「そうや空木うつぎ、勘違いすんな。悪いのは全部──あのイカレサイコパス野郎や」


逆巻が湊さんを睨む。いつの間にか、逆巻はバットを手にしていた。


「あんたは最低の犯罪者だ。それに素直を殺そうとした。だから俺は──あんたを許さない」


「ふーん。いい度胸だね。いいよ。三人まとめて相手してあげる。しかし今日はラッキーな日だなぁ。だって今晩は──心臓が四つも手に入るんだから」



ぴんと空気が張り詰める。

湊さんが踏み出そうとした。その瞬間──。


「ストップ」


逆巻が制止するように手を前に出す。逆巻に視線が集まった。


「どうしたの? 今さら怖気づいちゃった?」


「俺達には戦う前の儀式があるんや。それ、先にさせてもらうで」


なあ、神宮寺? と逆巻が要に問いかける。

要は一度俺をちらりと見て、小さく頷いた。


「オーケー、待ってあげる。最期になるんだし。後悔ないようにね?」



俺と要は柱の陰へと移動した。人目が無くなるなり、すぐに要の顔が近づいてきた。

唇が触れる寸前、俺は声を上げた。


「待てよ要」


要の動きが止まる。ゆっくりと顔が離れ、琥珀色の瞳が俺を見つめた。

その顔が、わずかに曇っているように見えた。


「なに?」


「俺も戦う」


「ダメ」


即答だった。

だけど、俺は食い下がらなかった。


「こんなことになったのは、全部俺の責任だ。だから──」


言い終える前に唇が重なる。そのまま背後の壁に押さえつけられるように、深く口付けられた。


「っ……かな、め……っ!」


抵抗しようともがく。だけど要が俺の顎を掴んでるせいで、無駄に終わった。

舌が強引に唇を割って入ってきた。途端に頭の奥が痺れて、身体の力が抜けていく。


抵抗できなくなった俺の口の中をぐち、ぐちと音を立て、要の舌が動き回る。

吸い上げられた舌を甘噛みされ、染み出した唾液すらも奪い取られる。

キスが、いつも以上に長かった。


頭がぼーっとしてきて、かくんと膝の力が抜ける。思わず要の背中を叩くと、一度唇が離れた。


「かなめ……もう……」


「まだ駄目」


再び唇が重なる。かくんと膝が折れ、耐えきれずにその場にへたり込む。

へたり込んだ俺を追うように、要もしゃがみ込む。離れかけた唇が、もう一度重なった。


大きな手のひらが俺の頬を挟み込み、貪欲に唇を貪る。

唇から力が吸い取られていく感覚が強くなる。背中を叩こうとした手で、シャツを握ることしかできなかった。


要の吐息を俺が吸って、俺の呼吸を要が吸い上げる。どちらの唾液かも分からないものが、顎を伝っていく。


頭も身体も熱くて、意識が朦朧とする。どうにかなりそうだ。

とうとう力が入らなくなってきて、握りしめていた要のシャツを離す。そこでやっと唇が離れた。


つう、と唾液の糸が伝う。

焦点の合わない視界の中で、要がそれを指先で拭い、口にしまい込むのがぼんやりと見えた。


強い倦怠感が全身を襲い。瞼が重くて、目を開けているのも精一杯だ。


「これでもう、動けないでしょ」


「……かな、め」


「素直は、ここで待ってて」


薄れゆく視界の中、要が立ち上がり、歩いていく。

俺はそれを追うこともできず、その場に倒れ込み、意識を手放した。

本作は【火・木・土】更新予定です。


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