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第32話 明らかになる秘密


湊さんと連絡を取り合うようになって、一週間ほど経った夜。

要がシャワーを浴びている時、突然電話が掛かってきた。


すぐに画面を確認する。予想していた通り、『湊さん』の文字が表示されていた。

どくんと胸が高鳴る。ライムでは毎日のようにやり取りしてきた。でも電話がかかってきたのは初めてだ。


幸い、要は今シャワーを浴びている。またとないチャンスだ。

出たい。湊さんの声が聞きたい。話したい。


そっと応答をタップして、小声で応対した。


「も、もしもしっ」


『あ、出てくれた。素直くん、今って時間大丈夫?』


ちらりと浴室の方に目を向ける。まだシャワーの音が響いていた。


「はい、ちょっとだけなら……」


『もしかして、親が厳しい?』


「いや、俺実は一人暮らししてるんですけど、今は友達と同居してて……」


『へえ、高校生なのに立派だね。もしかして、一緒に住んでるのって、こないだ話してくれた友達?』


「そうです」


『へえ……本当に仲がいいんだね』


一瞬、湊さんの声色が微かに低くなったような気がした。


『ほら、こないだ二人でドライブしようって言ってたでしょ? 今週末とかどうかな? 車で家まで迎えに行くよ』


「今週末、ですか」


絶対無理だけど、行きたい。湊さんとドライブ。楽しいに違いない……でも、そんなの要に言えない。

言ったらあいつに心配させるし、怒らせてしまうかもしれない。どうすれば。

心の天秤がぐらぐらと揺れ、俺は必死で頭を回転させる。そして、一つ案を思いついた。


「……行きます」


絞り出すように答えると、電話口の向こうで、湊さんが笑う気配がした。


『やったぁ。じゃあまた都合いい時間ライムしてね。楽しみにしてるよ。おやすみ』


「はい……おやすみなさい」


電話が切れ、直後に湊さんに会える高揚感と、要に対する罪悪感が一気に押し寄せる。

どうしよう。オッケーしてしまった。本当によかったのか? ……でも。

スマホの写真フォルダを眺める。そこには湊さんが送ってくれた写真と、湊さんとのやり取りで特に読み返したい部分をスクショした画像で溢れていた。


父さんや母さんとはたまに近況報告をする程度だし、要とはほぼ一緒にいるから、ライムでやり取りする機会がほぼ無かった。

ライムでのやり取りをこんなに頻繁にする相手は、湊さんが初めてだ。


一生懸命相手のために文章を考えて、送られてきた言葉を自分なりに解釈して、また返事を考えて。

返信が遅いと妙にそわそわしたり、即レスをもらうとリアルタイムで繋がってるみたいで嬉しくて。

そんなやり取りを何度も重ねる時間が、こんなにも心を躍らせるものなんだってことを、俺は知ってしまった。


だから俺は、風呂を出て髪を拭いてる要へと、勇気を振り絞って切り出した。


「要」


「どうしたの? 素直?」


いつだって俺だけを映している瞳が、こちらを振り向く。

表情で嘘を悟られないように、テレビへと視線を向け、俺は言った。


「今週末さ、実家に呼び出されたから行ってくるよ。晩飯も食ってけって言われたから、遅くなると思う」


「だったら俺も──」


要がそう言いかける。だけど言葉を止めて、いつも通りの穏やかな声で続けた。


「分かった。でも、くれぐれも気をつけてね」


「うん。サンキューな」


あっさり了承されて、罪悪感が再びずしりと胸にのしかかる。

だけどそれと同じくらい、俺の心は浮足立っていた。


本当に行けるんだ。湊さんとドライブ。早く湊さんに連絡しないと。

ふと、要が俺をじっと見つめていることに気づいた。

妙な気まずさを覚えた俺は、話題を変える。


「そういや、最近逆巻ウチに来ないよな? あいつ何やってんの?」


「ああ、逆巻には、別件で動いてもらってる」


「別件?」


「そのうち素直にも分かるよ」



そして、あっという間に土曜日が来てしまった。

「いってらっしゃい」と玄関先で見送る要に背を向け、俺は駅へと向かった。


実家行きとは真逆の方向へ向かうホームへ立ち、電車に飛び乗る。そして、二つ目の駅で降りた。

電車を降りて、バスのターミナルにむかう。

すると、ライムで送られてきた車の写真と同じ車と待ち焦がれていた姿を見つけ、ドクンと鼓動が跳ねた。


艶のある白いボディのセダン。車には詳しくないけど、高級車だということだけは俺にも分かった。

その車に背を預け、スマホをいじっている湊さんは、まるで車のCMに出てきそうなくらい様になっていた。


今日はスーツじゃなくて私服だ。ラフなのに清潔感があって、大人っぽくてかっこいい。


ピコン。


ポケットの中のスマホが通知を知らせる。


『駅についたよ。いまどこ?』


それは他でもない、視線の先にいる湊さんからのライムだった。


「湊さんっ!」


気付けば名前を呼びながら駆け寄っていた。

湊さんは驚いたようにこちらを見て、にこりと微笑んだ。


「こんにちは。素直くん」


「すいませんっ、待たせちゃいましたか?」


「ううん、時間ぴったりだったよ。優秀優秀」


湊さんは笑みをたたえたまま頭を撫でてくれた。

途端に頬に熱が集まる。でも、それは嫌な感覚じゃなかった。


「今日はどこ行くんですか?」


「色々プランは考えてきたよ。景色のいい場所をドライブして、美味しいもの食べるとか、テーマパークに行くコースとか……素直くんは何がしたい?」


「なんでもいいです。湊さんと出かけるなら、なんでもっ!」


「あはは、いい返事。じゃあ、車乗って」


そう言って、湊さんは助手席の扉を開けてくれた。


「はいっ!」と元気よく返事して、乗り込もうとしたその時──。



「こんにちは」



背後から、聞き覚えのある声。

振り返ると、黒いキャップを被った男が立っていた。

男が顔を上げた瞬間、助手席に手を掛けたまま、俺は凍りついた。


見間違えるはずもない。そこに立っていたのは──要だった。


「……かなめ」


思わず漏れた言葉に一切反応せず、要は湊さんだけを鋭い瞳に映し、そして言った。


「少し、お話を聞かせてもらってもいいですか」

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