第31話 秘密のやり取り
その日の深夜、要が帰ってきた。
すぐに情報共有をする予定だったが、逆巻は疲れていたのか、ソファに座ったまま寝落ちしてしまっていた。
結局、話し合いは翌日の放課後に持ち越しになった。
翌日の放課後、逆巻がバイトから帰ってきてから、要は叔父さんから聞いた情報を共有してくれた。
現在警察で把握している被害者は五人。こないだ俺と要が発見した死体が、その五人目らしい。それ以降は現状まだ死体は見つかっていない。
最後に殺された被害者は、事件当日の放課後、「友達と遊んでくる」と言って外出し、殺害された。死亡推定時刻は20時頃。
俺達が発見したのが22時頃だったから、被害者は殺されてからそう時間は経っていなかった。
死体についても、傷は心臓の部分に空いた大きな穴だけで、争った形跡もない。睡眠導入剤などを使った可能性が高い。
どうやって特定したかは言えないが、警察は大まかな犯人像を割り出してるらしい。
20代から30代くらい男で、被害者との接触時、スーツを着ていた可能性が高い。
また、犯人は犯行時、被害者と二人きりの状況を作り出していた。
このことから、被害者達は犯人と親密な関係にあったか、なんらかの接点があった可能性がある。
「なるほどなぁ。やっぱ掛かっとったか。報道規制」
要の説明を聞き終えた逆巻が、納得したように頷く。
「しかしまぁ、スーツ着た若めの男かぁ。絞れたとはいえ、そう簡単に特定出来るもんちゃうなぁ。んなもんその辺にゴロゴロおるやろ」
「そうだな。でもこれだけの情報があれば、そいつの正体がいくらか絞れたよ。犯人はきっと──」
要と逆巻が話込んでいるのを頬杖ついて眺めながら、俺はぼんやりと湊さんのことを考えていた。
湊さん。かっこよかったな。大人の男って感じだった。
20代だよな。たぶん。入社して二年目って言ってたし。24、5くらいか?
そのくらいの歳になったら、俺もあんな感じになれるかな?
……そういや、さっきライムきてたな。机の下にあるスマホを見る。画面にライムの通知がきていた。
このスマホに登録されている連絡先は、両親と要と逆巻、そして湊さんだけ。
つまり、この通知は間違いなく湊さんからだ。
なんて送ってきたんだろう? 早く確認したい。
「素直?」
ハッとして顔を上げる。要がこちらを見ていた。
やば、要の話、ちゃんと聞いてなかった。
「どうしたの素直。もしかして、また体調悪い?」
「え、いや大丈夫……ちょっとぼーっとしてた」
「……ならいいけど」
要が何かを探るように俺をじっと見る。
「な、なあ逆巻っ」
その視線から逃げるように逆巻に話を振り、俺は事なきを得た。
それから俺は、要の目を盗んで湊さんとのメッセージのやり取りを重ねた。
湊さんの送ってくるメッセージのすべてが俺にとっては魅力的で、会いたい気持ちがどんどん膨らんでいく。
電話もしたかったけど、要が常に一緒にいるこの状況では、どう考えても不可能だった。
湊さん。いい匂いしたな。あれ香水だよな?
俺、そういうの使ったことないや。どんなの使ってるのか、今度教えてもらおうかな?
髪もゆるいパーマがかかってて、綺麗にセットしてた。
鏡で自分の髪を見る。さらさらの黒髪猫っけストレート。代わり映えしないナチュラルマッシュ。
うう……かなりガキっぽい。これじゃそりゃ、中学生に間違われるか。
俺ももっとおしゃれに気を使うべきか? 鏡の前で髪をいじっていると。
「何やってるの? 素直」
ハッとして振り返ると、要が不思議そうな顔で見ていた。
「髪、なんかついてる?」
「え、いや、ただなんかっ……俺の髪型、ガキっぽいかなって……」
しどろもどろに答えると、要は目尻を下げて俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「そんなの気にしてたの? 素直は今のままで可愛いよ」
「可愛いって……そんなん嬉しくねえっつの」
じっと要を観察する。要は髪を整えるくらいにしかセットしてないけど、元がいいから、そのままで充分かっこいい。
でも俺みたいなやつは、セットでもしないと格好良くはなれないのだ。
今度湊さんに会った時、恥を忍んで髪のセットの仕方、聞いてみよっかな。
「どうしたの素直?」
「……なんでもない」
とにかく、要には湊さんのことはバレないようにしないと。
命狙われてるかもって時に知らない大人と会おうとしてるなんてバレたら、マジでなに言われるかわかんねえし。
それからも、俺は相変わらず湊さんと連絡を取り合っていた。
最近スマホをいじる頻度が増えたせいか、スマホを手にすると、何となく要の視線を感じる気がする。
なので最近は、トイレで湊さんからのライムを確認するようになった。
トイレに入ってスマホを見る。通知がきていて、俺はすかさずタップした。
『素直くん、学校終わった?』
『はい。湊さんは今日も外回りですか?』
『そーそー、今日は少し遠出して、ついでに景色見に来たよ。今度一緒に行かない?』
ピースした湊さんの背景に、青々とした山の絶景が映った写真が送られてくる。
俺はすぐさま返事をした。
『行きたいです!』
『良いね~いつにする?』
「いつにする……か」
命を狙われてるこの状況で、要の目を掻い潜ってどこかに出かけるなんて、正直不可能に近い。
こないだみたいに要が一人で出かけるなんて状況じゃなきゃ、絶対無理だろう。
それに、こういうのってあんまりよくない気がする。
要は俺のために頑張ってくれてるのに、裏切ってる気がして……。
『また行けそうな日分かったら連絡します!』
と一旦保留にしてトイレを出る。要が話しかけてきた。
「素直、最近トイレに籠もってること多いね。お腹の調子よくない?」
「え? あーうん……ちょっと、腹下してて」
「……そうなんだ。整腸剤出そうか?」
「あ、大丈夫……サンキューな」
心配してくれる要に、ちくりと胸が痛む。
うん。やっぱ止めたほうがいいよな。こんな事。分かってるんだけど……。
ブブ、とポケットの中でスマホが震える。
その振動に胸が高鳴るのを、俺はどうしても抑えられそうになかった。
本作は【火・木・土】更新予定です。
よければブックマークや★で応援していただけると嬉しいです!




