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第29話 夜のサービスエリア

俺達は外に出て、ベンチに座った。

紙袋越しにも熱が伝わってくる。できたてのコロッケにかじりつく。


「……うま」


「だよねぇ。こういう所で食べるコロッケって、なぜか特別美味しく感じる」


「湊さんのは、メンチカツですか?」


「うん。こっちも食べてみる?」


湊さんがメンチカツを差し出してきた。

まだ食べてないのに、俺が一口目を食べていいものか。

戸惑っていると、湊さんはくすりと笑う。


「ほら」


そう言って、メンチカツを俺の口元へと近付けてきた。


「じゃあ……いただきます」


サクッと衣を噛むと、中から熱い肉汁が溢れ出した。


「っ、熱っ」


慌てて口を押さえる。だけど噛むたびに肉の旨味が広がって、思わず頬が緩んだ。


「おいし?」


「はい……めっちゃうまいっす」


「ならよかった。もし食べたかったら、僕の分も食べていいよ」


「え。いいんですか?」


「だってそんな美味しそうに食べられたら、あげたくなっちゃうよ」


湊さんはくすくすと笑いながら言う。

俺は急に恥ずかしくなってきた。顔に熱が集まる。


「あの、なんか……すいません」


「謝らなくていいよ。僕、美味しそうに食べてる人見るの好きだからさ」


「じゃあ……いただきます」


「喉乾くでしょ? お茶買ってくるよ」


湊さんは席を立ち、自販機へと歩いていった。

その背中を、俺はコロッケとメンチカツを両手に持ったまま見送る。

気付けば、自販機でお茶を買っている湊さんをじっと見つめていた。


姿勢も、歩き方も、立ち振る舞いも綺麗で、余裕が漂ってる。


要も所作が綺麗だと思うけど、家柄が関係してるんだろうなと納得がいく。

でも湊さんのは、なんだろう。元々備わったものというより、努力で身につけたような、そんな感じがする。


湊さんが緑茶のペットボトルを手に戻ってくる。そして小さく吹き出した。


「もしかして、ずっと僕のこと見てたの?」


「え、あっ……あはは」


やばい。俺、さっきからずっと挙動不審だ。このままじゃ変に思われる。


「置いとくね」と、湊さんは緑茶のペットボトルを開けて、俺の隣に置く。そして缶コーヒーをカシュと開けて口をつけた。


「あ、あの、コーヒー……好きなんですか」


「うん? いや別に。何となくでしょ。こんなの」


なんだか煮えきらない返事に、俺は違和感を覚える。続けて質問した。


「湊さんって……好きな食べ物は?」


「無いよ。なんでも食べるけどね。好きなものも特に思いつかなくて……ほんと、こだわり無いんだ」


好きな物が無い人なんているんだ。なんか、意外だな。

湊さんは缶コーヒーをぐび、とあおり、続けた。


「僕、基本めんどくさがりだからさ。何でも人に合わせちゃうんだ。それが楽だし、相手も喜んでくれるからさ。そういうのが営業成績に繋がったり、周りの人に好意的に解釈してもらったりで、いいこともたくさんあったんだけど……っと、こんな話しても面白くないよね。ごめんね?」


「いや、そんなことは……湊さんの話聞けんの、俺、嬉しいです」


湊さんの糸目が微かに開いて、じっと俺を見る。そしてにこりと微笑みかけた。


「素直くんは本当に優しいね、学校でモテるでしょ?」


「えっ俺!? そんなっ全然ですよっ! 女子と話す機会、全然無いしっ」


「そっか、僕は素直くんのそういうこと、すごく良いと思うけどなぁ」


「良いなんて……そんな」


人に褒められる経験があまり無いせいで、一々恥ずかしくなる。

ダメだ俺。湊さんといると、変な感じになってしまう。


「やっぱりそれ、ちょっともらっていい?」


「え?」


湊さんの視線はコロッケに注がれていた。慌てて差し出す。


「ああこれっどうぞ」


「……ありがとう」


湊さんが手を伸ばしてくる。受け取るものだとばかり思ってたのに。

骨ばった大きな手は、なぜかコロッケを持っている俺の手ごと握った。


「え、」


すぐ目の前でサク、と小気味よい音。呆気に取られている間に、握られていた手が離れていく。

湊さんは咀嚼しながら、口元についた衣を指先で拭った。


「うん。美味しい。やっぱサービスエリアのコロッケは格別だね」


「……そうです……ね」


「どうしたの素直くん? 顔まっか」


「あはは……いや、なんでも……」


顔を見られたくなくて、俺は景色を見るふりをして顔を背ける。

さっきの一瞬が、脳内でリフレインしていた。

俺の手を掴んだ大きな手。近づいてきた綺麗な顔。すぐそばで瞬いた、繊細なまつ毛。ふわりと香った、香水のいい香り。


やばい。心臓が……ドキドキする。なんだこれ。何なんだこれ!

本作は【火・木・土】更新予定です。


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