第27話 インザカラオケボックス
次の日の夕方、俺達は逆巻の働いているカラオケへ向かった。
丁度バイトを上がった逆巻と合流し、適当な部屋を取って中へ入る。
ドアを閉めた瞬間、俺達だけの空間になった。
私服に着替えた逆巻が、「ふ~、今日もようさん働いたわぁ」と賄いのハンバーガーに豪快にかぶりつく。
俺達もとりあえずポテトを注文した。
「で、これからどうするんや? 犯人の目星はついてるんか?」
「いや、全く」
要が答えると、逆巻はずずずと、ジュースを音を立てて飲み干してから言った。
「なんじゃそりゃ。こないだお前ら、死体発見して事情聴取されたんやろ? そん時に犯人の特徴とか聞かんかったんか?」
「教えてもらえなかったよ。守秘義務がどうとかではぐらかされた。ね? 素直」
要の言葉に俺は頷きを返す。
俺達の聴取を担当した雨宮さんはやわらかい雰囲気の優しそうな人だったけど、やはり警察官。そこの線引きはちゃんとしていたようだった。
「じゃあどうすんねん。あっちから来るのを待つんか? 呑気な話やなぁ」
「突き止められるのなら、こっちから仕掛けたいけどね……とりあえず、現時点で分かってる情報をまとめてみようか」
要は机の上にあるノートを開き、事件の概要をサラサラと書いていった。
中高生連続殺人事件。
最初の事件発生は二か月前。被害者は県内に住む中学生の女子で、胸の部分にぽっかりと大穴が空いた状態で発見された。
司法解剖の結果、心臓が綺麗に抜き取られていたらしい。
その日を皮切りに、同様の事件が県内に立て続けに四件発生していて、最新の事件は隣町で起こっている。
被害者には県内在住の中高生という事くらいしか接点はなく、発生した場所もバラバラだ。
ニュースで報道されている犯人像も「20〜50代の男女」という、ほとんど手掛かりになっていない情報くらいだった。
「こないだ俺達が偶然見つけた死体で、被害者は五人になったはず。だけどそれはテレビでもネットでも報道されてない。もしかしたら、警察が報道規制を掛けたのかもしれない」
「報道規制? 今まで大々的に報道しとったのに急になんでや?」
「これは仮定の話だけど、もしかしたら警察は、能力犯罪だってことに気付いたのかもしれない」
「能力犯罪?」
俺が問いかけると、逆巻が答えた。
「俺達能力者の中にはな、能力を悪さすんのに使うアホがおるんや。そいつらが起こす犯罪を、能力犯罪って呼んどんねん」
逆巻はジュースを一口飲み、続ける。
「まあ神宮寺の予想が当たっとるんなら、警察内に能力者犯罪対策課があるっちゅう噂も、ほんまなんやろな。それで、俺等はどうするんや?」
「まずは情報収集、か」
要がノートを閉じる。
「相手の能力も正体も分からないまま動くのは危険だ」
「せやけど警察は教えてくれへんのやろ?」
「普通ならね。でも、俺には少し頼るあてがある」
「あて?」
「警察官僚に親戚の叔父さんがいるんだ。その人は神宮寺家の中でもかなりまともな方の人だから、頼んだら話を聞けるかもしれない」
「いくら親戚言うたって、そんなお偉いさんが一般人のお前に捜査情報なんか教えてくれるんか?」
「あの人には貸しを作ってあるからね。なにか知っていれば、洗いざらい吐いてくれると思う」
「洗いざらいって……お前、弱みでも握っとるんか?」
要はその問いかけに、視線を外して答えた。
「想像に任せるよ」
「ほんまお前は……掴めん男やなぁ」
若干引いた様子で逆巻が要を見る。要は気にすることなく話を続けた。
「極秘の話になるだろうから、叔父さんに不信感を抱かせないようにしないといけない。だから行くとなれば、俺が一人で行くことになる。逆巻、俺が離れてる間、素直の家にいてもらっても構わないか?」
「それは構わんけど……その前に神宮寺、一つええか?」
「なんだよ」
「そもそもの前提の話やけど、その連続殺人犯は、ほんまに空木を狙っとるんか?」
要のストローに添えられた指先がぴくりと震える。一瞬だけ、部屋に沈黙が落ちた。
「分からない」
ぽつりと要が呟く。逆巻は呆れたように言った。
「はぁ? じゃあなんでわざわざ犯人突き止めるようなマネすんねん。もし空木関係なかったら、逆にリスクしかないやんけ」
「確かに逆巻の言う通り、根拠は無い。でも事件の発生地点を見てる限り、俺達の居場所に明らかに近づいてるんだ」
「そんなんたまたまかも知らんやろ」
「不安の芽は、できるだけ潰しておきたいから」
「お前なぁ。確かに協力するとは言うたけど、そんな根拠無い絵空事に付き合う気は無いで。どうせ神宮寺のことや、なんか理由があるんやろ? 腹割ってはっきり言えや」
逆巻が真意を問うように見つめる。要は居心地が悪そうに目を伏せて、ストローで氷をカラカラと鳴らす。
そして、ぽつりと零した。
「このままじゃ、素直が安心して暮らせないから」
要の返答は逆巻にとって予想外だったようだ。猫みたいに目を丸くし、そしてはぁ~と大きなため息を吐いた。
「あーはいはいそういうことね。分かったわもう。ほんまにお前は……えらい過保護なやっちゃな?」
逆巻が頭の後ろで腕を組み、俺に視線を向ける。目が合うと、意味ありげに口の端を吊り上げた。
「つーか空木、お前さっきからずっと黙ったままやんけ。何か喋れや」
「え、俺?」
正直、へえ~と思いながら話を聞くばかりだったから、何も考えてなかった。
二人の視線がこちらに注がれる中、俺は部屋に備え付けられたマイクを手にし、ぎこちなく差し出した。
「あ、あのさ。せっかく来たから……歌わね?」
数秒の沈黙が落ちる。逆巻が呆れたように額を押さえた。
「お前なぁ~今まで俺達がなんの話しとったか、ちゃんと分かっとるんか?」
「わ、分かってるよ。だから素人の俺は口挟まず、黙って聞いてたんだろ。それに俺、カラオケ来んの初めてだから……」
もごもご言ってると、要がマイクを受け取って、にこやかに微笑みかけてきた。
「そうだね。なんだかんだで俺達、こういうとこ来たこと無かったし。歌おっか」
「ほんまお前ら……しゃーないなぁ。じゃあ俺の十八番、聴かせたるわ!」
逆巻は慣れた手つきで選曲用タブレットを操作し、曲が始まる。俺は取り合えず部屋にあったタンバリンを手にした。
それから三時間、俺達は各々の好きな曲を熱唱した。
本作は【火・木・土】更新予定です。
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