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第23話 俺だけじゃ駄目なの?




「やば、ポリ公来てもーたっ!」


逆巻が焦ったように呟く。要は逆巻から離れ、警官の方を見た。

巡回中だったんだろう。警察官の背後には、交番によく停まってる自転車があった。


やばっいくら廃工場とはいえ、騒ぎすぎたか。


「制服? お前ら高校生か? 事情を聞きたいから、一旦交番に来なさい」


警察官がライトを手に、コツコツとこちらに歩いてくる。

それを見た要と逆巻が、視線を交わした。


「逃げるぞ」


「やな」


「うわっ!?」


突然要に肩へ担ぎ上げられ、俺は声を上げる。

要はそのまま跳躍し、俺を担いだまま天井付近の窓へ向かう。逆巻もそれに続いた。


三人で窓から外へ飛び出す。


「待て!」と背後で声が聞こえたが、俺達は振り返らずに逃げた。



廃工場からどのくらい離れただろう。俺達は人気のない路地にたどり着いた。

要が俺を地に下ろす。逆巻は座り込み、はぁはぁと肩で息をしていた。


「ここまで来たら……もう大丈夫やろ……」


あれだけ走ったのに、要だけは平然としている。だけど逆巻は汗だくだ。

ポケットに入ってた財布を取り出し、近くにあった自販機でスポーツドリンクを買う。

そしてそれを逆巻に差し出した。


「ほら」


「あ?」


「疲れただろ。飲めよ」


「……なんじゃそりゃ」


逆巻が怪訝な顔でスポーツドリンクを受け取る。手にしていたバットが消失した。


「白けた。帰るわ」


逆巻が立ち上がり、踵を返す。俺は思わずその背中を呼び止めた。


「ちょっ待てよ。もう帰るのか?」


「あ゛?」


不機嫌全開の凄まじい剣幕で、逆巻が振り返る。


うわ~やっぱこいつ、怖え……。


だが俺には引けない理由があった。なので勇気を出して、猛虎のような威圧に耐えつつ問いかけた。


「お前大阪から来たんだろ? こんな時間から帰るのか?」


「んなわけないやろ。もう終電とっくに終わっとるわ。その辺で野宿して、始発で帰るわ」


「俺んち来るか?」


「は? お前んち?」


「ゲームとかお菓子あるし、客用の布団もある……どうだ?」


「ちょっ素直!」


要が困惑の声を上げる。逆巻も怪訝な顔で俺を睨みつけていた。


「ゲームにお菓子? そんなんで……俺が釣られる思てんのか?」




「あ゛ー! また負けたぁ~! もっかいやもっかい!」


「おい逆巻! 声のボリューム落とせ……! 深夜だぞっ」


咎めると、逆巻は頭を掻いて声のボリュームを落とした。


「あーすまんすまん。久々にゲームしたから、熱中しすぎてもうてたわ」


そう言いながらテーブルの上のジュースをぐびりと飲む。


あの後逆巻は、結局俺の家についてきた。

要は終始納得いかなそうな顔をしていたが、追い返すこともなく客用布団を用意していた。

交代で風呂に入ってから数時間が経ったけど、未だに俺達はゲームしていた。


「…………」


ゲームしている俺達を眺めるように、要はベッドに座っていた。

何となくだけど、その顔に不満の色が浮かんでいるように見える。


もしかしたら、コントローラーが2つしか無くて参加できないからかもしれない。要、ゲーム好きだしな。

「交代するか?」と何度か誘ったけど、「いや、いい」と即答で却下された。


どうやら三人でゲームしたいらしい。今度もう一個コントローラー買うか。


「素直、明日学校なんだから、そろそろ寝よう」


「あ、そうか。そうだったな」


楽しすぎてすっかり忘れてた。


「逆巻、そろそろ寝ようぜ」


「んあ? そうやなすまんすまん。三人やし、俺はこのソファで寝たらええんよな?」


逆巻がベッドと床に敷いた布団を見て問いかける。俺は首を横に振った。


「いいよ。俺達はベッドで寝るし。それでいいよな? 要」


問いかけると、要は一変してにこりと微笑み頷いた。

それを見た逆巻の顔が、なぜかぎょっとする。


「いや、俺はソファで全然ええで? 二人でシングルベッドは……さすがに狭いやろ?」


逆巻は様子を窺うように、俺達を交互に見ながら問いかけてくる。要がにこやかな笑みを浮かべてそれに答えた。


「大丈夫だよ。俺と素直は毎日このベッドで一緒に寝てるから」


「へ……へえ……」


食い気味の要に戸惑うように、逆巻が答えた。

話し合いの結果、布団は逆巻が、俺と要はベッドで寝ることになった。


「じゃあ、おやすみ」


「んあ~……おやすみぃ~」


逆巻の眠そうな返事。案の定電気を消してすぐに逆巻の寝息が聞こえてきた。

寝付き良すぎるだろこいつ。


「……すなお」


もぞりと要が擦り寄ってくる。振り向くと至近距離で目が合う。

妙に熱のこもった瞳にじっと見つめられ、ドキッとしてしまった。


「今日のキス、まだでしょ? しよう」


「キスって……さっきしただろ。逆巻と戦う前に」


「あれは能力循環じゃない。一時的に素直に力を借りるためのものだから」


食い気味に言われ、なぞるように背骨を撫でられる。

ゾクゾクして、腰のあたりにくすぐったい感覚が走った。


「いや、今日は流石に……すぐそこで、あいつ寝てるし……」


「寝てるならいいじゃん。しようよ」


言うが早いか顔が近づいてきて、唇が重なる。


「っ……ん……」


触れるだけのキス。そこは要も弁えているようだ。

だけど、何度も角度を変え、ぐいぐいと唇を押し付けてくる。


壁側にいる俺は、当然逃げられない。

身動ぎしてみるけど、肩を掴まれて、簡単に抑え込まれてしまった。


「ちょっ……かなめっ」


くっついた唇の端から制止の言葉を発した。

その瞬間──。


「たこ焼きぃ? もう食べられへんってぇ~」


突然聞こえた逆巻の声にびくりとする。

しばらく息を潜めて待ってみるけど、続きは聞こえなかった。

恐る恐る覗いてみる。逆巻は腹をボリボリ掻いて、大胆に布団からはみ出した寝姿で寝息を立てていた。


安堵のため息をついて、要の身体をそっと押し返す。


「ばか、長すぎだって」


「……ごめん。おやすみ」


やけに寂しそうな声がして、要が寝返りを打って俺に背を向ける。

要が俺に背を向けて寝るなんて、初めてのことだ。少し冷たくしすぎただろうか。

若干の反省をしつつ、疲労と倦怠感で意識がぼんやりしてくる。俺もすぐに目を閉じた。


翌朝、俺と要が起きても、逆巻は布団を蹴飛ばしたまま爆睡していた。よっぽど疲れていたのだろう。

まだ寝てる逆巻を起こさないように朝の支度をして、テーブルの上に朝食と「学校に行ってくる」とメモを置いて、俺達は学校へと向かった。



昼休み。要のテンションは、昨日の夜から引き続き低かった。

いつも自分から色々話しかけてくるのに、隣に座って無言でサンドイッチをかじっている。


やっぱり昨晩一緒にゲームできなかったことと、キスを少し拒否してしまったこと、まだ怒ってるのだろうか。

キスを拒否してしまったことは解決できないけど、ゲームの方は今日にでも解決できる。意を決した俺は、沈黙を破って問いかけた。


「なあ、要」


「なに?」


「協力者は多い方がいいだろ。犯人をどうにかするまで、逆巻をウチに泊めてやるってのはどうだ?」


「は?」


要は信じられないと言いたげな顔で俺を見ていた。

思ってなかった反応に、あれ? となりながら、俺は続けた。


「ほら、逆巻って柄は悪いけど、根は悪いやつじゃないって感じするだろ? それに、要と対等にやり合えるくらい強いみたいだし、連続殺人事件の協力、頼んだらオッケーしてくれそうかなって……要も逆巻と戦う時、あいつにそういう条件出してただろ?」


「なんで? 素直には俺がいるでしょ? 俺だけじゃ駄目なの?」


要がずいと身を寄せ、俺の顔を覗き込んでくる。

どうしたんだろう。こういう時、いつもの要ならもっと論理的に否定してくるんだけど……。


「協力してもらうのは構わないよ。俺だって人手は多いほうが良いって理解してる。でも、わざわざ泊めてやる必要までは無いでしょ。素直、俺が泊まるって伝えた時、ワンルームで狭いからってやんわり言ってたじゃん」


「それは、そうだけど……」


じっと俺だけを見つめる瞳から目をそらし、言い淀んでると、要は追撃するように言葉を続けた。


「それに、あいつが俺達を裏切る可能性だってある。俺が戦う前に協力を仰いだのは、戦って勝ってから、俺の治す力で『強制的に従わせよう』としたからだ。だから素直のその提案には、俺は簡単に首を縦には振れない。納得できる理由……ちゃんと教えてよ」

本作は【火・木・土】更新予定です。


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