第19話 夜道の乱入者
「改めて、本日の聴取を担当させてもらう雨宮です。まずは君たちの名前を教えてくれるかな?」
「俺は──」
「僕は神宮寺要、この子は空木素直です」
俺が答える前に要が即答する。雨宮さんは気圧されたように苦笑いした。
「神宮寺くんと空木くんだね……遺体を発見した時のお話、詳しく聞かせてくれるかな?」
雨宮さんはメモを取りながら問いかける。そう言われても、どう答えればいいのか分からなかった。
だってさっき殺人現場で、他の警官に同じことを散々聞かれて、嫌というほど答えたのだ。
まだ新しい情報が必要なのか? それとも……俺達を疑ってるのか?
「俺達は、普通にコンビニ行こうとして、それで……」
言い淀んで要を見る。するとそれに気づいた要が雨宮さんを睨む。
雨宮さんは慌てたように言った。
「あっ、別に君たちを疑ってるわけじゃないんだっ! 第一発見者にはこうやって話を聞くっていう流れになっててさ?」
「話も何もありません。さっき言った通りですよ。コンビニに行く途中で、偶然死体を見つけたんです。それで通報した。それ以上話すことは何もありません」
「……えーと」
要の圧に負けたように雨宮さんが視線を彷徨わせ、俺を見る。
「空木くんはどうかな? 現場を見て気づいたこととか、去っていく人影を見たとかさ」
話の矛先を向けられた俺は、緊張した面持ちで答える。
「俺は……特には無いです」
「なんでもいいんだ。些細なことでも全然。ちょっとしたことが、犯人逮捕のきっかけに繋がるかもしれないし──」
「無いって言ってる。そうだろ? 素直」
要が俺に視線を投げかけながら、机の下で手を握る。その手を握り返して、俺は頷いた。
「素直は死体を見たせいでショックを受けてるんです。これ以上詮索しないであげてください。質問があるなら、すべて僕に」
「えーと……二人は、ずいぶん仲がいいんだね?」
「幼なじみですから」
要がそう答えると、雨宮さんは諦めたようだ。
簡単な状況説明を終えると、俺達は早々に解放された。
「心配だから家まで送るよ」と雨宮さんに言われたけど、「近いですから」と要が丁重に断り、俺達は帰路を歩いていた。
なんとなく、手を繋いだまま歩く。要がずっと俺を見ている気配がしていた。
「素直、大丈夫?」
気遣うような問いかけに、俺は頷く。要はやわらかい声色で続けた。
「アイス買いそびれちゃったね。別のコンビニ行く?」
「いや、さすがにもう食欲ねえよ……あんなの見ちゃったんだからさ」
「そうだよね? ……ごめん」
ふと立ち止まると、要も立ち止まる。要が俺の顔を覗き込んだ。
「素直?」
「あれさ、あんな心臓だけくり抜くようなやり方。絶対例の連続殺人事件の犯人のしわざだよな?」
確信を突くと、要は真剣な顔で頷く。
「だろうね。こないだは隣町。次はこんな近所に現れた。偶然かもしれないけど、明らかに行動範囲が俺達に近づいてる」
「……バレてんのかな。俺達の居場所」
不安をこめてぽつりと呟く。すると要は意を決したように口を開いた。
「これは噂程度の話で確証は無いんだけど、能力者だけで構成された組織があるらしいんだ。目的は不明だけど、そいつらは能力者の心臓を集めてるらしい。こないだ襲ってきた男がその組織からの刺客だとしたら、あいつが俺達の居場所を組織に伝えてる可能性は大いにある」
「道也が、俺達の居場所を?」
名前を呼んだ時にこちらを見た弱々しい瞳を思い出す。
あいつの過去が色々見えたけど、全てが見えたわけじゃない。
そんな事しない奴だって信じたいけど、確証はない。
思考に浸っていると、ふと抱きしめられる。顔を上げると、要が気遣うような目で俺を見つめていた。
「大丈夫だよ。素直は絶対、俺が守るから」
「……かなめ」
「えらい遅かったなぁ。待ちくたびれたわ」
「「っ!?」」
暗がりから声がして俺達は身体を離す。声の主が姿を現し、こちらを得意げに見た。
「よお、神宮寺」
「……お前は」
要が驚いたように呟く。俺も引っかかりを覚えて、じっと目を凝らした。
なんかこいつ、見覚えがある。
金髪、ひどく着崩した制服のヤンキー。こちらを見る三白眼。思い至って、指さして声を上げた。
「お前、こないだのっ!」
「素直、逆巻のこと知ってるの?」
「こないだお前んちの前で会うたんや。なあ中坊?」
「俺は中坊じゃないっ! 高校生だ! つーか要こそ、なんでこいつの名前知ってんだ?」
「こないだ言ったでしょ。『頼る当てがある』って、あれ、逆巻のことだったんだ」
「え?」
驚いて改めてヤンキーを見る。
ってことは、こいつも能力者ってことか?
「逆巻、何しに来たんだ」
「そうカリカリすんなや神宮寺。わざわざ大阪から出向いたったんやで? あっちおったら腕がなまってしゃーないんや。かるーい運動、付き合ってくれや」
逆巻の左手に白い光が現れ。バットの形に変わる。
バットの先を俺達に差し向け、逆巻が挑発するように言った。
「やろうや神宮寺。そこの中坊と2対1でもええで? 俺は絶対負けへんからな」
「……要」
判断がつかず、要を見上げる。要は逡巡した後、答えた。
「条件をつけてもいいなら、受けて立つ」
「条件?」
「俺が勝ったら、連続殺人事件の犯人を突き止めることに協力してもらう」
逆巻が頭の後ろで腕を組み、何かを探るように目を細めて要を見る。
そして「ハッ」と鼻で笑ってから答えた。
「なんや、探偵ごっこか。ええで。まっその協力ってのは叶わん夢やろけどな。だって俺は絶対誰にも負けへん。そこの中坊もまとめて──再起不能なくらいコテンパンにしたるわ」




