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第16話 独占欲と恋人繋ぎ

「え? マジじゃんやばっ! あり得んくらいイケメンっ! 芸能人!?」


きゃあきゃあとこっちを見ながら、二人で騒いでいる。

ふと周囲を見渡すと、周りの女の人が、みんな要を見ていた。


明らかに色めき立っていて、熱のある好意的な視線だ。


「素直、次何見る? 二人で暮らすならさ、食器も増やしたほうがいいかな?」


「へ? あー……うん。そうかもな」


要はすっかり慣れっこみたいで、気にする様子もなく俺との会話に集中している。

キッチン用品店に入ろうとしたその時──。


「あ、あのっ」


ついに声を掛けられた。艶のある黒髪ロング。雪みたいに白い肌。ぱっちりとした大きな瞳。抜群のスタイル。

まるでモデルみたいな、とびきり可愛い女子だった。


女の子が顔を真っ赤にしながら要をちらちらと見上げ、まるでラブレターでも渡すみたいに、スマホを差し出してきた。


「あのっお兄さんとっても素敵です。よかったら……インステ交換してくれませんか!?」


要は女子を見下ろし、困ったような笑顔を浮かべていた。


「僕、そういうのやってないので」


「じゃああのっ……ライムIDだけでも受け取ってくださいっ!」


女子は慌てたように鞄から可愛らしいメモ帳を出し、サラサラと書いた紙を千切って差し出した。

要はそれを一瞥し、何故か踵を返した。


「行こう、素直」


「えっ」


要は背を向けて歩き出す。俺は困惑したままそれについていくしか無かった。

ちらりと女の子を振り返る。メモ用紙を手にしたまま、呆然と要の背を見つめていた。


「要、あの子……いいのかよ?」


「いいから行こ。こないだ言ってたでしょ? 新しいスニーカー、素直に選んでほしいんだ」


要は一切女子を振り返ることなく、俺に笑顔を向ける。


「……わかった」


背中に視線が突き刺さる。

気まずくて振り返らないまま、俺は要の隣を歩くしかなかった。


今の、完全に無視したよな。

ちょっとしつこかったとはいえ、さすがにやりすぎじゃ。


要を見上げる。やっぱり女子のことを気にすることもなく、いつも通りの緩い笑みを浮かべていた。


「おい、要」


「なに?」


「さっきの、いくらなんでも冷たすぎじゃないか?」


「逆だよ。あれくらいしてあげた方がいい。興味ない人に期待させちゃ、可哀想でしょ」


「それは……確かにそうか」


そうか。あれはきっと、要なりの優しさだったんだ。

好意を抱かれてる相手を拒絶しなきゃいけないってのも、けっこう大変だよな。

あんな可愛い子に告られたら、俺だったら舞い上がってしまうのに。


俺と要にもいつか、彼女とか出来るのかな。

……いや、要には出来るかもしれないけど、俺には彼女なんて無理だな。


仮に付き合えたとしても、すぐに別れることになるに決まってる。

だって、肉親ですら一緒にいられないんだし。


やっぱり、俺の傍にいられるのは、要だけなんだ。


「俺、素直がいたらそれでいいよ。素直といるのが、一番楽しい」


素直だってそうでしょ?


要がゆるい笑みを浮かべて問いかけてくる。釈然としないまま、俺はそれに頷いた。


要は他を選ぼうと思えばいくらでも選択肢がある。でも俺には、要しかいない。

もし要が俺から離れる選択をしたら、俺はまた一人に戻るのか?


要が俺から離れていくなんて、そんなの、耐えられない。


「要」


「なに? 素直」


「今日の晩飯さ。肉じゃがにしてやるよ」


「肉じゃが!? 俺、素直の作る肉じゃが世界一好きっ!」


やったー! と要が無邪気に喜ぶ。

その笑顔を見て、俺は内心そっと胸を撫で下ろした。



その後も要は他の女の子やスカウトに何度も声を掛けられ、その度に塩対応を繰り返していた。

歩くたびに誰かに呼び止められるせいで、まともに買い物もできない。隣を歩いてる俺まで疲れてきた。


「はぁ……人気者も大変だな」


「そうだ。素直、手繋がない?」


「え?」


返事をする前に手を握られる。要はほっとしたように、少しだけ力を込めてきた。


「素直も声掛けられるの面倒くさいでしょ? こうしていれば、さすがに声掛けてこないよ」


「それはまあ、そうかもだけど」


周囲をちらりと見る。当然のごとく、みんなに見られていた。


「うーん。どうせなら、繋ぎ方もちゃんとした方がいいよね」


言葉とともに、するりと指が絡んできて、手のひらを合わせるようにして握られる。

あれ? これ……いわゆる恋人繋ぎってやつじゃないか?


「ちょっかなめ!」


「素直、こういうの嫌?」


懇願する犬みたいな顔で要が俺を見つめる。首を横に振り、俺も手を握り返した。


「いい。これで行こう」


「へへ、ありがと」


要は安心したように表情を崩し、しっかりと俺の手を握る。

繋いだ手から伝わる体温は、妙に心地よく思えた。



その後、俺達はわざと顔を近づけて話したり、恋人繋ぎで歩いたり、必要以上に身を寄せて過ごした。

周囲の視線は相変わらずだったけど、さすがに何かを察したみたいで、全く話しかけられなくなった。


色々見て、買い物が済んで、フードコートでアイスでも食べてから帰ろうかと話していると──。


「おにーさん大学生? 僕、こういう者なんですけど、少しお時間頂いてもいいかな?」


いかにも業界人っぽい派手なスーツの男が名刺を差し出してくる。

要は愛想笑いすら浮かべず、ぶっきらぼうに答えた。


「そういうの、間に合ってます」


「あ、もしかして他の事務所に所属しちゃってる? どこ? 移籍の相談乗るよ。うちの方が絶対大手だから!」


空気を読まずぐいぐい来る男に、要はあからさまに顔をしかめる。

まずい。要、そろそろ限界っぽいな。


俺は二人の間に割り込み、自分ができる精一杯の愛想笑いを浮かべた。


「あの~実は俺達、急いでて──」


「あ、キミ弟さん? 中学生くらいかな? よかったら君も一緒にご飯でもどう? 何食べたい? シースー? 焼き肉? どこでも連れてくよ!」


「なっ!?」


さっき金髪ヤンキーにも中坊に間違われたばかりだ。

昔から年下に見られる事が多かったから、自分が童顔だってことは自覚してるけど……腹立つな。


睨みつけていると、業界人が上から下へと視線を動かし、まじまじと俺を見る。


「へぇ~よく見たら君もかなり可愛いねえ。どう? 二人でユニット組んでデビューしない? もし了承してくれるなら、すぐにプロデューサーに相談を──」


「結構です」


「おわっ!?」


要が俺の手を強引に引く。つんのめりそうになりながら俺は要について歩き出した。


背後で「せめて名刺だけでも!」と声が聞こえていたが、要は当然のごとく、ずんずんと足を早める。


「なんか、疲れたね」


ため息まじりに要が呟く。俺はそれに頷いた。


「帰ろっか」


その一言で、俺達の買い物は呆気なく終わった。

本作は【火・木・土】更新予定です。


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