第九十三話 近づける時
朝の通学路。
琴葉は、相変わらず軽い足取りで歩いている。
腕をぶんぶん振りながら、半歩先。
琴葉「今日さ!
数学あるんだよな!!」
敦「いきなり現実突きつけてくるな」
琴葉「え、現実大事だろ!
昨日が幸せでもテストは来る!!」
敦「その切り替えの早さなんなんだよ……」
琴葉はケラケラ笑う。
その横で、敦は——
視線だけで、距離を測っていた。
敦(……今日は、人多いな)
前も後ろも、登校中の生徒だらけ。
敦(この距離じゃ……)
敦(触れたら、絶対バレる)
無意識に、歩幅を合わせるだけに留める。
琴葉「ん?」
琴葉が、急に振り返る。
琴葉「なんだよ?
さっきからチラチラ見て」
敦「……見てない」
琴葉「嘘だな!?
今、完全に俺の顔見ただろ!」
敦「前見ろ、前!」
琴葉「えー?」
琴葉は首をかしげながらも、
すぐに前を向く。
そのまま、何事もなかったみたいに歩き出す。
——でも。
琴葉は、少しだけ歩調を落とした。
敦
敦(追求、してこない)
気づいてはいる。
でも、踏み込まない。
敦(……優しいな)
琴葉「ま、いっか!」
琴葉「……あ、でも」
琴葉「昼メシは一緒な!」
敦「そこは譲らないんだな」
琴葉「おぅ!今日も一日、元気にいこうぜ敦!」
敦「……お前は元気すぎ」
琴葉「それ褒め言葉だろ!」
敦は小さく息を吐いて、笑った。
敦(テンションは高いまま)
敦(距離は、いつも通り)
敦
理由は、考えない。
考え始めたら、また夜になる。
琴葉は、何も考えていない顔で、
楽しそうに歩いている。
校門が近づく。
琴葉「よし!
今日も頑張ろうぜ!」
敦「……おう」
並んで歩く二人。
距離はよそ行き。
空気は、ちゃんと明るい朝。
敦だけが、
その明るさを、
少しだけ大事に抱えていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今じゃないだけです。




