第九十話 普通の顔して普通じゃない
教室。
朝のざわつき。
席につく生徒たち。
ガラッ。
琴葉、入室。
琴葉「おはよーございまーーーす!!!」
A「声!!」
B「朝一でテンション最終回迎えてるやつだ!」
琴葉「迎えてない!まだ序章!!」
敦「序章でこれなら最終章壁壊れるだろ」
笑いが起きる。
琴葉は何事もなかったように——
自分の席へ……行かない。
なぜか、敦の机の横で止まる。
敦(……ん?)
琴葉、ぐいっと身を乗り出す。
琴葉「敦!」
敦「近い近い近い!!」
A「お?」
B「おや?」
琴葉「お前、消しゴム落としてたぞ!」
敦「それ俺の机の上!!」
琴葉「ほんとだ!!じゃあ近づいた意味ゼロだな!!」
敦「自覚しろ!!」
クラスに笑いが広がる。
A「今日の距離感どうなってんだ?」
B「バグってね?」
琴葉「距離?普通だろ?」
敦(普通じゃない)
琴葉は、ようやく自分の席へ戻ろうとして——
前屈みになった、その瞬間。
コツン。
敦の背中に、
琴葉の額が、ほんの軽く当たる。
敦「……っ」
一瞬。
琴葉、ピタッと止まる。
琴葉「……あ」
A「今の当たった?」
B「今のは……」
琴葉は、0.5秒だけ考えてから、
琴葉「……おはよう二回目!!」
敦「誤魔化し方が雑すぎる!!」
A「いや今の絶対——」
B「無意識だろ、逆に怖いわ」
琴葉「え?当たった?」
敦「当たった」
琴葉「ごめん!!」
即答。
素直。
そして、それ以上は近づかない。
琴葉は、何事もなかったように
近くのクラスメイトと話し出す。
琴葉「でさ、それ絶対おかしいだろ!」
クラスメイト「いやお前の理論の方がおかしい」
B「朝から元気だな!」
距離は、完全に外用。
声も、動きも、いつも通り。
——でも。
敦は、気づいていた。
話している相手じゃなく、
なぜか一瞬だけ、
琴葉の視線がこちらを確認する癖。
一瞬。
ほんの一瞬。
すぐ話題に戻る。
誰も気づかない程度。
その敦はというと。
席に座り、ノートを出しながら、
何も言わずに、その視線を受け取っている。
受け取って、
何も返さない。
(来たな)
内心だけで思う。
(今の“確認”)
琴葉は無意識だ。
距離を保ったまま、
ちゃんと“中にいる人間”を探している。
敦(……外では、こうなんだ)
ガラッ。
先生「席つけー」
琴葉「はいっ!」
敦「反射神経だけは全国レベルだな!!」
クラスがまた笑う。
着席後。
琴葉は、何も考えていない顔で
ノートを開いている。
距離は、いつも通り。
態度も、いつも通り。
——と思った、その時。
琴葉「なぁ敦」
敦「まだ何かあるのか」
琴葉「消しゴム、今度こそ落とした」
敦「今度は本物かよ!!」
琴葉「な?」
敦「得意げな顔すんな!!」
——完全に、いつもの教室。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
無意識は隠せません。




