第九話 理由は分からないけど残る
その後、敦のツッコミは特に回収されることもなく、いつものように流された。
そして放課後。
琴葉「……あ」
前の席の敦が振り向く。
敦「ん?」
琴葉は少しだけ困った顔で、手元を持ち上げた。
琴葉「……折れた」
敦「何が」
琴葉「シャーペン」
差し出されたそれは、きれいに真っ二つだった。
敦「どうしたらそうなるんだよ……ほら」
自分のペンを渡す。
琴葉「じゃ、借りる」
受け取った瞬間――
シャッシャッシャッ。
敦「速っ!?」
ノート半ページが一気に埋まる。
敦「待て待て待て!!
俺のペンで筆圧テストしてんの!?」
琴葉は真顔のまま手を止めない。
琴葉「性能確認」
敦「メーカー目線やめろ!!」
ペン先が止まらない。
線は滑らかで、やけに整っている。
敦「……なにそれ。
俺のペンの方が馴染んでない?
ちょっと嬉しいんだけど」
琴葉の目が、きらっとする。
琴葉「手に吸いつく感じする。敦のペン」
敦「言い方!!
奇跡的に照れる言い方やめろ!!」
周りで小さく笑い声が起きる。
教室には、柔らかい空気と、シャッシャッという音だけが残った。
——気づけば。
二人はもう、帰り道を歩いている。
傾いた日差し。
長く伸びる影。
ふと見ると、琴葉の肩に芝生のカスと土埃がごっそり付いていた。
敦「……」
無言で手を伸ばし、払う。
琴葉は気にないまま、前を見ている。
琴葉「……今日も、いろいろ迷惑かけたな」
敦「知ってる。
拾ったり支えたり、全部俺」
琴葉「……ありがと」
その一言で、
敦の手が一瞬止まる。
敦「……ん?」
琴葉は敦を見て笑う。
琴葉「じゃ、次もよろしくな」
敦「次?」
琴葉「明日もシャーペン貸して」
敦「……まぁ、いいけど」
少し歩いてから、敦は首をかしげる。
敦(……今の)
敦(ただのペンの話だよな)
夕方の空気が、二人の間を抜ける。
敦
敦(残るな……)
理由は分からないまま、
二人は並んで歩き続けた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
名前のつかない感覚ほど、消えずに残ります。




