第十話 違和感が“当たり前に変わる”瞬間
翌日、朝。
敦が席に座るより早く。
琴葉「敦」
後ろから声。
敦「……早ぇな」
琴葉は手を差し出していた。
琴葉「シャーペン」
敦「単語で成立させんな」
琴葉「昨日言ってたじゃん」
敦「あー……」
――明日もシャーペン貸して。
昨日の帰り道が一瞬よぎる。
敦「……まぁ、いいけど」
筆箱を開けて渡す。
琴葉「助かる」
そのまま自席に戻り、即書き始める。
シャッシャッシャッ。
敦「朝から全開だな……」
何気なく自分の筆箱を閉じようとして、
止まる。
敦「……ん?」
一本、知らないシャーペン。
敦「……誰のだこれ」
軽い。色違い。記憶にない。
後ろから声。
琴葉「それ俺の」
敦「いつ入れた!?」
琴葉「さっき」
敦「気づかねぇわ!!」
琴葉は書き続ける。
シャッシャッシャッ。
敦「なんで入れたんだよ!」
琴葉「貸りっぱなし悪いかなって」
敦「律儀な方向がおかしい!」
琴葉「予備」
敦「説明が短ぇ!!」
周囲から小さな笑い。
敦はシャーペンを持ち上げる。
敦「……じゃあこれ俺使うの?」
琴葉「うん」
敦「決定事項!?」
琴葉「友情装備」
敦「RPG化すんな!!」
シャッシャッシャッ。
敦はしばらく固まり、
観念したようにノックする。
カチ、カチ。
敦「……書きやす」
琴葉「だろ」
敦「共有前提で設計すんな!!」
チャイムが鳴る。
先生が入ってくる。
琴葉は当然のように敦のシャーペンでノートを開き、
敦は琴葉のシャーペンを握っていた。
敦「……なんで違和感ないんだよこれ」
琴葉「便利だから」
敦「生活に入り込んでくんな!!」
授業開始。
教室はいつも通り。
ただ敦の筆箱だけ、
静かに共同管理になっていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
当たり前になると、境界はだいたい消えます。




