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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第八十六話 祝福の意味を知る


喫茶店の奥。


昼のピークを過ぎ、ジャズだけが静かに流れている。


敦は背筋を伸ばし、膝の上で手を握っていた。


向かいには、琴葉の父と母。


しばしの沈黙の後。


敦「……今日は、ありがとうございます。急に呼び出してすみません」


琴葉父「構わないよ」


短い返事。


だが、拒まれていないことだけは、はっきり伝わってきた。


敦は一度、視線を落とす。


敦「俺……琴葉に、ちゃんと、告白しようと思ってます」


母の表情がわずかに和らぐ。覚悟を確認するような目だった。


敦「その前に……どうしても、聞いておきたくて」


顔を上げ、逃げずに二人を見る。


敦「祝福って……なんなんですか」


声は低い。


自分でも驚くほど、感情を抑えていた。


敦「琴葉は……あれを、怖がってる。

 苦しそうで、嫌がってて……

 それでも起きる“変化”を、祝福って呼ぶのが

 ……正直、分からなくて」


母はすぐに答えず、

カップに手を添え、少し考える。


琴葉母「……断言できる話じゃないの」


琴葉母「……ただ、文献や私たちの観察から、そう考えられるというだけ」


敦「……」


琴葉母「女型になるのはね、強制じゃない。

 誰かに決められて起きるものでもないって、記録には書かれているわ」


父が静かに言葉を継ぐ。


琴葉父「祝福は、“選択の代行”ではなく、

 “選択を後押しする現象”に近い 

 ……そう表現されている」


敦は拳を握る。


敦(後押し……?

 あんなに、苦しそうなのに……)


母は続ける。


琴葉母「琴葉自身が、はっきり望んでいるかどうかは……正直、分からない」


父が、ゆっくり頷く。


琴葉父「女型は“自己許可の結果”だと解釈する先人もいる」


敦「……自己許可……」


琴葉父「“こう在ってもいい”と、ようやく自分に許した形、という意味だ」


敦は俯く。


敦(嫌がってるのに……

 それでも、心のどこかで、手を伸ばしてる……?)


敦「……じゃあ、琴葉が怖がってるのは……」


母は、微笑む。


琴葉母「変わりたい気持ちと、

 変わってしまうことへの恐怖。

 その両方があるんでしょうね」


コーヒーの表面が、かすかに揺れる。


父は言葉を選ぶように、一拍置いた。


琴葉父「祝福が強く働いた場合、

 周囲の認識や記憶が“最初から自然だった形”に整理されることがある……とされている」


敦の指先が、わずかに震える。


琴葉父「だが、それを君が背負う必要はない」


母が、静かに補足する。


琴葉母「私たち家族は、祝福の影響を受けにくい立場にいる。

 それは、琴葉を守るための仕組みだと考えられているの」


敦は、胸の奥がざわつくのを感じた。


敦(守る……?じゃあ、俺は……)


父は続ける。


琴葉父「恋をしたから性別が変わるわけではない。そういう変化が“起こり得る血筋”だ、というだけだ」


母は静かに頷く。


琴葉母「女型で落ち着くなら……それが琴葉にとって、生きやすい形なんでしょう」


琴葉父「……琴葉を、想ってくれていることは、伝わっている」


敦の喉が、詰まる。


敦「……俺は、祝福が憎かった。

 琴葉を壊すものだって……思ってました」


父は、否定も肯定もせず、首をわずかに振る。


琴葉父「祝福は、環境を整えるだけの現象だ。

 どう生きるかを決めるのは、いつも本人だと……文献にはある」


母が、敦を見る。


琴葉母「だからね、敦君。

 琴葉が女型になるとしても……それは祝福の命令じゃない。琴葉自身が、迷いながら選んだ結果よ」


敦は深く息を吐く。


怒りや恐怖は少しずつ形を変えて沈んでいく



敦「……じゃあ、俺は……」


声が、少しだけ震れる。


敦「俺は……どこに、立てばいいんですか」


父は、考えるように一拍置いてから、答えた。


琴葉父「答えは一つじゃない」


母が、そっと言う。


琴葉母「でも……琴葉が“選び続ける”なら、

 その隣に立とうとする人がいることは

 ……救いになると思う」


敦は、ゆっくり顔を上げた。


――告白は、想いを伝えるだけじゃない。


琴葉が迷い、選び続けることを、

それでも隣で見届ける覚悟なんだ。


胸の奥で、静かに、だが確かに、何かが定まっていく。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


知らないままでは進めません。

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