第八十四話 静かに伝える予定だった
放課後の校庭裏。
敦は深呼吸をし、心を落ち着かせる。
琴葉を思い浮かべる。
静かに告白を心に決める。
敦
そのタイミングで敦の携帯が鳴る。
敦は呼び出される──琴葉父に。
琴葉父「敦くん。男の修業の続きをやる。」
敦「またですか!?告白前なんですけど!?」
琴葉父「告白“前”だからこそ鍛える。よいな?」
琴葉父は竹刀を背負って、まるで風の中の武士。
すでに説得は不可能だった。
琴葉父「まずは発声!腹から声を出せ!!」
敦「普通の声で言わせてぇぇ!!」
だが無情にも訓練は始まる。
敦「好ォォきだァァァーー!!!」
琴葉父「もっと気迫を!!」
敦「好きだあああああ!!!」
声量のせいで鳩バサッ!!校庭飛び立つ。
後方では敦母がポテチを抱えながら、
ひそひそ声で琴葉母に話していた。
敦母「うちの子、また喉枯らすわねぇ……。あ、ポテチ食べる?」
琴葉母「いただくわ〜。あら、この味新作?」
敦母「うん、“青春の塩味”って書いてあるのよ」
琴葉母「ダサッ!」
(マジで気になるですけど!?)
と敦が振り返るたびに
二人の母は “見てませんよ〜” みたいな顔でポテチをつまむ。
そしてそこへ、ゆったり歩いてくる敦父。
敦父「敦、はい。のど飴」
敦「今っ!?」
敦父は真顔のままうなずく。
敦父「声は資本だ。告白の瞬間に枯れたら困るだろう?……3個持ってけ」
敦「なんで個数増やすの!?俺の喉そんな心配!?」
全部筒抜けである。
ーーーーーーー
その少し離れた階段下。
男型琴葉が、ひとりポケットに手をつっこみながら待っていた。
琴葉(なんか
……親がいっぱい居た気がしたけど
……いや気のせいだよな……?)
ソワソワ落ち着かない。
琴葉(……敦、最近ちょっと変。俺……何かしたっけ?)
胸の奥に、理由のわからないざわつきが残る。
指先で唇をつまむ。
ーーーーーーー
そして、修業の末に声がガラガラになった敦がやってくる。
敦「こ、琴葉!!(ガラッ)」
琴葉「いや声枯れてるじゃん!!なんでその状態で来た!?」
敦「こ、告白の……ために……(息切れ)」
琴葉「告白って言うなよ本人目の前で!?」
後方──
敦母「しっ!うちの子が告白中なんだから静かに……あっ、ポテチ落とした」
バササッ
琴葉母「ちょっと!青春の塩味が散ったじゃない!」
敦父「もったいない……拾って食べれるか?」
敦母「やめて衛生的に!!」
うるさッ!!
敦「親御さんたち静かにしてぇぇぇーーー!!」
琴葉父も影から腕を組んで見守る。
琴葉父「……恋はな。一撃で届く時がある」
敦(分かってる……)
敦は息を整える。
敦(落ち着け……ちゃんと言うって決めただろ)
頭の中で、
何度も練習した言葉をなぞる。
静かに。
普通に。
ちゃんと伝える。
――そのはずだった。
視線を上げる。
琴葉が、
少し不安そうに唇を触っている。
敦(この癖……好きだな……俺……)
胸がぎゅっとなる。
さっきまでの訓練の余韻と、
目の前の琴葉の表情が、
頭の中でぐちゃっと混ざった。
次の瞬間。
整えていた言葉が全部飛んだ。
口が、
勝手に開く。
止める前に、出た。
敦「琴葉ァァァ……!!
お前が……好きだァァァ!!」
琴葉「いや声ガラッガラじゃん!!なんでそんな状態で叫ぶの!?なんでこの姿の時に言うのぉぉーー!!?」
敦母、のど飴両手で号泣!!
敦母「ほらぁぁ喉枯らすって言ったじゃないのぉぉ!!青春がァァ!!」
琴葉父「……声は枯れたか。だが、逃げなかったな」
敦「だから評価すんなぁぁ!!」
周りはわちゃわちゃ。
――なのに。
琴葉だけ、少し遅れて黙る。
さっきの言葉が、
頭の中で妙に静かに残っていた。
『待たせた』
……そんな顔してた。
叫んでたのに。
変に必死で、
逃げ場なくて、
まっすぐで。
胸の奥が、きゅっと縮む。
琴葉
敦「いや返事!!返事ちょうだい!!」
気づいた瞬間、
耳まで熱が上がる。
琴葉「……そんな大声で言われたら、俺も……好きって言うしかないだろ。バカ」
とぽつり。
敦母「キャーーッ!尊い!!」
敦父「青春だな……(のど飴追加3個)」
琴葉母「……あらやだ。ちゃんと捕まえてくれる子じゃない」
琴葉父「……もう、私の出る幕ではないな」
敦「いやさっきまでガッツリ出てましたよね!?」
でも笑っている。
そして琴葉も、照れながら笑った。
その“照れ隠しに地面つつく癖”が再発し、
足元の砂をカリッ──
敦の心臓が爆発する。
敦(また出た……!その仕草反則だろ……!)
親フル装備の大混乱の中で、
それでもちゃんと心は届いた。
青春は、こんなにも騒がしい。
放課後の帰り道。
夕日が校舎の影を長く伸ばす中、二人は無言で歩いていた。
さっきの外での告白の大騒ぎを引きずりながらも、心の奥では幸せがじんわり広がっている。
琴葉(顔赤ッ……夕日……ごまかせ)
敦は横で少し照れくさそうに笑う。
敦「琴葉……ちょっと照れてるの、バレバレだぞ」
琴葉「誰だって大声で好きだって叫ばれたら、照れるだろっ!」
歩くペースは自然と揃い、距離もいつものまま。
夕日に照らされ、影が長く伸びる。
少しだけ沈黙。
敦「……なぁ」
琴葉「ん?」
敦は前を見たまま、小さく息を吐く。
敦「……待たせて、ごめん」
琴葉「?」
首をかしげる。
琴葉「……え、なにが?」
敦「……いや、その……待ち合わせ場所に行くの遅かっただろ?」
少し言葉を探して、視線を逸らす。
琴葉は一瞬考えて――
琴葉「あー……あれ?」
軽く笑った。
琴葉「別に待ってないけど」
敦「は?」
琴葉「だって来るって分かってたし」
当たり前みたいな声。
琴葉「だから“待つ”って感じじゃなかったな」
敦「……」
一歩、足が止まりそうになる。
けれど敦は何も言わず、また歩き出す。
琴葉「むしろ砂の観察してただけ」
敦「それ待ってるのと同じだろ!!」
琴葉「いや〜でも砂が“敦くん来る”って教えてくれたし」
敦「いや意味わかんねぇよ!!」
笑い声が少し混ざる。
夕日の光がふたりの背中を包む。
琴葉「……隣、落ち着く」
敦「……知ってる」
ちょっと照れくさくて、でも穏やかで。
安心する帰り道だった――
――その頃。
ファミレスの一角で、
「尊い」
「尊いわね」
「尊いな」
とだけ繰り返す四人がいた。
(※全員ソフトドリンク)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
計画はだいたい崩れます。




