第八十三話 三秒が精一杯
放課後。
一日中落ち着かなかった琴葉はとうとう限界を迎え、帰りのチャイムと同時に教室から脱兎のごとく飛び出す。
敦「おい、逃げるな!」
琴葉「逃げてない!!下校速度を高めただけ!!」
敦「それを“逃げてる”って言うんだよ!」
追いかけて隣に並ぶと、琴葉は一瞬ちらっと見て
──すぐ目をそらす。
琴葉「……今日ずっとダメだ……なんで俺こんな……」
敦「俺が隣にいるからだろ?」
琴葉「言うなぁぁぁ!!」
敦は苦笑し、歩調を少しゆっくりにした。
琴葉と話したいと思った行動だった。
しばらく無言で歩いた後──琴葉の肩の力が、すこし抜ける。
琴葉「……はぁ。なんか……やっと呼吸できる……」
敦「落ち着いた?」
琴葉「いや……敦が……さっきより“普通の敦”になったから……」
敦「どんな評価だよ」
琴葉「今日ずっと、耐久テストだった……」
敦「……じゃあ、今は?」
琴葉「……三秒なら耐えられる……かも」
敦「ほら」
声は、昨日よりずっと普通だった。
必要以上に近づかず琴葉を促す。
琴葉は一瞬固まったが──ゆっくり視線を合わせる。
1秒
2秒
3秒
琴葉「──ムリ!!!!」
顔を覆ってうずくまる。
敦「よし、三秒は達成」
琴葉「もう少し労われ!」
帰り道の分岐で、敦が歩みを止める。
琴葉「な、なんだよ……」
敦はゆっくり顔を寄せ、少し低く呼ぶ。
敦「……琴葉」
琴葉「ッッッ!!?」
その瞬間、琴葉はまたしゃがみ込み、顔を覆った手が震える。
琴葉「むり……今日もやばい……名前そんな声で呼ばれたら死ぬ……」
敦「琴葉。こっち見ろ」
琴葉「無理ぃぃぃぃ!!!」
敦「見ろって」
琴葉「み、見れねぇよぉぉ……!」
敦「じゃあ、見るまで待つ」
琴葉「待つなぁぁぁぁ!!」
だけど結局ーー琴葉はゆっくり顔を上げる。
敦「……かわいい」
琴葉「ぎゃああああああ!!!!」
琴葉とはうらはらに敦の胸に残ったのは、
言ってしまった言葉の重さだけだった。
その沈黙が、やけに長く感じた──
胸の奥が決まったように “コトン” と鳴った。
敦(……もうすぐ、言う)
告白の直前の空気は、もう、そこまで来ている。
一方琴葉はーー
琴葉「あああああああああああーーー!!!!!(今だ悶絶中)」
琴葉(無理……今日もやばい……近々なんか起こる……絶対……)
ここまで読んでいただきありがとうございます。
限界はとっくに過ぎてます。




