第八十二話 意識した時点で負け
翌朝──
玄関前で落ち合った敦と琴葉。
琴葉はすでに「普通モード」の顔を作っていた……つもりだった。
敦「おはよ、琴葉」
琴葉「っ……お……は、よ……ッ」
声が裏返る。
敦(あ、ダメそうだな今日のこいつ)
琴葉「あっ、いやその昨日のあれは別に……いや夢じゃないんだけど……!」
敦「落ち着け。まだ何も言ってない」
琴葉「喋るな!!今喋ると俺が死ぬ!!」
敦「理不尽!!」
琴葉はソワソワしながら距離をとる。
敦は追いかけて並ぼうとするが、琴葉は歩幅を変えて避ける。
敦「なんでジグザグ歩きなんだよ!」
琴葉「気配切りの稽古だ!!」
敦「どこの流派だよ!」
敦が少し笑っただけで、琴葉はまた動きがギクシャクする。
琴葉(声……昨日のと同じ……やさ……)
琴葉「あああああーーー!無理ーーー!!!」
そこへ琴葉両親ズが玄関からひょこっと顔を出す。
琴葉母「今朝はほんと初々しくて……」
琴葉「やめろっ!!」
さらに出勤途中の敦母が電信柱の影からチラッと顔を出す。
敦母「逃げ腰なのがまた良いわね♡」
琴葉「評価するな!!」
琴葉父「……敦くん、今日もがんばれ」
琴葉「お父さん!!それ以上言うな!!」
敦父が門の壁からひょっこり。
敦父「敦、昨夜琴葉くん布団でのたうち回ってたぞ」
琴葉「敦父さんがなんで知ってんだよ!?
盗聴!?え!?俺の人生!?」
敦父「いや……勘だ」
琴葉「怖ぇよ親の勘!!!」
敦(……今日は一日ずっと挙動不審だろうな)
ーーー
学校。
教室に入ると、いつもどおりの距離感で琴葉の席へ向かう。
敦「はい、これ。借りてたルーズリーフ」
琴葉「ひッ……ありがとう!」
手が触れた瞬間、琴葉の肩が弾けたように跳ねる。
敦(そんなにビビる?)
敦はフッと笑い、わざと自然に肩に手を添える。
敦「次の授業どこだっけ」
琴葉「触れんなあああああああ!!」
敦「いや触れてねぇよ」(触れてる)
でも、手を離した瞬間──
琴葉(……あ⋯ちょっと寂しい……ってなんだ俺!!!)
ひとりで机に突っ伏した。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
意識したら終わりです。




