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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第八十一話 逃げたのに終わらない


ある日の休日


リビング。琴葉は湯気立つマグカップを手に座る。


琴葉「……」


しばらくカップを見つめていたら、隣に漫画本を手に敦が戻ってきた。


琴葉「そう言えばさ」


敦「……嫌な予感」


琴葉気にしない。続ける。


琴葉「敦…確か俺のこと可愛いと思ってるんだよな?」


敦、動きが止まる。


琴葉「例えば女型の可愛いってどんなやつ?」


琴葉をチラッと見る。


……無垢な表情。


敦「……そのネタ、覚えてたのか」


琴葉「今、思い出した」


敦「言うか!」


琴葉「なんで!?」


敦「照れる」


琴葉「今は俺しかいない」


敦「本人」


琴葉「前回、皆の前で言った」


敦「黒歴史」


琴葉「再上映」


敦「上映禁止」


琴葉「特別上映」


敦「誰が許可した」


琴葉「俺」


敦「独裁国家か」


琴葉「国民一名だから問題ない」


敦「それ俺だろ!!」


敦、琴葉の顔を見る。


……多分こいつは何も求めてない。


ココアが冷えるまでの暇潰しなのだろう。


敦、諦める。


――じゃぁ、いいか


琴葉の顔をもう一度見る。


微笑みを浮かべる。


敦「……そうだな。右だけ髪が跳ねてる時とか?」


琴葉、なんとなく右の髪を触る。


……跳ねてる。


敦「あと、ボタンを1個ずつかけ間違えてる時とか?」


琴葉、服を見る。


……かけ間違えてる。


敦「あと、ココアが熱くて飲めない時とか?」


琴葉、手元を見る。


……湯気が立つココアがまだ飲めていない。


敦「あと……」


琴葉「……待て、敦」


手を敦に向け、顔を伏せてる。


琴葉、ゆっくり顔をあげる。


既に何か感づいている。


顔がちょっと赤い。


琴葉「……………………今じゃん!!」



敦、微笑みを意識的に強くする。


琴葉、一気に熱が上がる。


琴葉「ちげぇよ!女型の時だよ!今じゃねぇ!」


……確かにからかいは入ってたけど……


今、素直に思った。


少しだけ目を細める。


敦「……可愛い」


マグ持ったまま固まる琴葉。耳まで真っ赤。


琴葉「知らん!知らんし、聞いてない!……いや、聞いてたけど、やっぱ知らん!!」


バッと踵を返し、ココアを半分こぼしながら廊下へ逃走。


敦「……」


敦「……雑巾」


予想以上の反応に笑みが抑えられない。


顔の筋肉と戦いながら、こぼれたココアを拭いた。


ーーー


廊下から足音。


敦「おい琴葉、大丈夫か?」


部屋の隅っこで小さくなっていた琴葉が跳ねる。


琴葉「うわあああああああ!!来んなーー!!」


敦が腕を掴む。


敦「落ち着けよ……言い過ぎた」


琴葉「~~~~っっ!!」


声にならない抗議で口パクパク。


敦「悪かったって」


琴葉「し、知らんし……可愛いとか言うな!!」


敦「事実だからしょうがない」


琴葉「しょ……しょうがなくない!!」


テンパった琴葉が、突然くるっと敦を押し返す。


ドン!!


敦は一瞬、状況を理解できず瞬きをする。


敦「えっ」


背中を壁に押し付けられている。逆・壁ドン状態だ。


琴葉「や、やめろ!!心臓止まる!!敦が悪い!!」


敦「え、俺なんもしてないだろ!?押してるのお前な!!」


琴葉「わあああああ!!知らん!!」


自爆壁ドンで発狂する琴葉。


敦は笑いを堪えつつ、肩を震わせる。


敦「お前の慌てっぷり、めちゃくちゃ好きだわ」


琴葉「聞こえてる!!やめろ!!!」


さらに悶える男型琴葉。


敦は落ち着いた声を意識して、落ち着かせる。


敦「……ほら、深呼吸しろ。俺がいるから大丈夫だ」


壁ドン自爆で真っ赤になった琴葉。


琴葉「わぁぁーーーー!!むしろお前がいるからダメなんだー」


敦「…ほら、深呼吸」


琴葉「む、無理!!今むり!!」


敦「できる。……俺見て。はい、吸って」


敦がゆっくり息を吸うと、琴葉も仕方なさそうに一緒に吸い込む。


琴葉「……すぅ……」


敦「で、吐く」


琴葉「は……」


琴葉の肩の力が少し抜ける。


敦「な?落ち着いたろ」


琴葉「……敦が、急に優しい……!」


敦「元々優しいだろ」


琴葉「うるさい!!」


口では怒鳴るのに、逃げないまま指先だけ力を込める。


敦(……離す気、ないのかよ)


ーーーー


夜、布団に顔をうずめる琴葉。胸の奥で昼間の光景がぶり返す。


琴葉「うわああああああ!!思い出すなっての!!」


布団をごそごそ蹴りながら転がる。思い出すのは、敦の優しい声──


そして自分の肩口にそっと近づいた、あの表情。


敦「深呼吸」


あの低い声が耳に残り、思い出しただけで息が詰まる。


琴葉「……っっ……もう寝る!!忘れる!!」


布団にもぐるが、身体の熱は消えず。


むしろ、落ち着けと言われて落ち着いた“あの時”より、今の方がずっと落ち着かない。


琴葉(なんで今になって………クソッ…反対に落ち着くか、敦のバカ!!)


どれだけ布団にもぐっても、そのざわめきは止まらなかった。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


逃げても記憶は追いかけてきます。

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