第五十九話 普通の基準が分からない
昼休み。
AとBは机に突っ伏しながら、ほぼ同時につぶやいた。
A「平和だなぁ……」
B「平和だねぇ……」
A「暇だな……」
B「暇だねぇ……」
そして二人の視線がピシャァッ!と敦へ。
A「なぁ敦、惚け(のろけ)ネタない?」
B「今日は刺激が欲しい」
敦「あるわけねぇだろ!俺をエンタメ装置扱いすんな!!」
A「じゃあさ、
琴葉といつもの夫婦漫才して?」
敦「夫婦つけんな!誰が漫才してんだよ!!」
琴葉(机の上で鉛筆立てチャレンジに全集中)「??俺、漫才なんてやったことないぞ??」
敦「お前の無自覚ボケが漫才なんだよ!!」
Aは椅子から勢いよく立ち上がる
A「はいクラスのみんなー!!突然ですが!!
本日!!“敦と琴葉の夫婦漫才強化会議”を開きまぁす!!」
敦「勝手に開くなぁぁ!!」
B「だって暇なんだもん」
クラス「わかる」
敦「全校的に暇なのか!?」
琴葉(パンの袋を開けるのに真剣)
「え、俺の話?」
A「もちろん。本日の目的は“君たちのお笑い力の強化”です」
敦「勝手に目的設定すんな。まず議題を共有して、当事者の意思確認を取れ」
琴葉「敦⋯無駄に理屈派だな」
A「つまり“強化OK”ってこと?」
敦「どこをどう解釈したらそうなるんだよ!!」
A「(無視)さて!本日の資料です!コンビ名候補一覧!!」
(手書きの雑なメモ)
・幼馴染の極み
・ツッコミ大黒柱
・天然爆弾と保護者
・相方が可愛すぎて毎日死ぬ男
敦「最後のやつだけ急に俺の心情暴露すんな!!」
琴葉「……俺、爆弾枠なのか?」
敦「違う!放っとけないだけだ!!
あっ違う!!今のなし!!」
クラス「はい甘い!!」
拍手パチパチパチパチ
敦「拍手すんなぁぁ!!」
琴葉「……そんなに言われるほどか?」
敦「そこで確認取るな!!」
A「じゃあ次は“敦を困らせるボケ”やってみよう」
琴葉「困らせる……」
(しばらく真剣に考える)
琴葉「……敦。
今日、やけに俺の方見てねぇか?」
敦「ぐはぁ!!それボケじゃなくて急所狙いだろ!!」
クラス「きゃーー!!」
(黄色い歓声)
A「破壊力高すぎ!それボケ判定外!!」
敦「心臓止めにきてるだろそれ!!」
B「甘すぎて眩しい!!」
クラスメイト男「天然ボケ20点!」
クラスメイト女「甘さ暴発30点!!」
クラス一同「おぉ〜〜!」
敦「点数化すんな!!」
琴葉「俺…高得点じゃねぇ?」
敦「嬉しそうに聞くな!!」
A「敦!なんか面白いことしろ!」
敦「無茶言うな。今日はもうツッコまない。
“ツッコミ休業日”にする」
B「突然のストライキ!?」
A「じゃあ琴葉、適当にコメントしてみ?」
琴葉「コメント?」
Bを見て、淡々と。
琴葉「Bは……無駄に元気だな」
A「感想じゃねぇか!!」
B「抽象的すぎる!!」
A「敦!! お前が言えよ!!お前じゃないと無理だ!琴葉がお前を待ってる」
敦「……言わない……今日は言わない……!」
琴葉「……え」
ゆっくり、琴葉の目が揺れる。
琴葉「敦。
……俺と話すの、飽きたのか?」
敦「ちがっ……!?!?!?」
琴葉「そっか……
気づかないうちに……俺……」
A&B「え!?!? 重い!! 空気が急に重い!!」
敦(やばい!! 違う!! 違うから!!)
喉の奥で、巨大なツッコミが暴れだす。
B「敦、顔色変わってんぞ!? めっちゃ青い!!」
琴葉「……敦」
その呼び方が、妙に静かで。
敦「……っ……」
敦(無理!!! 無理だ!!! 我慢なんて出来ねぇ!!!!)
敦「……やっぱ言う!!!」
机を叩いて立ち上がる。
敦「飽きてねぇ!!
琴葉は意味わかんねぇこと言うから!!
だから俺がツッコむんだよ!!」
A「告白みたいな構文やめろ!!」
B「ちょっと感動してる俺がいる!!」
琴葉「……そうか。
じゃあ、いつも通りでいいな」
敦「安心材料に俺を使うな!!」
A「帰ってきたツッコミ!!」
Aがテンション上がりまくって暴走し出した。
A「あ!良いゲスト思い出した!ちょっと待ってろ」
敦「嫌な予感!!!」
……ダダダダダ!!
A「追加ゲスト連れてきた!」
ガラッ!!
D「どうも。屋上でパン食ってたら連行されたDです」
敦「拉致すんな!!」
D「よろしく」
敦「よろしくじゃない!!」
A「次は“ツッコミ王Dvs敦”の公開対決です!」
敦「対決する意味どこにあんだよ!!」
B「琴葉は判定役!」
琴葉「勝敗基準って必要だよな。……甘さとか?」
敦「審査基準バグってんだけど!!」
D(真剣)「了解。甘さ勝負は得意」
敦「乗るなD!」
A「ではお題!
『琴葉が突然、訳の分からんことを言ったら?』それに誰が1番甘く返せるか勝負!」
敦「甘く返す必要ある!? ツッコミ勝負じゃないの!?」
教室「……」
(誰も突っ込まない2秒)
敦「なんで誰も助けねぇんだよ!!」
琴葉「……うーん……」(真面目)
琴葉「……お前、今日ちょっとかっこいいな」
敦「ぐはっ!!琴葉の攻撃が強い!!反撃出来ないっ!」
D「ふっ!敦はツッコミスピードはあるが甘さが足りない!よって俺のターン!」
D「琴葉。
君の表情が柔らかいのは……
“誰か”のおかげかな?」
クラス「うわぁぁ甘いぃぃーー!!」
琴葉「……うん、まぁ……
敦のおかげだけど……?」
教室
「本人が普通に回答した!!」
D「……え?俺の甘さは?」
琴葉「え? 敦の話だろ?」
D「誤解すらしてくれないの!?!?」
敦(顔真っ赤)
「ちょ、ちょっと待って!?
なんで俺の名前出すの!?!?」
A「はい琴葉、まさかの“無自覚ガチ回答”!」
B「Dの甘さ、空振り!!」
D「俺が一番ダメージ受けてるんだけど!?」
琴葉はというと――
敦の名前を口にした瞬間、自分で気づいてしまった。
琴葉「……っ……な、なんか……恥ず……」
B「なんで敦要素でだけ赤くなるんだお前!!」
A「はい!琴葉が赤くなったのは敦のせいなので、敦に甘さポイント+500点!!」
B「よって勝者は――敦!!」
クラス「いぇぇぇー!!」
D「くっ……!言葉では勝ったはずなのに……
お前らの“無自覚いちゃつき力”に完敗だ……!」
敦「嬉しくねぇぇぇ!!」
B「試合終了ーー!!!」
A「いい流れだ!琴葉、今日の出来事言ってみ?」
琴葉「今日の出来事?」
B「そうそう!(それで十分)」
琴葉「……じゃあ……今日の朝、
靴が左右違った」
敦「なんで気づかない!?」
B「オシャレじゃなくて事故!!」
琴葉(真顔のまま)
「歩きづらかった」
敦「だろうね!!」
A「他には?」
琴葉「弁当が昨日の残りで
おかずが全部……乾燥してた」
B「干物かよ!!」
敦「どんな管理してんだよ!?」
琴葉(自信ありげに)
「……俺、普通だと思ってる」
敦&クラス「どこがだあああ!!」
琴葉
「敦がツッコむと安心する」
敦「そうやって俺の負担を増やすな!!」
敦「やはり!俺はツッコまない!!!
“完全休業日”だ!!」
A「また始まったよ」
B「でも前さっきも5分で失敗してたよね」
敦「今日は誰が何を言おうとツッコまないッ!!」
琴葉
「あ!
今日、家にスマホ忘れたけど
さっきから手に持ってた」
A「ホラーかよ!!」
B「記憶どこ行った!!」
敦(耐えろ……耐えるんだ俺……ッ!)
D「敦くんがツッコまないなら、僕がやろう」
敦「なんでツッコミの代わりが増えるんだよ!!」
琴葉
「……敦……俺一人で喋ってても
……なんかつまらないな」
敦「くっ……それは反則……!!」
A「耐えろ敦!!」
琴葉「……」(じ〜⋯)
敦「無理ぃぃぃぃ!!!」
ドンッ!!!
敦「スマホ忘れて手に持ってんじゃねぇぇぇ!!」
学校中「帰ってきたあああ!!!」
A「琴葉、もう一個今日の出来事ぶちかませ!」
琴葉「俺、歯磨き粉と洗顔フォームを
間違えた」
B「今日のネタがまだあったーーー!!」
A「敦、ほら!ツッコめ!」
琴葉「……敦の熱量……待ってる」
敦
「あーーーもう!!!」
ドン!!!
敦「顔ミント味になるぞおおおお!!」
教室「今日も最高!!!」
琴葉「……敦が元気があると落ち着くなぁ」
敦「だからそういうの反則だって!!」
A「なぁ、…琴葉の“ズレ”って流行るね」
B「『スマホ持ってるのに忘れた』事件とか?」
琴葉ムーブが校内に感染
教室はざわつく。
琴葉の“ズレ”が校内に伝染していた。
J「俺、下駄箱に上履き三つ入ってた」
K「弁当、全部カレー味にした」
敦「それはただの嗜好!!」
琴葉「……俺にこんな影響力が……?」
敦「誇るな!!」
ガラッ(教室の扉)
クラスのざわめきがピタァ……と止まる。
一瞬の静寂――
先生「……君たち。さっきチャイムが鳴ったぞ。
何をしている?」
A「漫才です!」
敦「違います!!反対意見もっと聞いて!!」
琴葉「……敦」
敦「なんだよ」
琴葉「今日、楽しいな」
敦「授業始まってんだよ!!」
先生(淡々)
「……そう。では“相方が可愛すぎて毎日死ぬ男”のコンビは放課後、職員室に来なさい」
敦・琴葉「なんでその名前知ってんの!?!?」
クラス「先生!?情報が深い!!」
先生「……授業を始めます。
……あれ?出席簿が……あ、持ってました」
敦「先生までズレたぁぁぁ!!」
琴葉(満足げ)
「……俺の……影響力……」
敦「だから誇るな!!!」
A「今日このクラス、全員バグってる!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今日も、いつも通りでした。




