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第五十三話 気づいた側は何も言わない
玄関の戸が閉まる音。
敦の足音が、少しずつ遠ざかっていく。
琴葉母「いい子ねぇ、敦くん♡」
父は返事をしない。
湯のみを手に取ったまま、
玄関の方を見ている。
――静か。
琴葉母「……あなた?」
父は小さく息を吐いた。
琴葉父「……あいつは」
少し考えるように間を置く。
琴葉父「離れないな」
母がくすっと笑う。
琴葉母「でしょう?♡」
父は首を横に振る。
琴葉父「……そういう意味じゃない」
視線が、二階へ向く。
誰もいない廊下。
琴葉父「……あれはな」
言いかけて、やめる。
湯のみを置く。
小さな音。
琴葉父「……戻らなくなる顔だった」
母「……そうね」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
分かっている人ほど、何も言いません。




