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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第四十九話 崩せないものだけ残っている


琴葉母「じゃ、あとは若い子同士で♡」


と軽い足取りで階段を降りながら楽しそうに震え始めたスマホを耳に当てる。


琴葉母「──あ、あなた? もうすぐ帰ってくるのね?

 うん、うん……ふふ、今日はね、

 “琴葉と敦くんにどれくらい時間あげればいいかしら〜?”

 なんて話してたところよ♡」


琴葉父の声が少しだけ低くなる。


琴葉父『……時間……?』


──少しの沈黙。


琴葉母「そうそう♡ 若い子はほら、色々あるでしょ〜? 

あ、頼んでた夕ご飯の材料買ってきてくれた?助かる〜♪」


何も悪気なく、ただの雑談のつもりで言っている。


通話を切ると、琴葉母は満足げにステップをふんで踊っている。


琴葉母「ふふ、いいわねぇ青春って♡」


一方


台風の様な琴葉母が退場して廊下には静寂が戻る。


敦は手に握らされた『明るい家族計画』のモザイク物体をそっと持ち上げてぽつり。


敦「……3個目……これ、どうすればいいんだ……?」


敦「人生でこんな数

 数える日来ると思わなかった……」


ぼーと見つめていた。


そこへ──


ガチャッ


玄関のドアが開く。


琴葉父「ただいま──」


琴葉母「あっ、おかえりなさい♡」


琴葉父は買い物袋を琴葉母に渡すと二階の階段前に座り込んでいる敦を見上げた。


敦「琴葉父さん!お⋯お久しぶりです!お邪魔してます!」


敦の手には明るい家族計画のモザイク物体を握ったままだった。


琴葉父チラッとそれを見た。


琴葉父「いらっしゃい……敦くん。……それは?」


敦「……誤解です」


即答。


琴葉父「……そうか」


間。


琴葉父「で」


一段、声が低くなる。


琴葉父「“時間”の話だが」


敦「っ」


言葉が詰まる。


琴葉父は恐ろしく静かな声で続ける。


落ち着いた声の分、逃げ場がなかった。


琴葉父「君は……どれくらいの時間が必要なんだ?

 うちの琴葉と“何をする予定”で?」


敦「違っ──ちょ、待ってください!!それは俺の意思じゃなくて!!」

 

琴葉母「うふふ♡」


敦「笑ってる場合じゃないですよおおお!!」


父の迫力に固まる敦。


しかし──その瞬間。


バンッ!!


琴葉「もう無理!!耐えられん!!」


ドアが開き、真っ赤な顔の琴葉が飛び出した。


琴葉「もうだめ!! 恥ずかし過ぎて死ぬ!!」


敦「ちょっ!? え!? 琴葉!? 腕ぬけるぬける!!」


琴葉は敦の腕をがっしり掴み、

ずるずるずるーーっ! と部屋の中へ引きずり込む。


母「あらぁ♡ 若いわねぇ♡」


父「……戸は閉めろよ」


敦「なんで許可出すんですかあああ!!?」


バタン!! 鍵ガチャッ!!


完全封鎖。


静寂が落ちる。


敦「……お、俺、今……命拾いした……?」


琴葉、真っ赤な顔で床にへたり込む。


琴葉「も、もう……お父さんもお母さんも……タイミング……最悪すぎて……むり……」


敦はそっと琴葉の隣に座る。


敦「…………琴葉」


琴葉「…今日はもう…駄目だ……何も言うな……」


敦「……」


一拍。


敦は、ほんの一歩だけ近づいた。


敦「……“いなくなる”なんて、言うなよ」


琴葉は、びくっと肩を揺らす。


琴葉「……敦……」


敦「泣かれても。

 追い出されても。

 変なもん渡されても」


一拍。


敦「俺は、そばにいる」


琴葉は唇を噛んで、視線を落とす。


琴葉「……なんだよ……そう言われると……

 余計……逃げたくなるじゃん…………ずるいって」


その瞬間。


敦の手が、迷いなく頭に触れて引き寄せた。


敦「隠れていい。

 逃げてもいい」


間。


敦「……でもさ」


少しだけ、声が低くなる。


敦「“いなくなる”のはダメだ」


琴葉の指先が、かすかに震れる。


琴葉「……敦に言われると……

 なんか……止められなくなるし……」


敦、少しだけ目を細める。


敦「止めねぇよ」


沈黙。


琴葉、何か言いかけてやめる。


指先だけが、敦の服を少し掴む。


琴葉「……さっきの……

 もう一回……」


敦、少しだけ息を止める。


敦「……どれだ」


琴葉「……“いなくなるな”って……

 その……声」


敦「……聞きたいのか」


琴葉「……ああ……」


敦は一瞬だけ目を伏せて、

それから、逃げずに言う。


敦「……何回でも言う」


一拍。


敦「形が変わっても。

 男でも、女でも」


静寂。


敦「……それ、全部……」


ほんの少しだけ視線を落とす。


敦「琴葉だろ」


琴葉が、ゆっくり敦の肩に額を預ける。


敦「……“いなくなる”なんて言うな。

 俺……それは無理だ」


琴葉は言葉を返せず、

ただ、強く敦の服を掴んだ。


琴葉の目に、涙がにじむ。


琴葉「……敦……」


何か言おうとして、言葉が止まる。


言葉にならない微かな息がこぼれる。



 ドンドンドン!!!



琴葉母「ふたりとも〜〜♡

 夜ごはんだけど〜?♡

 それとも“夜ごはんより先に食べたいもの”ある?♡」


敦「タイミングぅぅーーー!!!」


琴葉「お母さんーーーー!!!」


(静寂)


敦「…………あれ?静か??何だ?」


琴葉母「……敦くん、 4個目いる!?♡」


敦「増やすなああああ!!!!!」


琴葉母「じゃあドアの前置いとくね♡」


ゴトッ。

※新たなモザイク物体の音。


敦「置いてくなああああああ!!」


琴葉、もう限界!


小さく縮こまってじたばた。


琴葉「むりむりむりむり!! 生きていけない!!!」

 

敦「……琴葉」


琴葉「……?」


敦「家族の地獄は……大変だけど」


間。視線は外さずに。


敦「……それでも、俺は、お前の味方だ」


琴葉は息を止め、肩の力を抜けずに小さく震える。


琴葉「…っ……(また、やばいくらい恥ずい……)」


ーーーー


ふたりは真っ赤なまま階段を降り、

ダメージの残る顔で食卓へ。


琴葉父は新聞を畳んで、落ち着いて二人を見る。


琴葉母「ほらあなた〜聞いて♡

 敦くん、さっき“男らしいセリフ”出してたわよ〜♡」


敦「出してません!!!!!」


琴葉父は腕を組み、低い声で。


琴葉父「……ほう。

 男らしいセリフとは……?」


琴葉母「 “琴葉、いなくなるなんて言うな”

 って、低い声ですっごく良かったのよ〜♡」


敦「わぁぁぁーーーー言うなぁぁぁ!!」


琴葉父「……ふむ。」


敦「ちがっ……!!いや違わないけど!!」


琴葉父はゆっくり敦と目を合わす。


琴葉父「琴葉を泣かせたら許さん」


琴葉父「だが……」


琴葉父「泣かせないでくれたなら……感謝する」


敦「えっ」


琴葉父「……ありがとう」


琴葉「え」


敦「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


いきなりの真剣感謝で逆に地獄深度アップ。


琴葉父「ただし。

 さっきの“時間”の件だが──」


琴葉母「あなた♡4個目置いたのよ〜♡」


琴葉父「4個……?」


敦「置かれたんです!!勝手に!!!」


琴葉父はため息をつく。


琴葉父「そうか。……で、敦くんはその件についてどう思っている?」


敦「聞きます!?

 “その件”ってサラッと言えない類のやつですよね!?!?」


琴葉は……顔を皿に突っ伏して動かない。


琴葉「無理……もう無理……」


敦はそっと肩に手を置く。


肩の力が、わずかに抜けていく。


敦(……守られてるの、

 俺の方かもしれない)


ここまで読んでいただきありがとうございます。


騒がしいくらいが、ちょうどいいときもあります。

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