第四十一話 気づいたらそうなっている
夕方。
空はもう夕焼けそのものではなく、
オレンジの名残だけが薄く残っている。
街灯が、ひとつ、またひとつ点き始める時間。
敦、ベッドに座ってスマホを眺めている。
敦(今日も……特に用事はない)
(でもこの時間……)
スマホが震える。
【琴葉:今、いる】
敦「……いる、って何だよ」
上着を羽織ってポケットにスマホを突っ込む。
敦「……気づいたら準備完了してるの怖い」
自分で言って、眉をしかめる。
敦「……会いに行くの……日課かよ」
敦「……いや、ちょっと様子見るだけだ」
琴葉の家・夕方
チャイム。
琴葉「はーい」
ドアが開く。
敦「……来た」
琴葉「来たね」
敦「前に女型になったら会いに来いって言ったけど⋯」
琴葉「……外出たくない」
敦「……知ってる」
敦「だから俺が来てる」
琴葉「うん」
敦「“うん”じゃねえ」
琴葉の部屋に入った瞬間。
――夕方の距離。
琴葉「……あ」
敦「何だよ」
琴葉「敦、なんか今日……近くない?」
敦「お前が寄ってきてんだよ!!」
琴葉「そうだっけ?」
敦「そうだよ!!
俺は動いてない!!
床に根張ってる!!」
琴葉、首をかしげる。
琴葉「女の時ってさ、
距離感下手になるな」
敦「それは“下手”じゃなくて
“破壊”って言うんだよ!!」
琴葉「破壊?」
敦「俺の理性を!!」
琴葉「変なの。
女の時は、こういうの……
あんまり気にしなくていい気がする」
自然にまた近づく。
敦、後ろへ半歩下がる。
壁。
敦「逃げ場ぁ!!」
琴葉「……敦」
敦「名前呼ぶな!!」
琴葉「……?」
敦「疑問顔やめろ!!
夕方補正で効く!!」
琴葉「敦ってさ」
敦「まだ言うの!?」
琴葉「女の時の俺、
そんなに危険?」
敦「危険物指定!!
取扱注意!!
近づくな!!」
琴葉「へえ」
敦「その“へえ”も禁止!!」
琴葉、ちょっとだけ前屈み。
琴葉「俺、なんか余計なことしてる?」
敦「してる!!」
琴葉「でも俺、
何もしてないよ?」
敦「それが一番悪い!!」
敦、顔を覆う。
敦「……もう無理」
琴葉「え?」
敦
「近い!!
可愛い!!
無自覚!!
日課!!」
琴葉「日課?」
敦「そこ疑問に思え!!」
琴葉、しばらく考える。
琴葉「……女の時の俺、
めんどくさいな」
敦「自覚しろ!!」
琴葉「でもさ」
敦「まだある!?」
琴葉「本当に嫌なら」
敦「……」
琴葉「そんな顔しないよな」
敦「……」
琴葉「嫌じゃないってこと?」
敦「……嫌なら
とっくに帰ってる」
琴葉「……あ」
敦「理解するな!!」
にこっと笑う。
敦「その顔禁止!!」
琴葉(首かしげ)
敦「考えるな!感じるな!そのままいるな!」
琴葉「どうしろって言うんだよ」
敦「俺が聞きたい!!」
時計が20時00分チャイムを控えめに鳴った。
琴葉「……今日ももう帰る?」
敦「“今日も”って言うな!!」
琴葉「だって日課だし」
敦「認めた!!
お前今認めた!!」
琴葉「え?
最初からそうじゃない?」
敦「俺はまだ抵抗してる!!」
琴葉「へえ」
敦「その“へえ”で全部終わる!!」
琴葉「また明日な」
敦「……」
敦「何事もなかったみたいに言うな!!」
琴葉「え?
何かあった?」
敦「全部だよ!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
やめない時点で、もう答えは出ています。




