第三十七話 それが何かは決めない
(……俺だけ、なのか)
歩きながら、
指先を軽く握る。
小さく息を吐く。
(いや……違うか)
たぶん、
ずっと前からこうだった。
気づいたら隣にいて、
それが普通で。
「いなくなる」とか、
考えたこともなかった。
考える必要がなかった。
――忘れられるの、嫌だ。
ふと、
あの声が浮かぶ。
胸の奥が、
少しだけ熱を持つ。
(……あれ、冗談じゃなかったよな)
恋とか、
好きとか。
そういう言葉を当てはめようとして、
途中でやめる。
なんか違う気がする。
時間が長すぎて、
名前がつかない。
同じ気持ちで、
同じ意味で、
隣に立ってるのか。
たまに分からなくなる。
手を出せば、
当たり前みたいに重なるし。
距離が近くても、
琴葉はいつも通りで。
――それが。
安心する。
落ち着く。
それだけで、
いいと思ってた。
……なのに。
昨日の手も、
今日の距離も。
俺は、
ちょっと考えてから選んでる。
前はそんなこと、
なかったのに。
(……俺だけ、変わってんのか)
足が少しだけ遅くなる。
長く一緒にいすぎて、
隣が定位置になってるだけ。
それだけって可能性も、
普通にある。
少し考えて――
やめる。
(……まぁ、いいか)
答えを出す話じゃない気がした。
敦はいつもの帰り道を曲がる。
隣を見るでもなく、
でも。
無意識に、
一歩分だけ空けて歩いた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
答えを出さないほうが、いいときもあります。




