第三十四話 帰ってからが本番
琴葉と別れて帰宅途中の敦。
家まであと5分。
敦は歩きながら――
敦
ピタッ。
敦(……今、俺、笑った!?)
気を取り直し無表情。
一拍。
口角がゆるむ。
慌てて引き締める。
→ 失敗
→ やり直し
→ また失敗
敦(やばい、また顔が言うこと聞かねぇ!!)
電柱に手をつき、深呼吸。
敦「……落ち着け俺……」
一拍。
敦「指の感触思い出すな……」
間。
敦「思い出すなって言った瞬間に再生すんな!!」
脳内。
「むに」
「つん」
「ぎゅ」
高画質再生。
無限リピート。
敦の顔がまたニヤリ。
敦「やばいやばいやばいやばい!!」
その場で軽くスクワット三回。
敦(よし……
情報は筋肉に逃がせ……
感情は筋肉で処理……!
人類はそうやって進化してきた……!)
家が見えた瞬間、敦は表情を完全戦闘モードに切り替える。
敦(表情筋ロック……
目はやや鋭く……
口角は横一直線……
“恋とか知りません”の顔……よし!!)
ガラスに映る自分を最終確認。
敦「……自然。完璧」
ドアノブを掴んで――
敦「ただいま(低音イケボ)」
パタン。
即。
母、リビングからヌッと出現。
敦母「おかえり。はいアウト〜〜〜」
敦「早くない!?」
敦母「“デレ顔を隠そうとして
逆に挙動不審になる顔“してた」
敦「分類されてんの!?」
敦母、タオルで口元を押さえながら追撃。
敦母「玄関前で
にやにや→眉間しわ→にやにや
って顔が忙しすぎたの、窓から全部見えた」
敦「見られてたああああ!!!」
さらに追撃。
敦母「あと、“照れを消そうとしてスクワットしてた瞬間”も見た」
敦「それは忘れて!?!?」
母、新聞を持った父を召喚。
敦母「あなたー!
敦が“恋で顔面崩壊して帰宅”したわよ〜!」
敦父「おぉ、またか」
敦「またって何!!!」
ーーーーー
一方その頃・琴葉の家
玄関の扉が閉まった瞬間。
琴葉「………………」
完全停止。
ゆっくり帽子を外し、
メガネを外し、
靴も脱ぎ忘れたまま――
そのまま部屋へ。
床に
ゴロン。
琴葉「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!!!////」
バタバタバタ!!
足!
手!
全身!!
琴葉「今日、やばくなかった!?!」
転がる。
琴葉「映画ほぼ覚えてねぇのに
めちゃくちゃ楽しかったんだけど!!」
布団にダイブ。
琴葉「ずっと手繋いでたし……
腕まで組んだし……」
少し止まる。
小声。
琴葉「……嫌じゃねぇって言ってたし」
顔、真っ赤。
枕に顔を押し付ける。
琴葉「うわぁぁぁ!!」
一回転。
天井を見る。
琴葉「敦いるとさ……
なんか普通に外出れるんだよな」
少し静か。
琴葉「……すげぇな、あいつ」
小さく笑う。
琴葉「……ああいう時、自然に対処出来るのが敦なんだよな」
少し間。
琴葉「……ずるいだろ、あれ」
枕に顔を埋める。
琴葉「うわぁぁぁ……!」
足をばたばた。
完全KO。
しばらく悶えたあと、
ふっと動きが止まる。
琴葉「……明日、顔合わせるの、ちょっと気まずいな」
一拍。
琴葉「……でも、会わないのは違う」
小さく笑う。
琴葉「……また行こ」
頬を少し赤くしたまま、
そのまま転がった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
一人になったとき、よく分かります。




