第三十三話 残るのはそっちだけ
家のそばまで帰って来た。
人通りはまだ多い。
けれど誰も二人を見ない。
女型の琴葉も、景色の一部みたいに自然だった。
腕を掴んだまま歩きながら――
琴葉「……やべぇ」
敦「なにが」
琴葉「映画、マジで一ミリも覚えてない」
敦「知ってる。途中から俺の手レビュー始まってた」
琴葉「名作だったな」
敦「何がだよ」
少し間。
琴葉、真顔。
琴葉「じゃあ感想会しよう」
敦「材料ゼロだろ」
歩きながら。
琴葉「まず全体として――」
敦「おう」
琴葉「良かった」
敦「便利すぎるだろその評価」
琴葉「あとたぶんテーマ重かった」
敦「雰囲気で語るな」
琴葉「途中で静かになるシーンあった気がする」
敦「それ上映中ずっと静かだわ!!」
琴葉、少し考えるふり。
琴葉「主人公さ」
敦「出てたらしいな」
琴葉「葛藤してた」
敦「してない映画の方が珍しい」
琴葉「でも最後は前向いてた気がする」
敦「全部の映画それで終わる!!」
信号待ち。
琴葉がふと敦を見る。
琴葉「敦はどこ良かった?」
敦、即答。
敦「ポップコーン」
琴葉「映画関係ねぇ」
敦「唯一確実に覚えてる情報だ」
琴葉「俺は敦の手」
敦「競うな」
青信号。
歩き出す。
琴葉「でもさ」
敦「ん?」
琴葉「内容覚えてないのに、“観た感”あるのすごくね?」
敦「それデート成功ってやつじゃねぇの」
言った瞬間、敦が少しだけ止まる。
自分の発言に気づいた顔。
琴葉「……おぉ」
敦「違う意味だからな」
琴葉「言い直し早いな」
敦「防御反応だよ!!」
少し静かになる。
夕方の光。
琴葉は前を向いたまま、ぽつり。
琴葉「……今日さ」
敦「ん?」
少し間。
琴葉「歩くの、普通だった」
敦は答えない。
ただ歩幅だけ、少し合わせる。
琴葉「映画は覚えてないけど」
敦「そこ強調すんな」
琴葉「今日出かけたのは覚えてる」
敦「……それで十分だろ」
琴葉、少し笑う。
そして。
琴葉「あと敦の手」
敦「結論そこ固定か!!」
人混みに紛れて、
二人はそのまま歩いていく。
腕は、自然に組んだままだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
それで十分な日もあります。




