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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第三十二話 少しだけ越えている


映画館に着くなり、琴葉は迷いなく受付へ向かう。


琴葉「カップル割引でお願いします」


小声で、得意げ。


琴葉「ほら。女型ならお得」


敦「……ほんと、得意技増えたな」


苦笑しながらツッコむと、琴葉は満足そうに笑った。


通路を進みながら、敦はトレーを持ってない方の手を差し出す。


琴葉は一瞬だけ目を瞬かせて、すぐ取る。


暗くなっても、手はそのまま。


敦がそっと指を動かすと、

琴葉が無言で、ぎゅっと握り直す。


敦 (……おい……)


琴葉は膝においた帽子のつばをいじりながら、どこか機嫌が良さそう。


琴葉……へへ……


薄い光に照らされた琴葉の横顔は、

いつもより、ほんの少し柔らかく見えた気がした。


ー映画が始まり、館内がすっと暗くなる。


スクリーンの光だけが二人のシルエットをぼんやり照らしていた。


琴葉は敦の手を掴んだまま、

じっとスクリーンを見ている——ように“見えた”。


しかし次の瞬間。


むに……むに……


敦(……おい?)


琴葉の指が、敦の手の甲を軽く押し始める。


さらに

つん、つん…… と手のひらをつつく。


敦(……完全に映画より手で遊んでるよな……)


琴葉はジュースを飲みながら小声で「ふふふ……」と怪しい笑い。


敦「……おい。俺の手で遊ぶな」


琴葉「むにむに……やだ」


——秒で拒否。


敦(あ、こいつ今日絶好調だ……)


そのまま琴葉は

・敦の中指をつまんで揺らし

・手の甲をひっかくように撫で

・親指同士をくっつけて遊び

ついには指を組んだり離したりを無言で楽しみ始めた。


敦「集中しろよ……映画始まってんだぞ」


琴葉「えへへ。手が楽しい」


敦(映画負けた……)


くすぐったさと恥ずかしさが限界に近づいたとき、とうとう敦が反撃を開始する。


そっと琴葉の手を取り返し、

すー…… と人差し指で手のひらをなぞる。


琴葉「っ!?!?!?」


肩がビクッと跳ねる。


敦「お返し」


もう一度、今度は指先で円を描く。


琴葉「ひゃぁっ……!ず、ずるい……!」


敦「お前が始めたんだろ」


琴葉は耳まで真っ赤になり、

琴葉「わかった!集中する!!」と宣言。


——でもずっと手が震えてる。


敦(……効くんだ)


スクリーンの光が揺れる間じゅう、

琴葉はしおらしく手を握ったまま固まっていた。



 

上映後。


ロビーの明るさに目を細めながら、

琴葉は第一声で叫ぶ。


琴葉「やべぇ!敦の手のせいで映画の内容がまっっったく頭に入ってねぇ……!」


敦「俺悪くねぇよ!?!?」


琴葉「だって敦の手、触ってって言ってた」


敦「言ってねぇよ!!!!」


琴葉「言ってる“感じ”がした」

 

敦「俺の手は無実!!」


琴葉「証拠は?」


敦「ねぇよ!!」


琴葉「じゃあ有罪」


敦「司法が雑!!」


周りのカップルがクスクス笑う。


二人は騒ぎながらも、

指を軽く繋いだまま映画館を出た。


信号前で立ち止まると、

琴葉が、ぐい、と体重を預けてきた。


敦「ちょっ……なんだよ」


琴葉「靴がな、言うこと聞かなくて」


そう言いながら、

掴む腕は、自然すぎるほどしっかり。


信号が青になる。


そのまま歩き出す二人。


敦(これ……腕組んでるようにしか見えねぇだろ……!)


周囲の視線が気になりつつも外せない。


琴葉は朗らかで、どこ吹く風。


敦「……お前、自覚してんのか」


琴葉「? あ、敦が嫌なら離すけど?」


敦(それを言われると離せねぇんだよ……!)


敦「いや……別に……」



結局そのまま駅前を抜ける。


家の近くの道に入った頃、

琴葉がふと、敦を見る。


琴葉「今日も……この姿で出れたな」


敦「ん?」


琴葉「前に言ったじゃん。敦となら外にも行けるかもって。」


少し間を置いて、


琴葉「……ほんとに、行けたな」


声は小さい。


でも、映画館の時よりずっと素直で柔らかい。


敦は一瞬、返事に詰まる。


気恥ずかしさと嬉しさが胸に混ざる。


敦「……なら、よかったよ」


琴葉は照れ隠しのように帽子を深くかぶり、

視線を落として、つま先で地面を軽くつつく。


琴葉「……おぅ」


二人の歩幅は、いつもより自然に揃っていた。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


触れている時間は、少し長くなりました。

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