第三十話 同じままで進めるなら
敦「……琴葉」
友達と入れ違いに敦が近づく。
敦「……最近、女型見てないけど」
言い終わってから、やけに真面目な聞き方だったと気づく。
敦「……いや別に、確認な」
けれど。
琴葉は一拍置いて――
にやり、と笑った。
琴葉「フッフッフ……聞いて驚け」
胸を張る。
琴葉「実はな。
毎日、夜にちょこちょこ女型になってる」
敦「……へえ」
思ったより、素直な声が出た。
琴葉はそれが嬉しかったのか、
勢いづいて続ける。
琴葉「そうすればさ、
休みの日に“まとめて長時間”やらなくて済むだろ?
効率的だって気づいた」
敦「……なるほど」
それだけ。
琴葉が、ニヤニヤしながら敦を覗き込む。
琴葉「んー?
もしかして、女型琴葉ちゃんに会いたい?」
敦は一瞬、言葉に詰まる。
視線を外して、
ほんの少しだけ、間。
敦「……最近、見てないからな」
敦「……まぁ、確認くらいはしとく」
言ってから、
自分でも少し眉を寄せる。
……何を言ってるんだ、俺。
琴葉「ふぅん……じゃあ、週末な」
即決。
その軽い返事に少し驚く。
敦(……怖さ、減ったんだな)
敦は「ふー」と小さく息を吐いた。
敦「どっちでも、過ごし方は変わらないぞ?」
琴葉は一瞬きょとんとして、
すぐ笑う。
琴葉「だよな。
どっちでも、敦は敦だし」
確かめるみたいに、もう一度。
琴葉「へへ」
少ししてから、思い出したように。
琴葉「あ、でもさ。女型なら、映画のカップル割引あるんだよな」
敦「制度の使い方が合理的すぎるだろ」
琴葉「節約は大事」
敦「動機が生活すぎる!!」
ちょっと考える。
敦「……なら、行くか?」
軽く。
その一言で、
琴葉が止まる。
敦「……行くなら、付き合うけど」
琴葉「……え」
女型で。
駅前で。
一緒に。
迷いが、顔をかすめる。
敦は、それを見て――
何も足さない。
琴葉は唇を噛んで、
少しだけ俯く。
琴葉「……んー……」
答えはまだ出ない。
でも、逃げてもいない。
ほんの少しだけ、琴葉の口元が緩む。
二人の間に、
言葉にならない温度が落ちる。
昼休みのざわめきの中で、
それだけが、静かに残っていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
気持ちがあれば、進めます。




