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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第二十八話 気づくのが遅いだけ


ある日の帰り道。


校門を出た瞬間、

夕日がやたら低かった。


低い夕日が、

建物の影も、人の輪郭も、

同じ色に溶かしていく。


隣を歩く琴葉が、ふっと足を止める。

敦も、つられて止まった。


振り返った琴葉は逆光で、

一瞬、表情が見えない。


次の瞬間、

光に縁取られるみたいに目を細めて、

少しだけ口角を上げる。


声は、いつも通り。


「今日も、ありがとな」


それだけ。


軽い。

何でもない言い方。


——なのに。


一歩遅れた。


理由は浮かばない。

ただ、並んでいるこの距離だけが残る。


琴葉はもう前を向いて、歩き出している。

何事もなかった顔で。


敦は遅れないように、一歩出た。


夕日の中で、

その隣に立つのが、

やけに自然だった。


夜。


テレビから、無駄に元気な笑い声。

敦はソファでクッションを抱えている。


……落ち着かない。


敦(……夕方のやつ)


一瞬で、やめる。


敦(……違う)


その様子を、両親は見逃さない。


敦父「今日の敦、動きが怪しいな」


敦母「昨日もよ。帰ってきて玄関で“ふにゃっ”て笑ってたし」


敦「なんで知ってんの!?」


敦母「見てたから」


敦「見るな!!」


父が腕を組む。

嫌な予感しかしない。


敦父「今日、琴葉くん家の門の前で……ニヤッてしてたな」


敦「なんでそこまで把握してんの!?」


敦父「あれは“何か起きた顔”だ」


敦「抽象度高すぎだろ!!」


敦父「父さんは見た。“自覚前の好意”だ」


敦「分類すんな!!」


敦父「恋のオーラが——」


敦「能力者か!!」


母が真顔で頷く。


敦母「相手、琴葉ちゃんでしょ」


敦父「琴葉くん、だな」


敦「な ん で 同 時 に 言 う の !?」


二人は顔を見合わせる。


敦母「雰囲気でわかる」


敦父「確信してた」


敦「どんな超常的な確信!?」


敦母「だって幼稚園から一緒でしょ?

 今日の顔、“あの頃”だったもの」


敦「過去ログ掘り返すな!!」


敦父「“親友を見る目”じゃなかった」


敦「なんで断言すんだよ!!」


父は静かに、しかし無駄にイケボで続ける。


敦父「授業参観でも、運動会でも……お前、ずっと琴葉くんばっかり見てた」


敦「絶対見てねぇ!!」


敦父「ちらちら見てた。父さんは見逃さない」


敦「だからその観察力どこで鍛えたんだよ!!!」


敦父「そして門の前の、あの笑顔だ」


敦「忘れろぉぉぉ!!」


敦母「顔に出てるのよ」


敦「顔ってそんな信用できる部位!?」


敦父「できるな」


敦「裏切られた!!」


敦父「見る目は悪くないな」


敦「その評価いらん!!」


敦父「……で。振られたのか?」


敦「振られてねぇ!!」


敦父「告白したのか?」


敦「してねぇ!!」


敦父「……なるほど」


嫌な間。


敦父「両想いなのに気づいてないタイプだ」


敦「決めるな!!」


敦父「空気は、一人じゃ作れない」


敦「だから“空気”って何!!」


敦父「……恋人未満」


敦「やめろ!!」


敦母「親公認」


敦「余計な肩書つけるな!!」


敦父「まあ——」


急に声が落ちる。


敦父「相手を大事にしろ。

琴葉くん、いい子だ」


敦「……それは……うん……」


敦父「今の間」


敦「秒数測るな!!」


敦母「2.3秒だったわね」


敦「計測すんな!!」


敦はソファに崩れ落ちる。


敦「……今のままで、いいんだよ」


ボソッとつぶやく。


敦父「その反応。青い春」


敦「やめろ!!」


敦父「……がんばれ」


短く、それだけ。


敦(……応援されるのは、嫌じゃない……がっ)


クッションを、少し強く抱えた。


敦(……でも今は)


考えかけて、やめる。


頭の中に残っているのは、

夕日の中の、あの声だけだった。


「今日も、ありがとな」


敦、クッションに顔を埋める。


敦「……ホント」


少しだけ息を吐く。


敦「今さらだな……」


間。


敦「……俺」


クッションをぎゅっと抱く。


敦「……遅くね?」


ここまで読んでいただきありがとうございます。


遅いだけで、間違いではありません。

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