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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第十二話 いつも通りじゃない帰り道


琴葉「……あ……?」


帰り道。

空は重たい雲に覆われ、街灯が点き始めている。


琴葉が、ふっと足を止めた。


敦「どうした? 忘れ物か?」


振り返って――

敦の足も、止まる。


琴葉は胸元を押さえ、浅く息をしていた。


琴葉「……胸が、ザワザワする……」


敦「……」


琴葉「今晩……型、変えたほうがいいかも。

周期……ちょっとズレてる」


敦「……ズレること、あんのか?」


琴葉「分かんない。

でも最近、前兆が早い気する」


一度、息を整えようとして失敗する。


琴葉「身体がさ……“そろそろ”って言ってる感じ」


敦「……」


敦の眉が、わずかに動く。


敦「ズレてるなら……何か起きる可能性もあるだろ」


思ったより強い声になって、敦は一瞬だけ口を閉じた。


琴葉「……敦、そんな顔すんなって」


敦「……」


敦「お前に何かあったら――」


言葉が止まる。


敦「……いや」


一瞬だけ、

言葉にならない“何か”が浮かんで、


……


消す。


敦「なんでもない」


小さく息を吐く。


琴葉「……そっか」


それ以上、踏み込まない。


視線は落ちたまま。


琴葉「……男の俺とさ、女の俺。

最近……境界が、ふにゃっとしてんだよ」


敦「……擬音、雑すぎ」


琴葉「雑なのは事実だからな」


敦は、半歩だけ近づく。


敦「でもさ」


一拍。


敦「曖昧でもいいだろ。

どっちも……お前だ」


琴葉は立ち止まり、

小さく首を振った。


琴葉「それが……怖ぇんだよ。

今、自分がどこに立ってるか分かんなくなる」


その瞬間、

琴葉の手が震い、足がよろける。


敦「おい!」


反射で、腕を伸ばす。


敦「大丈夫か!」


琴葉「……大丈夫」


短く笑う。


琴葉「慣れてる。

すぐ変わるわけじゃない」


一拍。


琴葉「……たださ。

体より、心のほうが不安定っぽい」


敦「こんな状態で

“ひとりで帰るから平気”とか言うなよ」


琴葉「……言う予定だった」


敦「却下」


即答。


琴葉「……だよな」


苦笑。


琴葉「強がりだったわ」


敦は隣に並ぶ。


肩が触れそうで、触れない距離。


敦「家まで送る」


琴葉「過保護警報出てるぞ」


敦「出してねぇ」


敦「帰るまでの時間くらい、

俺に当番やらせろ」


琴葉は一瞬だけ息をのんで、うなずく。


琴葉「……あぁ。頼りにしてる」


笑おうとして、ちょっと失敗する。


敦「ゆっくりでいい。

歩けるか?」


琴葉「年寄り扱いすんな」


二人は並んで歩き出す。


うつむいたままの琴葉が、

敦の肩をぽん、ぽんと二回叩く。


敦「……」


一瞬だけ視線を落とす。


何も言わないまま、

歩く速度を少しだけ緩めた。


暗くなりかけた道に、

細い影がふたつ、伸びていった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


大丈夫だと言っている時ほど、手を伸ばしたくなります。

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