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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第百七話 半分にしてた気持ちの行き先


先生「鈴原、清水。体育倉庫掃除、頼む」


敦(……来た)


琴葉は「ブーブー」


先生に向かって抗議。


敦は後ろで静かに息を整える。


敦(俺、伝えなきゃなんだよな)


――琴葉丸ごと恋人だって。



倉庫。


狭い。


薄暗い。


近い。


荷物を取ろうとして――


琴葉「っ……!」


足が滑る。


倒れかけた体を、

敦が反射で掴む。


ぐっと引き寄せる形。


近い。


息が当たる距離。


琴葉「……敦?」


敦「……」


逃げない。


琴葉「……これ」


敦「うん」


琴葉「……女型なら、たぶん状況受け取れてた」


敦「男型は?」


琴葉「処理落ち」


敦、小さく笑う。


琴葉、敦の胸を軽く押す。


琴葉「待て」


敦「待たない」


琴葉「待て!!」


敦「何」


琴葉「この型の時来る?」


一瞬の沈黙。


敦「何が」


琴葉「……攻撃」


敦、目が細くなる。


敦「攻撃って」


琴葉「キスとか!!」


敦、ふっと息を吐く。


敦「俺は男も女も、区別してねぇから」


琴葉、固まる。


敦「どっちも恋人だと思ってる」


琴葉「……」


敦「型でスイッチ入れ替えてねぇ」


琴葉、完全に油断してた顔。


琴葉「……マジか」


敦「マジ」


琴葉「女型の時だけだと思ってた……」


敦「なんで」


琴葉「⋯なんか思い込んでた」


敦「知ってる」


琴葉「だから来ないと思ってた」


敦、少しだけ距離を詰める。


敦「俺、どっちの琴葉に告白した?」


琴葉「……」


敦「どっちの琴葉と過ごしてた?」


琴葉「……両方」


敦「だろ」


琴葉の呼吸が浅くなる。


初めて、

琴葉の視線が揺れる。


琴葉「……俺」


敦「うん」


琴葉「俺、勝手に分けてた?」


敦、否定しない。


琴葉の喉が、小さく鳴る。


琴葉「……外で距離取ってたの」


琴葉「お前守ってるつもりだった」


敦「知ってる」


琴葉「でもさ」


ほんの少しだけ震える声。


琴葉「……男の俺って」


琴葉「……自分で足りない側だと思ってた?」


一瞬、息が詰まる。


琴葉「……だから」


琴葉「隣に立たない理由、自分で作ってた?」


ここで初めて、

本気の静けさ。


敦はすぐ答えない。


代わりに――


額を軽く触れさせる。


敦は迷わなかった。

考える前に、体が動いていた。


敦「半分にすんな」


低い。


静か。


敦「……分けんなよ」


敦「どっちもお前だろ」


琴葉の呼吸が止まる。


敦、さらに顔を近づける。


琴葉「ちょ、ちょっと待て!!」


敦「何」


琴葉「今、油断してた!!」


敦「知ってる」


琴葉「卑怯だろ!!」


敦「今が一番本音出る」


琴葉「最悪!!」


敦、何も言わない。


琴葉「何も言わないのやめろ!!」


琴葉「覚悟決まってる側の沈黙は圧が強い!!」


敦の指先が、

わずかに力を込める。


敦「……逃げるか?」


琴葉「逃げたい!!」


敦「逃げないのは?」


琴葉「……お前が、ちゃんと本気っぽいからだよ!!」


敦、ほんの少し口元が緩む。


敦「……やっと分かった?」


琴葉「分かりたくなかった!!」


でも。


離れない。


敦が、ゆっくり距離を詰める。


――ガラッ!!


先生「終わったかー?」


二人「終わりました!!!」


反射で離れる。


空気が一瞬で“いつもの学校”に戻る。


先生が荷物を確認して去っていく。


扉が半分開いたまま、

倉庫に静けさだけ残る。


敦「……行くか」


琴葉「……おう」


先に歩き出したのは敦。


琴葉も続く。


一歩。


二歩。


――出口の光が近づく。


その時。


琴葉の足が、

ほんの一瞬だけ止まる。


胸の奥が、少しだけ騒いだ気がした。


……気のせいか。


歩幅を早める。


敦の横に並ぶ。


いつもより、

半歩近い。


肩が、軽く触れた。


でも、どちらも離れなかった。


敦は何も言わない。


琴葉も気づかない。


ただ。


倉庫を出たあとも、

その距離だけが戻らなかった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


守っていたつもりが、壁になることもあります。

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