第百六話 気づいたあとに黙る理由
琴葉の部屋。
いつもの定位置。
背中から全体重。
敦(……緊張がちゃんと抜けてる)
朝の青白い顔がよぎる。
敦「なあ」
琴葉「んー」
敦「昼、お前いないだけで普通に調子狂った」
琴葉「弱」
敦「うるせ」
でも、もそと琴葉が距離がさらに詰めてきた。
敦「……琴葉は?」
琴葉「……考えてた」
敦「珍し」
琴葉「失礼だな」
一拍。
琴葉「……朝、なんか無理やり女型になった気がする」
敦「え?」
琴葉「男型で……くっつきたいと思ったから、女型になったんじゃないかって」
敦「なんでそうなる」
琴葉「恋人は女型の役目」
琴葉「昼間は違う」
敦「……は?」
敦、止まる。
胸の奥がざわっとする。
敦(……女型だけ、俺を恋人扱いしてる?……)
繋がる。
昼間の琴葉
甘くならない距離。
触れすぎない距離。
でも離れない距離。
琴葉「敦両親はなんかすんなり受け入れてくれたけど……」
琴葉「女型は敦の恋人。男型は敦の親友」
琴葉「そのバランスがちょっと崩れた」
敦(……守ってるの、俺か)
少しだけ、苦く笑う。
敦は一瞬だけ口を開きかける。
敦「お前――」
喉まで出る。
でも。
やめる。
代わりに、琴葉の手に自分の手を添える。
琴葉「……何」
敦「重い」
琴葉「ひど」
でも、離れない。
敦はその体温を受け止めたまま、 目を閉じる。
敦(今じゃない)
言うなら、 逃げ場のない場所で。
言葉を選ばずに済む距離で。
今はまだ、 こいつが“守る側”でいられる場所でいい。
琴葉「……ここがいい」
敦「……ああ」
敦(急がなくていい)
でも、逃がす気もない。
夜は、そのまま静かに落ちる。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
気づいても、言わない方がいい時があります。




