第百五話 静かすぎる日の正体
教室。
自分の席に座ると、
無意識に琴葉の姿を探していた。
——いない。
敦
A「琴葉、今日休みか?」
敦「ああ……ちょっとな」
B「珍しいな」
敦「……だな」
それだけ。
でも、
視野がやけに広い。
体育の時間。
更衣室。
静か。
敦(……静かすぎ)
ぶつかってこない。
騒がない。
ツッコミもない。
敦(楽なはずなんだけどな)
タオルを握る。
敦
それで終わる。
ーーー
夕方
琴葉の家のチャイム。
ドアを開けると、
女型の琴葉。
朝より落ち着いている。
敦「顔、戻ってきたな」
琴葉「母さんがココア盛った」
敦「盛るな」
琴葉「砂糖三杯」
敦「雑すぎ」
少し笑う。
敦が手を差し出した。
敦「琴葉。手」
琴葉「ん」
ポスっと手を乗せてくる。
そのまま軽く握りしめる。
敦「今日は?」
琴葉「……落ち着いたから戻れたけど」
少し視線をそらして、
琴葉「このままでいたかった」
敦「……そっか」
それだけ。
その“そっか”に、
ちゃんと肯定が入ってる。
琴葉「へへへ」
母はキッチンの方から顔を出す。
母「おかえり、敦君」
その声に反応して、琴葉と敦はふと目を合わせる。
あっ……
二人は手を取り合ったままだったと気づく。
琴葉「わっ……ちょ、ちょっとストップ!見るな!!」
敦「あっ、ちょ、こ、お母さん…違っ…!」
母は微笑んで手を挙げる。
母「はいはい、落ち着いてるのね、よかったわ」
そのあまりに淡々とした反応に、二人はますます赤面。
琴葉は手を離しながらも、心の中で少しホッとする。
敦も、ぎこちなく笑いを返す。
琴葉「……母さん、今日は茶化さなかったな……」
敦「察してるな」
琴葉「やめろ」
敦「なにが」
琴葉「察するな」
敦、少しだけ笑う。
少しだけ安心した時間が流れる。
敦「……今日は、ゆっくりしよう」
琴葉「うん……」
二人は、ただ同じ時間を共有する。
外の光がやわらかく差し込む部屋で、
琴葉は少し笑みを浮かべた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
いない時ほど、よく分かります。




