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双鏡の君へー姿を変える幼馴染との恋と、残したい記憶ー  作者: ゆら。


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第百話 引いた分だけ近づく


帰り道


歩きながら。


少し沈黙。


琴葉が急に立ち止まる。


琴葉「……なぁ」


敦「ん」


琴葉「昨日さ」


敦「……うん」


琴葉「苦しかったのに」


間。


琴葉「今は、苦しくねぇ」


敦、少しだけ目を細める。


敦「……そうか」


それだけ。


琴葉「それだけ!?」


敦「何が」


琴葉「なんか言えよ!!」


敦「お前が言った」


琴葉「察するな!!」


敦「察してねぇ」


琴葉「してる!!」


敦、少し歩幅を寄せる。


敦「……でも」


一瞬だけ視線が合う。


敦「隣だからだろ」


琴葉、固まる。


琴葉「っ……」


敦「違うなら違うでいいけど」


琴葉「違わねぇよ!!」


敦「声」


琴葉「うるせぇ!!」


夕日。


少しだけ距離が近い。


琴葉「……昨日の俺、変だったよな」


敦「変」


琴葉「だよな!」


敦「でも嫌じゃなかった」


琴葉、止まる。


敦も止まる。


敦「……俺が」


言いかけて止まる。


敦「いや、なんでもない」


琴葉「言えよ!!」


敦「言わない」


琴葉「ずるい!!」


敦「お前が事故ったからだろ」


琴葉「ぐっ……!」


沈黙。


琴葉、少し俯く。


琴葉「……まぁ」


小さく。


琴葉「……悪くはなかった」


敦、ほんの少しだけ笑う。


敦「知ってる」


琴葉「だから察するな!!」


そのまま歩き出す。


今度は琴葉の方が、半歩だけ近い。


敦(……引きずってんのは俺もだ)


少し近い距離で歩いている。


敦は、ふと足を止めた。


琴葉「……?」


敦「ちょっとコンビニ寄る」


琴葉「え、今?」


敦「先帰ってていい」


軽い声。


でも——ほんの少しだけ、距離ができる。


琴葉は一瞬きょとんとする。


敦はそのまま歩き出す。


わざとじゃない。

つもりだった。


(……ちょっとだけ)


自分の温度を下げたくなっただけ。


昨日の夜。

今日の昼。

さっきの帰り道。


全部、嬉しくて。


嬉しすぎて。


(……俺の方が)


思ったより、重い。


そのまま数歩。


背後で足音が増える。


敦の手首が、くいっと引かれる。


敦「……」


振り返る。


琴葉がいる。


少し息が上がってる。


琴葉「……コンビニなら」


敦「うん」


琴葉「俺も行く」


敦「いや、別に」


琴葉「別にって言うな」


敦「……」


琴葉、眉を寄せる。


琴葉「なんで先帰れなんて言うんだよ」


敦「言ってない。先帰ってて“いい”って言っただけ」


琴葉「同じだろ」


敦は少しだけ視線を落とす。


琴葉の手は、

まだ手首を掴んだまま。


引き止める気もなく。

ただ、そこにあったから掴んだ、みたいな手。


……あ


心臓が、静かに落ちる。


琴葉「……俺、なんか変なこと言ったか?」


敦「言ってない」


琴葉「じゃあなんで距離取る」


敦「取ってない」


琴葉「取ってる」


即答。


敦は小さく息を吐く。


敦「……ちょっとだけ」


琴葉「何が」


敦「俺が」


一瞬迷う。


敦「……思ったより」


琴葉「は?」


琴葉、動きが止まる。


敦、目は逸らしたまま。


敦「だから、ちょっと落ち着こうとした」


琴葉は、袖を掴んでいた手をぎゅっと強める。


琴葉「……落ち着かなくていいだろ」


敦「は?」


琴葉「俺だって」


言いかけて止まる。


琴葉「……さっきから、勝手に隣いるし」


敦、目を上げる。


確かに。


さっきから琴葉の方が半歩近い。


さっきから手首を掴んでる。


さっきから、離れてない。


……あ


敦(追ってきたの、こいつだ)


敦(無意識で)


敦の喉が小さく鳴る。


敦(……俺の方が、重いと思ってた)


でも。


手首を握る力は、明らかに強い。


琴葉「……帰れって言うな」


敦「言ってない」


琴葉「ニュアンスだ」


敦、少しだけ笑う。


敦「……じゃあ来いよ」


琴葉「行く」


即答。


敦は、その手を

軽く握り直した。


強くない。


でも、今度は自分の意思。


敦(……重いの、俺だけじゃないな)


夕焼けの中、

二人の距離は戻る。


いや、さっきより少しだけ近い。


敦は思う。


(……引いて分かった)


(離れたくないのは、俺だけじゃなかった)


そして、ほんの少しだけ安心する。


でもそれは言わない。



ここまで読んでいただきありがとうございます。


離れようとしても、離れない時があります。


祝・百話 感謝です

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