三十四 心配
私は祭壇に乗ったことで転移させられた。それ自体は覚悟していたからさほど驚きではないのだが、転移した場所には驚いた。
その場所というのは出口……と思われる穴が見えるあたりだ。
光が差し込んでいて、風も流れてくるからそう判断した。まだ、何も手に入れられていないのに、何故に転移された。お前に魔道具なんて渡さないと……そういうわけか? 洞窟の真の主よ。
「……イスヴァはどこだ?」
イスヴァがいない。もしかして、イスヴァだけ洞窟の真の主のもとに転移されたのだろうか。それとも、洞窟の外に転移されてしまったのだろうか。彼だけ罠にかかったということも……」
「取り敢えず、ここで待……つ、か」
ここが洞窟のどの場所かわからない以上、あまり動くべきではない。体力や魔力だけ消耗する羽目になる可能性は十二分にある。彼は超人的な魔法と能力を有していたし、きっと生きて戻ってくる。
私はそうやって信じることに決めた。
……その矢先に前方から、何やら音が。
「これは……地面から聞こえているな。モグラか。今まで接近に気づけなかったとは不覚」
モグラだと判断した私は叩き殺すために拳を振り上げると、その音の方へと向かった。
そして、飛び出すと思われるその瞬間に拳を振り下ろ……
「コゥコゥ……」
……そうとしたが、中止。モグラじゃなかった。被甲目……マジロが出てきたのだ。
さっきも思ったけど、何でモグラみたいなことをするんだ、君は。モグラに憧れているのか? モグラに育てられたのか?
……後者いいな。『モグラに育てられた被甲目』……うむ、本になりそうだ。私は書かないよ。誰か書いて。
私はどちらかと言うと本を読む側のにんげ……生物だからね。書くこともたまにあるけど。
「……コゥコゥ」
「ぐっ……こちらをそんな怯えた目で見ないでもらえると嬉しいな」などといって私は笑うが、マジロの反応は変わらなかった。
あれ……言葉は通じるんだよね? イスヴァは通じていたみたいだし。私だけ通じないのか? なんでだ。イスヴァは動物と会話できる能力までは持っていなかったよね。
「うーん」
にしても、被甲目ってこんな奇妙な鳴き声を出すのだな。知らなかった。たくさん動物を見てきたが、こんな鳴き声はあまり聞かなかった気がする。ヤバ。
……たまたま私が出会わなかっただけかな?
「コゥ……」
「え……待って待って」
唐突すぎる逃走に私は手を丸くする。動物に嫌われることなどこれまで、幾度もあったのに少し傷ついているね。イスヴァに対してはあのように懐いていたからかな。嫉妬……だね。
嫉妬心をまさか被甲目にね。何故だ。自分が不可解。
「それより、追いかけないとだよね」
マジロは洞窟の外へ逃走している。単純に逃げられる場所がないからか。
この被甲目はモグラやその魔物種と違うどころか、普通の被甲目や魔物である被甲目とも大きく違うだろうからね。外に出ることに対しての驚きといったものは一切ない。
私が追ると、マジロは恐怖心を上昇させ、それに比例して逃走速度の方も上昇させていく。
マジロとの距離が空くと、その分私の脳裏には僅かとはいえ、悲しみや怒りの感情が去来する。僅かだから、表情が大きく動くことはないが、顔面の青筋は浮かぶ、戻るの動作を繰り返しているね。
「ヤバっ、外に出ちゃった」
ちょっと勢いがよすぎたみたいだね。止まれなかった。
マジロを捕まえることはできたけど……ってよく見たらいない。
いつの間にか手から離れたようだ。すごいな。何故かわからないが、明らかに当初の出会いより成長している。
あれは……いや、まあ今は大丈夫か。
あの感じだと、森から離れることはきっとない。離れた時に殺せばいい。気配は覚えたから問題はないよ。
「それより、洞窟に戻るかぁ……イスヴァは待たないといけ、な……いし」
振り返ったら、洞窟がなくなっていた。確かにここにあったはずなんだけど……あ、大樹はあるよ?
「うむ、やられたな……ツヴァイド、これを消した……というか、移動させたのは君だろう? 聞こえているか? 結界から出てやったんだろう? 知らずのうちに強くなっていたんだな」
……返事はない。まあ、でも聞こえると思って喋ろう。
「君がこの洞窟の真の主でもあるよね? ねえ?」
これは最深部に来てからずっと思っていたことだが……洞窟がなくなって確信した。奴は森の主だけあって森の中にモノを創造することも、消すことも……転移させることもできる。
「……」
よくよく考えれば、仮にも森の主であるあいつが他者に容易く洞窟を創らせ、管理させているということがおかしいんだよね。確実にあの洞窟はツヴァイドが生み出し、管理しているものだよ。
そして、ツヴァイドがそこにアルッディを招待したのだろう。恨みを持っているというのも、きっと嘘。私は騙されたのだ。
「……恨みを持っていないのなら、あいつは何故に私にアルッディを殺させようとしたのだろうか」
いや、簡単だな。私やイスヴァの力を見たかったからだろう。あいつはそういう奴だった。そのはずだ。
自分に危険が及ばないように友人に戦わせるとは……最悪な奴だな。やはり、私はあいつを好きになれそうにない。
「イスヴァ、お願いだから無事に戻ってきてくれよ」
私は洞窟があったはずの場所を見て、そう祈るのだった。
*****
「……」
「あの、質問をさせ……」
「待ち」
ツヴァイドは僕の口に指で栓をしてきました。すぐに僕はムッとしながらその指を掴んでどけようとしますが……
「待ってって」
「!?」
地面の土が盛り上がり、人形の形へと変わります。そして、僕の腕に自身の腕を絡ませ、拘束してきました。
「お前からの質問になんて答えたくないって。面倒くさいな。オラはお前と話をするためにここにいるんじゃないんだよ。お前がこの先にある魔道具を手にするに値するか判断するための『試験』を行うためにここにいるんだ。わかったか?」
ツヴァイドが指を離したので、僕は口を開きます。
「ぷはっ……『試験』……?」
「そう、『試験』だ。これを受けて合格してさえくれれば、その後には質問に答えてやってもいいよ。この先に行くことも、この洞窟から出ることだって許可する。どうだい? やる?」
拒否権なんてないくせに……!
土人形の拘束の力がその言葉の後に異常なほど強まったことで、僕はそう思いました。
「……内容は?」
「簡単。オラと戦うこと。オラを瀕死の状態まで追い込めばお前は合格。逆にオラに殺されれば、失格だ」
……このまま、了承しなかったら、今すぐもっと酷い殺され方をされそうな……そんな予感がしたので……
僕は目つきを未だ変えぬまま、静かに首肯をするのでした。
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