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三十 僕はなんで彼女を……/私はなんで彼と……

「あれだけの攻撃を受けて無事ってことはまた若さを?」


「うん。使ったんだよね。使いたくはなかったんだけどねッ!! お前らのせいで折角高まった気分もドン底なんだよね。もうッ! もったいぶらずにとっとと老化させてやるんだよね!!」


 クロノ様に手を向けようとしたので、僕はその前に立ちはだかり、彼女に対して一応結界を張ります。


「ふーん、ご主人様愛(?)ってやつなのかな? 何でもいいけど、イライラするからやめてほしいんだよね」


 ご主人様愛……


 先程までの僕なら、その言葉を放たれた瞬間に怒りの感情を覚えていたでしょう。


 しかし、今はそんなことを言われてもそれほど怒りの感情は湧いてきません。おかしいですよね。


 僕はまだ、シュバーイン様のことを敬愛していて、この人に対しては、ご主人様のフリをしているだけなのに。


「いえ、この方は……」


「……なんなんだよね?」


「……え……いえ……」


 否定したいのですが、どうにも口がその先の言葉を発させてくれない。拒んでくるのを強く感じます。


「……な、何にもないです……今度こそ殺して差し上げますよ」


 結局、僕は彼女……クロノ様がご主人様であるということを否定できないまま、アルッディとの再戦に臨んでしまうのでした。






 *****






 私も戦おうと思ったのだが、なんか結界を張られてしまった。まあ、戦いたくなかったらいいんだけどね。


 彼に私はそういった呪いの類が効かないということを後にきちんと伝えねばならんな。今はいいが、これからのことを考え……


 ……ちょっと待て。これから……?


 何を、私は彼といつまでも一緒にいる気になっていたんだ。そうだよ。私は街への案内を済ませたら彼と別れるつもりだったではないか。何故、これからずっと一緒にいるものだと思ったのか。


「老化……しない?」


 自身の思考に対して違和感を持ったのとアルッディによるその言葉は同時だった。それにより、思考は中断され、私の意識は言葉の主であるアルッディの方へと向けられる。


 老化させる呪いを使ったのにも関わらず、全く老化する様子がないから、戸惑っているようだ。


 よかった。彼までゾンマーのように老けてしまうのは嫌だった。見たくなかった。幸福だが……何故に無事なのか気になる。能力だろうと、呪いだろうと、たまに練度によって不発する可能性はあると……過去に聞いたことがあるが……


 ……でも、その可能性は非常に低いのだそうだ。あのアルッディのことだから、呪いの練度は決して低くないだろうし……多分、イスヴァが持っている何らかの耐性で弾かれたんだろう。


「もう……多分、今は朝だよね。私のあれでこいつと今のイスヴァの情報を視るとするか」


 アルッディとの戦闘には中々時間をかけた。多分、だが……もう次の日に朝になっていると思うのだ。


 朝になったら、ある能力や魔眼が使えるようになる。動物の拒絶能力もそうだが、初対面でイスヴァに使った……『鑑定の魔眼』というのもそれと同じだ。以前……冒険者時代なら回数制限も時間制限もなく使えたのだが、今はどちらもあるのだ。


 面倒くさい。まあ、最近はそれほど使う機会なんてないから、別にいいのだけどね。


「……よし」


『鑑定の魔眼』発動に問題は起きなかった。二人同時にやろうとしたら、頭痛ぐらいは起きると思っていたんだがな。


 ……結果、アルッディの呪いの練度は低くないことがわかった。他に能力とかを持っていない分、異常に高いよ。ヤバいな。


 その次にイスヴァのことも魔眼を使って視たんだけど、やはり予想通りこちらの影響で先程の呪いは発動しなかったようだ。


 彼の称号、【冥土王の使徒】……それの取得による恩恵能力に『呪術耐性』なるものがある。


 この『呪術耐性』の練度が凄まじく高い。ヤバい。その上、『収納の魔眼』とやらでその耐性の効果は更に高まっている。


 今のこの子はアルッディの天敵。疲弊して、若さもある程度使ったアルッディでは、彼を倒すことはできないだろうな。


 ……いや、傷一つつけることもできないんじゃないか?


「………ッアアア……ッチッッッッッッ!!」


 ……っ……こいつ、また舌打ちを……


 耳障りったらありゃしない。まあ、あいつしてはこちらが耳障りに思うことを狙ってるんだろうが。


 魔眼を戻して、両手を使って耳を抑えつつも、私はきちんとイスヴァの戦闘を見守る。


 ちなみに私は抑えたが、イスヴァは抑えていない。それどころか、動揺すらしていないように思える。さすがだな。ヤバい。


 イスヴァは箒を虚空から取り出すと、それを先程私の前に登場した時のように自身の真横へと浮かべる。


 虚空から出したように見えたが、よく見ると眼が光っている。今のが『収納の魔眼』の発動だったんだな。気づけなかった。


 箒を浮かべている様を舐めていると感じ取ったのか、アルッディはその瞬間に「ッチッッッ」と小さな舌打ちをすると……


 手とそこに生え揃った爪を巨大化させていく。モグラと同じことができる能力を持っているのか……あいつ自身がモグラなのか、どっちなのかはわからないが、どっちであろうとやはり敵でない。


 箒で生成した黒い刃……中級だから『黒刃』という名前だろうな。それをイスヴァはアルッディの折角伸ばした爪を細切れにするまで、放つ。あれだけ生成して、まだ魔力が尽きないとか本物の化け物だ、彼は。私が言うのもなんだが、人間に見えない。


「……ッチッッッ! ッチッッッ!」


 アルッディの顔が険しい。歯が立たないからイライラが増しているのだな。舌打ちを二回もしたんだから、絶対そうだ。


 イスヴァはその後に何故か、一瞬だけ何かを考えている素振りを見せた。何か、気になることでもあったのか?


 ……だが、そんなふうに考えながらでも、彼は今度は攻撃を食らわない。全て受け流し、倍にして返している。


 赤子の手をひねる大人のようだ。見た目年齢は全然イスヴァの方が下なのにね。普通は逆だろう。ヤバいね。


 自身の戦闘での動きを思い出してみた時に、私は彼に劣っている部分がいくつもあると感じたよ。これから、彼とずっと行動していくのなら、ちゃんと鍛え直しておかないと……な。


 ……待て。また、私は彼とずっと一緒にいる気になっていたぞ。記憶力がここまで低くなっていたとは。


 この戦いが終わったら、私は疲れた体を癒すために……寝よう。


「……っえっ?」


 驚愕……イスヴァのものだ。


 この状況で驚愕することなどあるのかと思った私はイスヴァの方を見る。そして、同様に驚いた。


「……ッチッッッ」


 この舌打ちは何度聞いても慣れなさそうだな。


 そうして、アルッディの方も見て……私は彼がイスヴァに対して、どんなことを行ったのか察した。


 若々しい顔が見る影もないほど皺だらけになり、藍色の髪は抜け、口端からは血が垂れている。


……だが、腕は巨大になっており、爪も変形している。そのせいで、『歪』という言葉が相応な気持ち悪い生物になっていた。


 こいつは、イスヴァと私を何としても殺すために、自身の全てを代償にして何らかの力を使ったんだ。


 イスヴァはアルッディのねじ曲がった奇妙な形の爪によって拘束され、壁に叩きつけられていた。先程のやり返しというわけか。


 持っていた箒は地面に落ちているし、あの状況じゃ何もできないだろうな。私が助けてやらないと危な……


「……見るべきはそこじゃないんだよね、【終焉皇】」


 箒に視線を移動させたことに気づいたアルッディが私の方へ振り返り、自身の腕を伸ばしてくる。まるで蛇のようだな。ちなみにイスヴァのことは右手の爪で抑えているので、これは左腕。


 腕を伸ばすことができるとはすごいな。


 伸ばした腕は私に近づくにつれ、その大きさが増す。爪も同様。真っ直ぐだった爪はもう片方の手と同様に奇妙な形をなした。


 直前で避け……


「られてないなっ!!」


 私の体は何故か、アルッディの爪によって拘束されていた。


「ゲホッ……最っ高なんだよね。お前らの苦しむ顔が見れて」


「……何でもいいが、そんなに強く掴まないでもらえるかな。折角大きくなった私の胸が潰れてしまう」


 にぃっと私は笑う。そんな余裕はないが、こいつの前でそれを悟られたくないという意地があったのだ。


「ぐはっ」


 奴の表情が見れなかった。だから、どんな感情を抱いたのかはわからないが、一瞬力が強まったのはわかる。


 洞窟の壁に叩きつけられた私はイスヴァを絶対に助けることを誓い、アルッディに対して啖呵を切る。


 ……もちろん、無駄に体力を使ってしまいたくはないから、声量は抑え気味だったりするよ。



「アルッディ! 今から君のその見るに堪えない顔を芸術作品へと変えてあげるよ!」


 ……って感じ。

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