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二十九 しぶとい

「こんなに……年老いて……傷だらけで……」


 ゾンマー先輩を改めて直視したことで、僕は堪えきれず、唇を噛んで口端から赤い水を流します。


 クロノ様はそんな僕を一瞥してから、ゾンマー先輩を抱えました。この場所で埋葬したくないからです。


 ここはあのアルッディの洞窟。そんな場所に埋葬するなんてごめんです。彼だって望んでいないはず。


 ゾンマー先輩が安らかに眠れる場所はここじゃない……


「……帝都の近くの……何だっけ」


「僕も覚えてませんが、ご主人様は僕が来る前によく行っていた場所があるそうなので、そこに埋葬しようかと」


「ご主人様の屋敷とか先に見ていかないの?」


「いえ、大丈夫です。屋敷はもう、跡地になっていると思うので」


 屋敷が壊れる『エイゾウ』なんていうのは途中でユーングさんに切られたので観ていませんが、まああんな強さの持ち主なら壊していてもおかしくないと僕は思うんですよね。


「……屋敷がなくなっていない可能性はないのか?」


「まあ、可能性もありますけど、先に埋葬してあげるべきだと僕は考えているんですよね。あ、もちろん。クロノ様がそちらに行きたいとのことでしたら、従いますけども」


「いや、私が君のご主人様のお屋敷になんで行きたくなるんだよ。別にそれならいいよ」


「なら、お屋敷以外で行きたい場所などは?」


 クロノ様は僕の言葉の後に思案。そして、それから秒で無言で首を横に振りました。いや、声出してください。


「クロノ様。やはり、僕が抱えます。いえ、抱えさせてください」


 彼は僕に抱えられることを嫌がるかもしれませんが、生前は拒絶されてばかりであまり触れ合えなかったので、せめて埋葬してしまうまでは彼と触れ合っていたい……そう、思ったのです。


「……そうだよね」


「ありがとうございます」


 ここで埋葬しない話になったので、もうここに用はありません。洞窟の先に進みます。奥には呪い耐性を強める魔道具があるらしいですし、被甲目もきっとそこにいると思うので。


「普通に先に進むということになったが、被甲目が入口に向かって進んでいる可能性は考えないのか?」


「あの被甲目は元々、洞窟の先を目指していたようですので大丈夫です。案内してもらえたのだって、同じ道だからという理由ですよ。身振り手振りで教えていただいたのです」


「身振り手振りで!? 被甲目が!?」


「はい」


 頷きます。まあ、被甲目は別に手足が長い生物ではありませんからね。でも、僕はなんか驚きませんでした。魔物ってそういうものかとわかっていたからだと思いますね。


「いやぁ、奇特な魔物が多い洞窟だ。いや、魔物以外もそうか」


「まあ、そうですね……あっ」


「どうした? 何か見つけたか? それとも、思い出したか?」


 後者です……僕は自身の魔眼のことを忘れていました。もう、本当にすっかり抜け落ちていました。


 ……得たものも失ったものも多いですから、失念してしまったのでしょう。なんて僕はダメなメイドなのでしょう。


 魔眼を使わないといけないことはないでしょうけど、こういう時にきちんと使っておかないと後で怒られそうな気とか……何となくなんですけど……するんですよね。はい。


「クロノ様。魔眼を使います。少し、離れてください」


 ゾンマー先輩には失礼ですが、死体は『物』に分類されると思うので、貸与された『収納の魔眼』で収納することが可能だと思うのです。このまま、洞窟の奥まで行くことを考えると普通に背負っていくのは危ないですし、こうした方がいいでしょう。


 ……触れ合いたいという気持ちはまだありますが、それは洞窟脱出まで我慢です。脱出したら取り出して抱きかかえます。


 箒も仕舞っちゃいますか。何か敵が来たら使えるかと思って、壁に立てかけておいたんですけど、今のところ気配はないのでただ荷物になるぐらいなら仕舞っちゃった方がいいと思うんです。


「おっ……問題なく発動成功です」


 ここに戻ってから箒出すのに使ったりしてますが、何回も成功することはないんじゃないかと心配していたのでよかったです。


 ゾンマー先輩を収納した僕は、少しシュンとしつつもクロノ様と共に洞窟の先へと歩みを進めます。


 この洞窟は先程の戦闘のせいで所々が壊れまくっているんですが、まだまだ意外に完全崩壊はしなさそうなんですよね。


 すごいと思います。なんか崩壊しないように能力を使って建てられたりしてるんですかね。わかりませんが。


 あんまりアルッディの建造物(?)のことを褒めたりはしたくないんですが、すごすぎるので褒めたくなってしまった感じ。


「……おお」


 それから、進んでいくとまたもや広い場所に出ました。戦闘に使ったあそこと比べると狭いかもしれませんが、ここはここで広い。まあ、目的は最深部なのでそれはどうでもいいです……が。


「……?」


 濃密な死の気配……それは後ろから。


 モグラの残党? いえ、こんなモグラがいたら気づかないわけがありません。それに、これは……アルッディより強い……


 ……いや、アルッディ本人が力を解放したとか……?


 僕もクロノ様も自身の得意属性の結界を瞬時に展開。衝撃波が来ると思われる場所から飛び退きます。


「……すごいな」


 クロノ様の呟きです。僕は何も言いませんでしたが、同じ感想を抱きましたね。


 地面が抉れたんですよ。ただの衝撃波で。


 僕とクロノ様は衝撃波の主がいると思しき方へ警戒心を向けます。誰にしろ、こちらの敵であることは確実ですから。


「さっきはよくもやってくれたんだよね」


「……やっぱり」


 相手は予想通りの……アルッディ。まさか、生きていたとは思わなかった。嫌でもちゃんと確認すべきだったようですね。


「また戦うなんて嫌なんだが」


「また戦うなんて嫌なんですけど」


 声は重なりませんでしたが、感想はほとんど同じ。クロノ様が先に、僕はその後にそう呟くのでした。

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