二十八 愚かな王と愚かな従者
「僕が来ることは想定内でしたか?」
抱えていたゾンマー先輩をクロノ様に預けた僕は、アルッディに向かってそう言いました。
「いいや、想定外なんだよね。別に相手できないことはないけど、些かタイミングが悪い。出直して……」
唐突ですが、この箒の穂先は全部で三百六十本あります。それら全てから魔法を放てるみたいなんですよね、これ。
「……っおお……効くんだよね」
正直、とんでもない物を手に入れてしまったと思ってます。これからも頻繁に使っていくことが決定しました。
「すごいんだよね、死にそう」
穂先、三百六十本……その全てから『黒球』を放ちました。『黒球』は一応中級の黒属性魔法ですが、箒を媒介にしたことにより、威力は上級に近いものになっています。
これで仕留めるつもりだったんですが……
「さすがですね」
身体中に穴が空き、ボロボロになっていますけど……死んでいません。普通の人だったら塵も残らないと思いますよ。
魔法結界は使えないようですが、もし使えていたら大したダメージになっていなかったでしょうか。
「ボクが死ななかったのは若さを代償にして肉体の防御力を上げたから。強いんだね、君。かかってきていいよ。【終焉皇】がヤらせてくれなかったから溜まってるんだよね」
「ヤ、ヤらせて!? 溜まってる?」
クロノ様!? そんな卑猥な……
思わず、僕は彼女がいる方向を見てしまいました。隙がどうこうなんてその瞬間だけ忘れてしまいます。
「隙ありなんだよねぇッ!!」
クロノ様が『いやいやそんなわけないでしょ』と言いたげな顔で嘆息したところで、僕はアルッディの攻撃に気づき、それを箒で何とか受け止めました。食らってたら大変でしたね。
こいつの弱点属性とかはあるんでしょうか。あるなら、それで戦ってもいいのですが……
……まあ、わからない以上は道具の力を最大限に引き出せる黒属性が最適かもしれませんね。
「アルッディ、あなたは何故にゾンマー先輩をここに?」
「潜在能力が高い上に馬鹿だから騙しやすい。そして、あのシュバーインとかいうのより、格段に顔がよくて若いから老化させた時に楽しめるんだよね。最高だと思うんだよね」
「聞いたのが間違いでしたね」
僕は黒の魔力を練ると、『黒剣』を生成し、それで斬りつけました。人を斬るのはこれが初めてですね。というか、剣を持つのが初めてかもしれません。魔法剣ですけど。
「……っふっ」
よくよく考えたら、こいつは人じゃないですよね。感覚でわかります。見た目は人間寄りでも確実に人間じゃない。
以前の僕ならわからなかったと思います。それがわかるのは、僕ももう人間じゃないからということの証左。
「剣は向いてませんね」
「わかってるじゃない。お前には合わないんだよね」
「『黒剣』でちゃんと一刀両断されてる敵が言うセリフじゃないですね。その程度は大丈夫だと?」
「そうそう、大丈夫なんだよね。さっきみたいに若さを代償にすればいい。ボクは他人から若さを吸い取りまくっていたから、こうやって少し代償にするぐらいなら何ともないんだよね」
見た目があんまり変わってないのはそういうことですか。
再び箒を持った僕は今度は『黒槍』を生成します。
これは単純に威力が高いというのも使う理由ではありますが、槍系魔法は普段あまり使わないので、使ってみたいという思いがあったというのも理由の一つだったりしますよ。
「……貫け」
思わず、口からその言葉が出てしまいましたが、そんなことを言わなくても発射できたりします。
槍はアルッディの体を貫くと、彼の体と一緒に洞窟の壁に向かって飛んでいきました。そのまま刺さることを祈ります。
いや、祈ってちゃダメですね。
僕は全力でそれを追うと、槍から脱出しようとする彼の顔面に向かって箒から『黒刃』を発動させ、斬りつけます。
先程、ゾンマー先輩の身体が斬りつけられていたのを僕はちゃんと確認していますからね。同じ目に遭わせてやるんです。
「……っつー!!」
「……!?」
今の謎の声と同時にモグラが狂乱。主を守るべく、こちらへと殺到してきました。もう完璧に王を守る従者ですね。
まあ、王が愚かなら従者も愚か。僕が知る人はみんな言っています。『愚か』という考え以外は浮かびません。
僕は右手をアルッディに向けていつでも魔法を撃てるようにしつつ、左手で『黒球』生成。そのモグラどもを一掃します。
でも、その一掃のために視線を数秒逸らしたのがいけなかったのでしょう。視線を戻した時にはアルッディは回復していました。早い。槍が強いからか、脱出はできていませんがね。
アルッディは見た目がさすがに変化しており、汗も滲んでいます。もう倒せますね。思ったより、苦労してしまいました。
僕は一匹だけ仕留め損ねたモグラの頭を何とか掴むことに成功したので、それをアルッディの顔面に投げつけた後……
……今までで最大の『黒球』をぶつけるのでした。
この『黒球』の生成と発動は全力で行ったので三秒しかかかっていません。こいつらは自身の死に気づけなかったでしょうね。
僕は死体をわざわざジロジロと見る趣味はありませんので、『黒球』衝突による爆発の煙が晴れるのも待たずに、ゾンマー先輩を抱えたクロノ様のもとへ向かいます。もう、手遅れかもしれませんが、今の僕なら先輩のために何かできる気がするんです。
先輩には酷いことも言われましたが、お世話にもなっているのです。冥土のご主人様にきちんと会えるよう何かしたいという気持ちは強いです。その強さはご主人様の足技並み!
ご主人様の足技はとても強いので、例えました!
「クロノ様、お待たせしました」
箒は壁に立てかけています。
「ううん、待ってないよ。あと、おかえり」
「た、ただいま戻りました……」
そんな笑顔で言われると思ってなかったので驚きました。
「……」
「……」
無言の時間が続きます。
……なんか、逃げたくないですね。ツァウにはああ言われましたけど、僕はやはり、この人をどうしても悪い人と思えない。
洞窟の最深部はもうすぐ。せめて、そこまでは一緒に。
「……あの」
今ので気づいたんですけど……
「クロノ様……ローブ脱げてますよ?」
まあ、あろうがなかろうが顔は普通に見えてましたけどね。
……何のために羽織っていたのでしょう。
……あ、正体を隠すためか。彼女は【終焉皇】ですものね。失念しておりました。やはり、言動には問題がありますが、見た目などは普通の女性という感じですからね。
「……本当だね。でも、まあいい。どうせ、ここには君しか生きているものがいないだろう」
「いや、いますよ?」
その僕の発言とクロノ様はギョッと驚きます。え……
「いや、被甲目がいるでしょう。そんな驚きます?」
「あ、そうか。被甲目がいたな……すまない。忘れていたよ」
「お気になさらず。じゃあ、被甲目も連れて……どうく……」
今度は僕もギョッと驚きました。
「え……」
そういえば、見ないとは思っていましたが……まさか……
被甲目がいなくなっているとは、思いませんでした。
いなくなった被甲目を見て項垂れていると、クロノ様がやってきて、僕の近くで言いました。
「やられた……のかな」
「いえ、やられてはいないでしょうね。少なくとも、この場では」
それはわかりますけど、『できれば、もうちょっとかわいがりたかったなー』なんてことを密かに思っていたので残念です。
……無念です。
「それがわかるのはなんで?」
「被甲目は元より硬い外殻を持つものですが、あの被甲目はそれより防御力の高い魔物版の被甲目です。もしも、やられてしまったのなら、死体が残っていないとおかしいと思います。でも、そんなものはどこを見てもないので、そう判断しました」
僕が説明すると、納得したようでクロノ様は頷いた後に……
「ゾンマーはどうする? ……もう、亡くなって……いるが」
「……先に埋葬したいと考えています。構いませんか?」
メイドなので、あまり独自の判断で行動したくないと思っています。まあ、今更感ありますけど。
「いいよ」
承諾が得られたので、僕は被甲目がいるであろう方向を考えつつ、ゾンマー先輩の身体を少しだけ確認するのでした。
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