二十七 たった数秒で醜くなるのがいいんじゃないか
魔眼成長に有した時間は貸与の時間の二倍でした。生じる苦痛もその二倍……だとユーングさんは言いますが、貸与による苦痛を既に味わっていたからか、それほど苦痛には感じませんでした。
ユーングさんも……成長させたツァウですら苦痛に感じなかったことを伝えても、よくわからないとのこと。
多分、慣れたからだと二人は言いました。確かにそれもあるとは思うのですが、僕はそれ以外もなんかある気がしてるんですよ。
何でしょ……称号、ですかね。称号だと思いましょう。
「イスヴァ」
「ユーングさん? どうしました?」
「早く戻れ」
「戻るって……洞窟にですか?」
洞窟以外にはないでしょうけど、唐突だったので僕はそう聞いてしまっていました。
「そうだよ。非常に危ない状況なんだ。君の大事な尊敬するゾンマーが酷い目に遭わされている」
「酷い、目……?」
彼は強い。そんな彼がやられるということは……アルッディが……あいつがやってきたということですか……!
拳を強く握りしめます。
「酷い目、というのは具体的には?」
「そんなの聞いてる暇ないだろ。先に会いにいけよ。『映像』で観たが、あれは酷かった。あまりに遅れると死ぬぞ」
ずっと思っていましたが、先程からユーングさんはいつものような間延びした喋り方を意図的に避けているように思います。あの声だと真剣さというのは伝わりにくいですからね。
「イスヴァ様、こちらです」
ツァウはユーングさんほどではないにしろ、真剣かつ焦燥を感じさせる声音で僕のことを洞窟へ繋がる穴まで導きます。
「死ぬ度に力が増すってことなのでしょうか……」
「……? もう、行きますよ?」
「あ、では……行ってらっしゃいませ」
死ぬ度に力が増すとか言ってましたよね? 僕、もう死にたくないんですけど、もしかしてまた殺されたり……?
……恐怖を感じつつ、穴を通り抜けました。
*****
「封印?」
「そう。あれ、もしかして封印じゃなくて隠してるだけだったりする? ……まあ、どっちにしろ、早く見せてほしいんだよね。そのために、君には『老化の呪い』を使わなかったんだから」
……? 君には? まるで、ゾンマーには使っているみた……
私はゾンマーを見て、絶句する。
アルッディはそんな私に近寄ると、その私の顔を固定して彼の有り様をその目に焼き付けさせようとする。
「安心してほしいんだよね。痛めつけ終わったから、彼のことはもう老化させている。あんな感じになるんだよね。ボクの呪い。お前にも使うことになるから見ておいた方がいいんだよね」
彼は先輩とはいえ、見た目的にはイスヴァと同じ。多分だが、十九、二十歳なんじゃないかと思ってる。だが、呪いのせいなのか……今は四十歳のような見た目になってしまった。
「……あれで終わりじゃないんだよね。あれは遅効性のもの。ゆっくり……ゆっくりと対象を老化させていくんだよね」
「なんでそんなことをする?」
「わかりきっていることを聞かないでほしいんだよね……愉しいからだよ。美しいものが醜く変貌する様は愉悦の極み」
頭がおかしいのはわかっている。でも、ここまで来るとため息をつきたくなる領域に突入するな。
「ッッッッッッチッ」
またかっ……こいつっ! 前触れもなく、やるなよ!
「昂る。美しいものはいずれ老いるというけど、いずれじゃダメなんだよね。たった数秒で老いて醜くなってくれた方がこんな感じで気分が昂るんだよね。思わず、舌打ちしたけど、許してね?」
「許すわけな……」
「許さなくていいんだよね」
あ? 許してって言ったのは誰だよ。
「そんな返答をする暇があったら、とっとと力を出せ。出してほしい……そう思うんだよね」
「断る」
「あれ、ここまでお願いしているのに?」
「お前のお願いだとかどれぐらいお願いをしたかとか関係ない。私にそんな力なんてない。あったとして、お前には使わない」
嘘。あるにはある。だが、そんなことをしたら、私はここでぶっ倒れて数時間は起きない自信がある。代償が大きい戦闘能力上昇方法なんだ。いくら強くても倒せないという万が一はあるし、絶対に、何を言われようとも私は使う気などない。
「ふうん、そういうこと言うんだね。じゃ、こっちは君がどうしてもそれを使わざるを得ない状況に追い込むだけなんだよね」
絶対にこちらが力を見せていないと確信を持っているのがすごいな。それほど弱かったか?
自分のことだからか、判断は難しい。
「っつー……っやッ!!」
「はっ!?」
私の顔面に掌底が打ち込まれ……そうになる。
事前の結界によって無傷だが、早いな。今までは手を抜いていたということか。この男っ……!
「ほらっ、弱い。反応速度遅すぎなんだよね。あのね、さっき気配を察知できてなかったことにも気づいてたよ? ボクはそんなに鈍くない。お前はボクがお前を舐めたと思っているかもしれないけど、ボクからすればお前が俺を舐めていると認識しているよ」
「なんで掌底っ?」
私は結界の解除と共に自身も掌底を繰り出そうと試みる。今の言葉はその最中に出した言葉だ。
「クロノ、お前が体術もやっているのはゾンマーとの戦いを見て知ってる。だから、ちょっと使おうと思ったんだよね。どう? すごいでしょ? ボク、これでも完全初心者なんだ、け、ど?」
初心者ねぇ。何で勉強したのやら。学習能力と記憶力、ちょっと高そうに見えないこともないからね。
その点のみは羨ましいと言っていい。その点のみだが。
「……っほっ」
私の掌底炸裂!
「……っおお、ちょっと効いたかも。本気出してないのに、これ。やっぱり、【終焉皇】は強いんだよね」
ふう……なんでこいつは私が力をまだ隠しているということをいとも簡単に見抜けるんだ。気味が悪い。
顎をさすりながら、吹っ飛んで壁にめり込んだアルッディは口の端から血を垂らして……何故か、ゾンマーの方へ向かう。
そちらへ向かう理由はただ一つ……マジか。今、殺す気か!
……それだけ、私の本気が見たいということかよ。
私は阻止しようと向かう。だが、直前に大量のモグラが私を襲う。両手で数える程度ならまだあしらえたが、数が多すぎる。
くっ、最低でも三十秒だ。こいつらは物凄い連携力高いし、攻撃しようとしても、すぐに地面潜るから中々疲れた私は攻撃を浴びせられないんだ。でも、それでは遅すぎる……
「ゾ、ゾンマー! 起きろ! 逃げろ!」
ゾンマーは起きない。いや、もう起きれないのかもしれない。顔だけじゃわからないけど、もう放っといても死ぬ状態なのかもしれない。でも、確かめていないのなら、私は叫ぶよ。
「ゾンマー!! このまま、そんな死に方をしていいのか!!」
それと同時に前方で……目の先で大爆発が起こる。それはゾンマーのもの……かと思ったが、そうではなかった。
爆発による煙は三秒でその犯人により払われる。それにより、私はそれがゾンマーでないと判断した。
その犯人というのは……
「先輩をこんな目に遭わせたあなたを僕は許せません。なので、彼より辛い目に今から遭わせてあげましょう」
自身の真横に謎の箒を浮かべた……イスヴァだった。
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