二十六 マオルゾンビの卑劣な攻撃とアルッディの舌打ち
私が足を進めようとした時には、ゾンマーはもう隣にはいなかった。いたはずの地面には靴の跡がくっきりと残っており、彼がヤバいほど力を入れてモグラたちの方へ向かったのがわかる。
魔法攻撃じゃないんかい。君がいると、私は魔法を放てないんだがな。巻き添えにしてしまうではないか。
……まあ、いい。私が魔力を溜めきった後に合図を出して戻ってきてもらえばいい。それぐらい聞いてくれるだろう。さすがに。
「……ほう、中々にやるな」
先程交わった時に体術はできないようだというのがわかった。だから、接近して何をするのかと思ったらそんなことを……
「あァッ!!」
魔道具だ。多分、自身の身体能力を限界まで押し上げるものかな。いざという時のためにとっておいたのだろう。
へなちょこな殴打だが、それでも身体能力が限界まで押し上げられているからかモグラは簡単に駆除されていく。
一番いい状態のモグラでも体中ボコボコで原型を留めていないから、あれならゾンビでも再び動くことはないね。
ゾンマー……彼には賞賛の拍手を送りたい。あんなリスクの高そうな魔道具を躊躇なく使えるなんてね。
多分、敵だったらこんなふうに褒めたくならなかったな。
それから、無双状態が続いた。中々にかっこいいものだね。
……あんなに激しい動きをしているのに、あまりメイド服に汚れがないところも実はすごいって思っているよ。スカートがめくれないこともね。私は昔はよくスカートを履いていたが、激しい動きをしたらめくれていたからね。まあ、当然だけど。
「はァッ……はァッ……!」
息は荒いが、それは彼が高揚しているからだろう。疲れているわけじゃないと思う。
表情もいいし、汗もあまり出ていない。だから……無双状態はまだ続くと思っていた。だが、それは……私の予想の半分の討伐数にも満たないところで、唐突に終わってしまうのだった。
「……なっ」
モグラの体が肥大化していく。元の体の二倍ほどの大きさ。まだ十七匹も残っているのに、それら全てが二倍ほどの大きさになっているのだ。あれで強さとか……速度まで二倍になっているのだとしたら、きっと彼に勝ち目なんてないぞ……皆無だ。
その嫌な考えは的中することになる。ただでさえ、速い速度も二倍……彼の傷を見るに、攻撃力もちゃんと予想通り二倍だ。
モグラによる爪の攻撃は簡単には終わらなかった。モグラたちは自身の仲間を殺された恨みを晴らすためか、ゾンマーに対して手加減するようになったのだ。
最初の方が強かったのはまず行動不能にするため。行動不能になった今、同じ強い攻撃を食らわせていたら早く死んでしまう。
恨みを晴らすには簡単に死んでもらったら困るから、手加減して、嘲笑っているのだろう。
まさか、モグラのあのような下卑た顔を見ることになるとは思っていなかったよ。本当に腹立たしい。
なんて、卑劣なモグラなんだろうか。ヤバいな。
「ぐァァァッ!!」
このまま攻撃を食らったままいられるか、とでも思ったのだろうか。ゾンマーは力を振り絞って立ち上がろうとするが、それがモグラの怒りを更に膨れ上がらせる要因になったらしい。
爪の力が少しだけ強まったように思う。
私は我慢できず、接近しようとするが、そこをアルッディに阻止された。私の視線がモグラに移動している間に背後に移動したらしい。このアルッディって奴もモグラも気配がないから、こうやって気づかぬうちに接近されるということが起こってしまうな。
「ふ……ッつつ。快感だよね。君のその顔をもっと見ていたい。だから、あちらには行かせないんだよね」
「下衆が。その下卑た顔を少しは隠せ」
下卑た顔をしているのはモグラだけではない。こいつもなのだ。気持ちが悪い。見ていて、吐き気が催される。
「本当に楽しいから、隠す気はないんだよね。あのさ……」
はっ……そう言うと、アルッディは私の耳元に急接近してきた。何を言うつもりなのかと思ったら……
「……ッッッッッッチッ!」
「っはぁ!?」
私は耳を抑えてその場から飛び退く。この男に本気で恐怖を感じた。森の主に初対面時で迫られた時のことが想起される。
この男は今、私の耳元で舌打ちをした。舌打ち、それは文字通り……舌を打つという行為。
……その行為をする理由はそうあるものじゃない。
「私の怒りを増幅させるためか。最悪な趣味をしているな」
「せいかい……っと言いたいところだけどダメだね。五十点だ」
五十点……?
他に理由があるのか。自分の気分上昇のため、とか? ヤバ。
「ボクが舌打ちをするのは、挑発するためでもあるけど、それをすることが能力の上昇に繋がるからでもあるんだよね」
気分じゃなくて能力の上昇のためでもあったのか。
「最悪な能力上昇方法だね。嫌じゃないのか?」
「とんでもない。最悪どころか最高なんだよね。知ってる? 舌打ちって言葉を発さず、簡単に相手を苛立たせることのできる最高な挑発手段なんだよね。もう……ッ癖になっちゃうんだよね」
「……っ」
「あっ、見てみな。彼を……ちょうどいい感じにボロボロになっているんだよね。み、ど、こ、ろってやつなんだよね」
「はっ」
その一言でゾンマーの方へと私の視線は移動する。
彼は……私がアルッディと話している間に……見るも無惨な姿へと変貌を遂げてしまっていた。
傷は増え、先程のゾンマーにやられたモグラなどマシに思えるほどにボロボロになっていた。あれはまだ生きているのか?
爪のせいであれだけ綺麗だったメイド服はビリビリに破れ、露出した肌は抉られて、肉が露出していた。見るに堪えない。
それでも、モグラどもは攻撃を止めていない。しかも、攻撃しているのは無傷な部分ではない。既に抉れた箇所だ。このままだと内臓まで露出してしまうだろう。そうなったら……最悪だ。
助けに行きたいが、どうする……
……いや、どうするじゃない。何を迷った。なんでわからなくなった。こいつを殺す以外ないだろう。
……簡単な……ことだっ!!
瞬時に魔力を溜め、私は『強闇球』を放つ。
……すんでのところで避けられてしまうが。
「おっとと……さすがは【終焉皇】。とんでもない威力なんだよね。でも、少し……少しだけ……ガッカリなんだよね」
ガッカリ……だと?
私はアルッディを全力で睨む。挑発も大概にしてほしいものだ。ゾンマーとの戦闘時の怒りを抑えようという決意が揺らぐ。
隙を生まないために手を前に突き出し、いつでも魔法を放てるようにしながら、私は深呼吸してみる。
……っはぁー……落ち着く。
「確かにお前は強い。とてつもなく強い……でも、伝説と呼ばれるほどじゃないんだよね。これなら、ボクが本気を出したなら……勝てちゃうかもしれないじゃないか。おかしいんだよね」
こいつは私を何だと思っているんだ。
「ねえ……」
アルッディはその一言を言い終わる前にこちらの耳元にまた近寄ってくる。また舌打ちをするつもりか?
そう思ったが、その狙いは外れた。ただ、私のガッカリした点を話すだけ……それが次の瞬間にわかる。
「お前、力を封印してるだろ?」
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