十五 ……え? ……ゑ?
「最初は【終焉皇】について教えてあげるよ」
「あー……はい」
あまりに気持ちが悪いので、返事に力が入りません。
魔眼……でしたっけ? あれの耐性も手に入れることができたら、いいんですけどね……
……もうこんな状態に陥りたくはありませんから。
確か……称号取得により得た力を行使していくことで段々と別の力も手に入るんですよね。頑張ります。
「【終焉皇】っていうのは世界を終焉に導くことができる力が手に入る呪いの称号なんだよ。その称号を手に入れちゃった者は否が応でも世界を滅ぼさないといけなくなる。本人もこんな称号は捨てたいと思ってるんじゃないかな。多分」
「それは誰なんですか?」という質問を……投げかけたいと思いました。思っただけです。気持ち悪くて喋れないので。
ですが、僕が口をパクパクしてたおかげで考えを読み取れたようでユーングさんはきちんと話してくれました。
「君を帝都まで案内しているあの女性、彼女が【終焉皇】だよー。色々不思議な力を持っていたりしたでしょ」
不思議すぎました。驚きました。彼女に名前を当てられた時は僕、恐怖に震えましたからね。初対面の女性をあそこまで恐怖したのは初めてです。もう二度と経験することはないでしょう。
「【終焉皇】はね、強大な力を持っているし変人だけども、実は今の君とは相性がいいんだ。存分に利用するといい」
相性がいい……? 僕と……?
……え、嫌なんですけど。普通に。いえ、物凄く。
「じゃ、次いくか。あの『映像』に出てきた『襲撃者』の名前を教えるよ。殺す対象の名前は知っていたいでしょ」
この人、僕と違ってあの人を『襲撃者』って呼んでるんですね。いや、まあどうでもいいですが。
「アルッディだ。覚えておいてねー」
「アルッディ……」
「そう、アルッディ。じゃ、次いくよー、次」
「……」
「次は何故にこの空間に君を連れてきたのか! その答えは簡単。この空間じゃないと君が死んでたから、でした!」
なんでそんな軽い感じで言うんですか……? 衝撃的なことを。
「……な、何故……?」
「いや、そのまんまだわ。あの後に君の本体は心臓が止まって……ま、死んでしまったんだよ。でも、そのままにしてたら魂が消滅して蘇生不可能になっちゃうから、この浄魂場モドキに強制的に魂を連れてきたわけ。浄魂場モドキでもさ、本気で造ったから魂を連れてくることは簡単にできちゃうわけよ。すごいでしょ?」
死んでいたんですか。では、今頃あの黒いローブの人……ではなく、【終焉皇】さんは慌てているかもしれませんね。
早く戻りたいという思いが強まりました。
「生物の魂を同じ体に戻すことは簡単にできない、普通はねー……でも、君の魂なら可能だ。だが、ただ戻すだけだったらアルッディなど強者に出会った際に再び命を落とすと思う。だから、預かっていた称号を返すために君にはここに来てもらったんだよねー」
なるほど。
「でもさ、ここは魂を浄化しちゃう場所なわけだからさ……すぐに称号を返すことはできなかったわけよ」
「……?」
「わからない? 自動的に浄化されちゃうんだよ。何もしていない剥き出しの魂のままじゃね」
あー、そういうことですか。
納得がいったので僕は頷きます。
「今の君がこうしてここで行動できているのは、剥き出しだった君の魂をさ……君と瓜二つの容姿を持った俺の部下のメイドの体に上書きしてみたから。魂は一つの体に混在できないもんなんだけどさ。その部下は特殊だから、大丈夫なんよ」
部下の人に許可はとってるんですよね……?
……ま、この人はそこまで悪魔ではないと思うので、多分無断で他人の体に魂を上書きするなんてことはしてないはず。
「安心してくれ、許可はとってっから」
僕の考えを読んだようにユーングさんはそう答えます。
よかった。ま、さすがにとってますよね……
「じゃ、とっとと君を戻してあげてーし……最後ね。俺とツァウが黒い体になってたのは何故か教えてやる」
そ、それって……
「ツ、ツァウは……それを隠したがってた……ようですけど?」
「あー、あの人そんなこと言ってたん? 別に話して大丈夫だよ。黒くなってたのは君の魔力を少しずつ吸収してたからだし」
え、吸収……? 僕の魔力を……?
ええっと……吸収されていたにしては、僕の魔力量はとんでもなかったような気がしてるんですけど。
「言っとくけど、何もしなかったら君の体からは今の三倍の魔力が溢れ出ていたんだからねー? こうして吸収しないと危険なんだよ。黒の魔力以外も君は持っていると思うけど、何故か吸収するとなると体が黒く変色してしまうんだよね。原因は不明」
僕の魔力って吸収したら、体が黒く変色してしまうんですか……知らなかったんですけど。怖すぎませんかね……
自分の体内を見る機会なんてないとは思いますが、そんな機会が巡ってきても絶対に見ない。僕はそう思いました。
「もういいよね。他に気になることってないでしょ。あるなら言ってくれれば……あ、そういや君って気持ち悪いんだったね」
誤解を招く言い方をするのはやめていただきたいんですけども。何が「気持ち悪いんだったね」ですか。この人、もしかしてわざとやってるんでしょうか。苛立ちますね、本当に。
……まあ、聞いてるのはキュンしかいないからいいですけど。
「まだ気分が悪そうに見えました? 大丈夫ですよ、もう」
何故かわかりませんが、少し前に気分が良くなったんですよね。不思議で……
「勝手ながら、私めの能力にて回復させていただきました」
「……え!? ツァウ!?」
先程のようにヌッと現れてきたので、同様に驚いてしまいます。何故か、体が元の色に戻っていますね。冥土にいた頃は見慣れていた存在ですが、久々なので緊張してしまいます。
ここに来れないんじゃなかったんですかね。来れるなら早く来てほしかったんですけども。
あ、そういえば、ここに勝手に来たのは僕でした……ははっ。
ツァウは引き止めていましたもんね。早く来てほしかったなどと考えた数秒前の自分を叩きたい……
……叩きますか。そう思い、右手を勢いよく頬へと持っていこうとしたところでツァウが僕の手首を掴んできました。
「自傷行為はおやめください。これでも私はあなたの元執事。目の前で主人の体に傷がつくのを黙って見守っているわけにはいかないのです。どうか、ご理解いただきますよう」
じ、自傷行為って……ちょっと自分に喝を入れようと思っただけなんですけどね。大袈裟ですよ……
「……ツァウは、何故ここに来れたのでしょう? 僕と同じように光の穴を通ってきたんですか?」
正直、それはないと思っています。光の穴を普通に通行できるのなら、ここにもう少し早く駆けつけられたはずですから。
「いえ、あの後に光の穴は閉じてしまったため、別経路にてこちらまで参りました。空間の奥にこちらへ通じる穴がもう一つあるのですよ。少々行くのに時間がかかるのが難点ですが」
「そうですか。では、先程まで体が変色していたのにもう元に戻っているのは何故でしょうか?」
「失礼を承知で申し上げますが、私やそこな愚か者の体色変化はイスヴァ様が有する莫大な魔力が原因ですので、それがイスヴァ様のもとへ戻ったために体色も戻ったのだと思われます」
愚か者って言いすぎ……じゃないですね。
会う前だったら言いすぎだと思っていたでしょうが、きちんと会って話してみた今ではその通りな気がしてしまいます。
「イスヴァ様、あの愚か者に制裁を加えるご許可を」
制裁を……? この人はなんかしてました……?
僕は許可をする前にツァウの背中を見て考え……とあることへと気づいてしまいました。
そうです。この人、背中に落書きされているんです。今もそれが残っています。もしかして、この落書きって……
「許可します。存分にどうぞ」
僕が許可した途端、ツァウはユーングさんの脇腹へと飛び蹴りをかましていました。
それだけでは終わりません。キュンに命令して「よとと……やりすぎでしょー」などと言うユーングさんの頭をつつかせていました。痛がっていますが、止める気が起きませんね。
「では、イスヴァ様。お渡ししておきたい物がございますので、少し下がっていただけますか?」
お渡ししておきたい物?
「私はユーングに制裁を加えるためだけに参ったわけではないのですよ。お渡ししたい物があるから……そして、あなたに少しだけ言いたいことがあるから、参ったのです」
僕はあちこちに視線を向けてみます。
「……あ」
暗い空間だから気づきませんでしたが、何か箱が置いてありますね。あれのことでしょうか。
渡したい物というのはあの箱自体ではないでしょうね。箱の中に入っている物が渡したい物でしょう……多分。何となく。
ツァウはこれも罰だと言わんばかりにユーングさんにその箱を持ってこさせます。こうして持ってこさせているので、すぐ開けると思っていましたが、そうはなりませんでした。
「開ける前に言っておきますね」
「な、なんでしょう?」
僕の問いと同時にツァウが神妙な面持ちになり、ユーングさんをこちらに呼びます。
そして、ユーングさんが来た後にこんなことを言いました。
「【終焉皇】のことは知っていますよね?」
「あ、はい」
あの女性のことですよね。先程、ユーングさんよりお聞きしているので、きちんと知っていますとも。
「イスヴァ様、あなたは彼女に仕えることができますか?」
へ?
困惑します。しかし、ここに来てから困惑することが続きすぎているせいか顔はあまり歪まなかったと思います。
僕は困惑しがちな人間に思われそうですが、そんなことはないですからね。ここに来てこの人たちに会ったら他にも同様に困惑する人はたくさんいると思いますよ、僕はね。
「……」
っふぅー……
息を整えれば、問題ありません。問題なく、返答できます。
「僕のご主人様はあの方だけです。申し訳ございませんが、それはできません」
断言しました。僕はあの日……彼に拾われた日に、彼にだけ仕えると、心の底から誓ったから。
もう、あの人がいないのだとしても、僕はあの人だけに忠誠を……
「……やはり、そうですか。まあ、そうですよね。そう言うと思っていましたよ。私もユーングも。ですが、あなたには絶対に彼女に仕えてもらいます。拒否権は与えられません。聞くべきでは、なかったかもしれませんね。私の失態です……」
「……な、なんで……?」
「率直にお答えいたしましょう。彼女に仕えなければ、あなたは高確率で再び死ぬのです。なので、仕えてもらいます」
「ゑ?」
キュンがこちらに飛来してきます。
そして、ツァウの言葉に呆けてしまった僕に喝を入れてくるかのように頭突きをかましてきたのでした。
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