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十三 クズからの頼み

 え、死んでいる……のか?


 私はイスヴァの胸だけでなく、腹部の動きも確認してみる。


「どちらも、動いていない……」


 何度、確認しても動いていない。ダメだ、死んでしまったということなのだろうか。そうは思いたくないが、人間であるなら、こんな状態では生きていないはず。何とかせねば……!


 まだ、止まってから時間は経っていないよね……? 多分。


 私は彼の胸に手を当てると、精一杯に胸骨圧迫を開始する。冒険者だった頃にはこのようなことは日常茶飯事だったから、治癒ができる者が仲間にいなかった場合のみやっていたが、引退してしばらく経ってしまっているから、最近は全くやってないね。


 治癒系の能力があればいいんだが……そんなものはなく、治癒系の魔法は呪いのせいで私は使えない。


「……ダメか……?」


 人工呼吸はできるなら、やりたくない。どうしても無理ならやるけど……本当に……やりたくない。人工呼吸は接吻にあたらない。そう思って過去にやろうとしたことがあるが、無理だった。


 人ならざるヤバい力を手に入れたが、私の感覚はまだ人のままだ。他者の唇を奪うことには激しい抵抗がある。


 胸骨圧迫は強くやればいいものでもないのだろう。でも、必死な私はこの時に力を強めていた。


「……っ……はっ……はっ!!」


 ……っダメだ。


 さすがに力が強くなりすぎていることに自分で気づいた。魔力製のベッドが軋んでいる。


 このベッドは普通のベッドと比べて軋みにくい。そんなベッドが軋むのだ。相当な力が入っていたとわかる。


 私は一旦手を止めると、彼の心臓の鼓動を確かめるため、再び自身の耳を彼の胸の方へと近づける。


「……っ動いていないか……!」


 もう人工呼吸するしかないのだろうか……! 他に何か……


「そいつを助けようとしてるのか?」


「……」


 嫌な声だ……


 これは遠くからじゃない。物凄い近くから発せられた言葉だ。先程の戦闘から、誰かがここにやってくることはなかった。


 あったら、すぐにわかる。


 だから……間違いない。私は瞳を細め、睨むために振り返った。


「おい、なんでもう復活しているんだ?」


「酷い言い草だな。天敵とはいえ、それは傷つくぞ」


「私を殺そうとしてきた者の言葉ではないな」


「お前だって、優しくしてくれなかっただろ」


「……」


 私はそれから数秒の睨み合いの後……


「とっとと去れ」


 そう言った。怒りを込めて。


「……嫌だな」


「ならば、死ぬかい?」


「そんな悲しいこと言うな」


「黙れ。私は初めて会った時から君のことが嫌いなんだ。またそうやって復活されても面倒だから、今からここで確実に殺しておくことにするよ。黙っていればこうならなかったのにね」


 初めて会った時に私はこいつに性的に辱められそうになった。だから、私はこいつが大嫌いなんだ。


 森の管理は面倒だろうけど、冒険者を引退して時間には余裕ができてきたところだ。きっとできる。


「はぁ……」


 何をため息ついているんだ……


 ……もういいか。とっとと殺そう。


 私はイスヴァから手を離してベッドから距離をとると、草木に当たらないほど圧縮した『強火球』を森の主に放とうとする。


 だが、放つ前にその腕を森の主に掴まれてしまった。


「……っ速いね……!」


「まあ、な」


 一瞬で距離を詰めた。風などを利用したとしても、あまりにも速い。なるほど、本気を出せばここまで速いと。


「速さだけで私が殺せると思っ……」


 ペタリ、と綺麗な音が耳に届く。


 私の口を森の主が手で塞いだ時の音だ。振り落とそうとしたところで、彼は私に向かって口を開いた。


「オラはお前を殺すために復活したんじゃない。お前にやってほしいことがあるから、復活したんだよ」


 森の主はそう口にすると、私の口から手を離す。苦しいから次からしないでもらいたいな。


 苦しくなくても嫌だけどね。普通の男でも嫌なのに天敵と呼べる男に唇を触られるなど。屈辱的にも程がある。


「……っやってほしいことだと? 何を?」


 頼みが何であれ、応えてやる気はない。ただ、こいつが私に頼みごとをすることなんてそうそうない。だから、どんなヤバい頼みごとなのかは一応知っておきたい。そう思ったんだよ。


「まず、座れよ」


 風で強制的に座らせようとしてきた。逆らってもよかったが、座らないと何回もやってきそうだったから大人しく座る。


 ストン、と私が尻を地面につけたところで森の主は話を始めようとしてきた。


 それが私は腹立たしくて、同じ……いや、二倍ほどの威力の風の魔力で森の主を強制的に座らせようとする。


 さすがに座ると思ったが、嫌なようで反抗してきた。なんでだよ。そんなに見下したいのか、このヤバい馬鹿は。


「君も座れ! 見下すな!」


 怒号と呼応するかのように、私の手より発生した暴風が森の主を地面へと叩きつけた。


 苛立っていたから、思わずとんでもない威力の風が発生してしまっていたが、イスヴァにも森の草木にも影響ないしいいか。


「……げ」


 あまりの勢いに地面は窪み、その中に森の主が潰れた蛙のような姿勢で倒れていた。やりすぎてしまったな。


「け……おっ」


 蛙の鳴き声のような掠れ声を嘲笑うように笑った後、私は「どんなことをやってほしいんだい?」と聞いてみた。


「……っ……ふっ……けほっ……オラはな、お前にアルッディっていう奴のことを殺してもらいたいんだよ……」


「アルッディ? 誰だ。知らない名前だな」


 誰のことだろうか。そもそも、こいつは普段眠っていて人前には滅多に姿を現さないのに、何故に対話できている? そのアルッディというのはきっと、ただの人間ではないな。それどころか、精霊やそれに近しいヤバい存在の可能性も……


「……っか。知らんか……ああっ……まあ、アルッディっていうのは、オラにお前のことを殺すように頼んできたオラの旧友だよ。あ、頼まれたのはお前と出会う前だから……えっと、確か七年前ということになるな。一応友達の頼みだからな。素直に従うことにして、お前のことをずっと殺そうとしてきたんだけど……」


「だけど……?」


「さっき、オラはお前に剣で斬られただろ。あの時に一度死んだんだ、オラは。その時にあいつに呪いをかけられていたことに気づいてな。物凄く腹が立つから殺そうかなって思ったんだ」


「呪いってなんだい?」


「『老化の呪い』だ。あいつはオラを老人にするつもりだったとわかった。オラはそこらの生物と違って寿命が長いから、さほど見た目にも変化がないし、まだまだ寿命も全然残ってる。それでもなぁ。こんなことをされれば、イライラするんだ」


 ……ええっと、『老化の呪い』……って名前だったかはわからないが、似たような名前の呪いは聞いた気がするな。


 すぐには、まあ……思い出せないけど。


「あいつは自分より若い生物を許さない。誰よりも若々しく在りたい。誰よりも綺麗でいたい。だからこそ、他者を老化させようとしてんだ。気に入った生物は見た目だけ老化させ、不死にさせたりもするみたいだが、そこに関しては真偽はわからん」


「ふむ」


「オラはその頭のおかしさが気に入ってつるんでたんだが、オラのことも老化させようとしていたことに腹が立ったし、もう友達とは思わねぇ。殺してやる。ただ、オラは『森の主』という称号があるから、森を出られねぇ。だから、お前に殺してほしい」


「……なるほどね」


 ふむふむ、色々なことに納得がいった。


「そういう奴は私も嫌いだし、殺してあげようと思う。だが、君のことを許すつもりは未だにない。攻撃してきたことはまだ許せるが、君は私のことを辱めようともしたから」


「……悪かったな。あれはすまねぇ。性欲が暴走した」


「それで許されるとでも?」


「思ってねぇよ。だから、ちょっと待て」


 森の主は自分の手から大量の赤い果実を創り出す。こいつは『森の主』という称号のおかげで無から果物を創り出せるのだ。


「大量に創った。お前、これ好物だろ?」


「……はぁ。果物ごときで許されたいとか……まあ、いい。君にできることがあると思えないし、どうしても何かしてもらいたいと思っているわけでもない。許さないが、咎めない。もう、話は終わりだ。君の言うそいつを殺してやるから、場所を教えろ」


「ありがとう……感謝するぞ。場所なら……多分帝都だと思うな。帝都の方向に行ったから」


 帝都に……?


「何かすごいことをするつもりだろうな」


『すごいこと』なんて曖昧な言葉じゃわからないが。まあ、いい。私も『ヤバい』という曖昧な言葉などを多用するからな。指摘ができないことはきちんとわかっているとも。しないよ。


「すまなかったな、今まで色々。お前があいつを殺してきてくれたら、また謝るしまた果物たくさん出すぞ」


「わかったわかった……」


「頑張ってくれ」


 何が『頑張ってくれ』だ。


「あ、自由に行動できると思うなよ、クズが。君には私がアルッディとかいう輩を殺して、ベッドで寝ているメイドのあの子を助けるまで、結界に入ってじっとしていてもらうからね」


 私は森の主へと手を翳し、称号を利用した得意な闇属性の狭域の完全透明強結界にて彼のことを囲む。あまりにも狭域な上に透明なので、本人は縄で拘束された時のような心地だろう。


「……っ」


 称号を利用した魔法というのはそれだけで多大なる魔力を消費するものだが、今回は極限まで狭域の結界を生成したので、その消費量は甚大。さすがの私でもクラっとくるほどだ。


 でも、彼は初対面時と比べると格段に力が上がっているっぽいからね。ここまでしておかないとすぐ出てきてしまう。出てこられたら、罰にならない。


「……お前、中々意地悪だな」


「何故、意地悪だと思うんだ。というか、もし意地悪だとしても君にだけは言われたくないね。ツヴァイド」


 私は睨みつけつつそう言うと、イスヴァが眠るベッドの方に向き直った。イスヴァを私の力だけで助けるのはもう無理だ。


 だから、帝都の方にもう向かってしまおう。帝都なら、イスヴァを助けられる者がいるかもしれない。あそこはとにかく広いし、住人の多いヤバい街だからね。誰かそういう者もいると思う。


 イスヴァを助けられる者を捜してから、アルッディとかいう輩を捜す。優先順位は間違えない。


 私はベッドを消すのが面倒なので結界だけ消すと、ベッドごとイスヴァを持ち上げ、帝都の方へと全速力で駆けていった。

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