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十一 道化メイドは何を思う?【壱】

 侵入者の発言を聞き、少しだけ頭に痛みが走ります。


 冥土王の血縁というのは記憶が戻った今ならわかります。僕のことでしょう。あの屋敷に来たわけですから。


 ……ただ、【終焉皇】というのは誰の称号なのかわかりません。ツァウが僕を冥土城の転移穴から落とす時にその称号を持った人物をさがすようにと言ったので称号名だけは知っていますが。


 ツァウがここにいればいいのですが、転移してきていないので聞けませんね。頭の中で念じたら来てくれるなんてことは……まあなさそうですので、後でユーングさんに聞くとしますか。


『そのようなものはこの屋敷にいないな。とっとと立ち去れ』


 ご主人様は断言。


 すると、侵入者は真顔になってご主人様に接近。


 量産型人工カラスは侵入者がこれから何かをしようとするとわかったようで、物凄く近くまで寄っていきます。


 透明化しているとはいえ、ここまで近くにいて気づかないのは普通にすごいですね。


 キュンくんで思いましたが、このカラスって普通の生物とは違って呼吸をしないっぽいんですよ。もしかしたら、それのおかげで全く気づかれていないのかもしれません。


『……嫌いなんだよね、そういうの』


 侵入者はそう言うと、ご主人様を自身の両手を使って拘束しようとします……が。


 ……失敗。ご主人様が足を振り上げて、侵入者の顎を思い切り蹴りあげましたからね。


 僕は多分、この時に目を丸くして口を開けていたと思われます。


『貴様は強いのだろうな。だが、これでも一時期は蹴り技の達人として名を馳せていたのだ。簡単に拘束できると思うなよ』


 ご主人様がいつも以上に凛々しく見えます。あ、『いつも以上に』というのは重要ですよ。いつも凛々しいので。


 凛々しい表情のまま、蹴りを侵入者の顔面に何連発もお見舞いしていきます。それは僕が見たことのあるご主人様の動きの中では、最も美しいのではないかと思います。


 侵入者は避けていません。なので、蹴りが病んだら元の顔がわからないほどに顔面が腫れていると思いましたが……


『お前に聞くのは無駄だからやめることにするんだよね。あ、戦いのほうもそろそろ退屈だから終わらすけど、いいよね? 早く探したいんだよね』


 少しも腫れていません。それどころか、傷一つなく……精神面にも見る限り何ら影響を及ぼしていないように思えます。


 ご主人様の蹴りは『エイゾウ』越しで観ている僕でも、本当に凄まじい強さだとわかります。


 それを容易く受け止め、それからすぐにご主人様へあの蹴り以上の威力の一撃を見舞う姿を見て、僕はこの『エイゾウ』を見た中で自分が一番驚いているということに気づきます。


 とんでもないです……


 ご主人様とゾンマー先輩、両者ともに意識がありません。ただ、あれはまだ死んではいないと思うんですよね。何となく。


 もしも、死んでいないとするなら、侵入者はこれから二人へどんな酷いことをしてくるのでしょうか。


『ほッ!』


 侵入者は飛び蹴りをしてきました。蹴り技が得意そうではない上に、足は病人を思わせるほどに貧弱。そんな奴がわざわざこんなことをやってくる理由など僕でも想像がつきますよ。


 ……相手の得意技で殺してやりたい。


 決めつけるのはよくないですが、きっとそうです。


 腹が立ちますね。本当にそうなら得意でもない足技でご主人様を倒せると思っているということです。舐めているってことです。


 僕は歯を食いしばり、拳を握りました。意味などないのに。


「……ッ」


 蹴りがご主人様に迫ってくるのを見て、臆病な僕は思わず目をつぶってしまいます。


 それから、五秒。何の音もないことを奇妙に感じ、目を開くと侵入者の足がご主人様の顔面にめりこんだ瞬間のまま、停止されている『エイゾウ』が僕の視界へと入ってきました。


「……な」


「気が変わった。ここで終わりにしておくわ」


 そのユーングさんの一言と共に『エイゾウ』を虚空に表示させていたキュンくんは口を閉じ、僕の頭から離れていきました。


『エイゾウ』が消えたことにより、空間は再び先の見えぬ真っ暗闇へと逆戻り。


「君のご主人様が死ぬところを見せてもまあ別によかったんだけどさー。ちょっとキツいかと思ってやめといた。それに、もう顔面に足がめり込んでるしじきに死ぬことはわかるでしょ。これ以上観せなくていいかなって思っちゃったんだよねー」


 また早口……


「まあ、確かにわかりますが……」


 なんか、引っかかります。他に理由があるのでは……


「……あー、まあ、正直に言うとさぁ……君のご主人様のお屋敷を襲撃したあいつを君に殺してほしい……そう思ったから顔や動きとかをきちんと覚えてもらうために『映像』を観させた。ご主人様が死んでいることを伝える方法は実は他にもあったからねー」


「他にもあったんですか……」


 ため息をついたら、何故か対抗するかのようにユーングさんもため息。何なんですか?


「殺してほしい、ということはあなたもあの侵入者を憎んでいると?」


「憎んではいないってー。ただ、俺とかツァウにとっては敵対者であって邪魔者でもあるからさ……とっとと殺しておきたいと思ってるんだ。それだけだよ。納得してくれなーい?」


「……わかりました。面倒なのもありますが、今聞いても混乱しそうでもあるので追及しません。ただ……戦うのはまだいいとしても、僕では力不足で意味ないのでは? ご主人様やゾンマー先輩があんなに呆気なくやられているわけですし」


 僕は身体能力であの二人に劣りますし、魔法も中級までしか使えないのであんなに強い侵入者にはきっと敵いません。


 敵わない侵入者にわざわざ戦いを挑んで負けるなんて嫌です。


 それに、ああいう奴なら、もしも僕が戦闘から逃げられても、僕が何か嫌がるようなことをしてくるかもしれません。


 先輩メイドが生き残っているとしたら、奴は捜し出して殺そうとしてくるかも……想像するだけで顔が真っ青になりそうです。


 ……一応、黒魔法はありますけど、あれは闘技場で暴発したこともあるから危険そうでなるべくなら使いたくないんですよ。


「ま、今のままなら瞬殺だろうねー。俺はちゃんとそれをわかって言ってるから気にせんでいいよー」


「今のままなら……?」


 何かを僕にする気、ということでしょうか。怖いんですけど。


 自身を抱き寄せつつ、二歩ほど後退したことでユーングさんは苛立った様子でキュンくんに命令しました。


「……痛っ」


 強めにキュンくんにつつかれて、頭をさする僕の……耳の方へユーングさんは近寄ってきました。


「君は冥土王の血縁であって、条件も満たした。今なら……」


「……っ……っ」


 鼓膜へと生温い風が届いてきます。


「……過去に君が持っていた【冥土王の使徒】って称号を再び得ることができんだよ。その称号があれば、君は強くなれる。それで強くなってさぁ……あいつを倒してほしいんだよ、俺は」


 僕は耳を抑えて口端をピクピクと吊り上げつつも……そんな感じの説明を静かに聞いておくのでした。


 ……もうつつかれたくないので。

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