刑部との因縁の決着
「お見事!」
後ろから、刑部の声が聞こえた。
振り返ると、いつの間にか刑部が立っていた。
「先の勝負、一部始終拝見させてもらった。
お主、少しも腕は衰えておらんようだな。
二十人ほどの仲間、一人もおらんようになってしもうたわ。
いやはやこの大谷刑部、感服つかまつった」
「答えい、刑部。
村の者はどうしたのじゃ?」
「そんなに気になるか。
あの腰抜け者どもは、お主が逃げ出した時の混乱に乗じて、皆一目散に逃げて行きよった」
喜之助はひとまず、安心した。
後はこの刑部を葬れば、カタがつく。
「喜之助、貴様は今日ここで死ぬ!」
刑部が宣言すると刀を鞘から出し、構えた。
「それはどうですかな?
俺の第二の人生を完璧に破壊してくれたお前だけは、どうあっても地獄に行ってもらう」
喜之助は恨み重なる刑部だけは殺すつもりで、踏み込んだ。
最初の一撃は、かわされた。
刑部は左方向に走りながら、斬り込んできた。
刀を右手に持っている時に左側から攻められたら、致命的だ。
喜之助は刑部より動きが一寸、遅かった。
刑部の刃をかわし損ね、浅くだが左腕を斬られた。
左腕から、血がしたたり落ちる。
「命拾いしたな。次はそうはいかぬ」
「さすがはカマイタチの頭領だった男。
最高の好敵手のようだ」
刑部の次の攻撃が始まった。
息をもつかせぬ攻撃に喜之助は徐々に後退して行き、燃えている家屋のそばまで追い詰められた。
背中から、熱気を感じる。
火が近いのだ。
もう二歩退けば、衣服に火が燃え移るだろう。
「どうした?後ろは火炎地獄。
逃げ場はない。今度こそ、お主の本当の最期じゃ」
刑部の刃が、喜之助の首めがけて勢いよく飛んできた。
喜之助のとっさに身をかがめて地面に膝をついてかわし、刑部のガニ股の下をくぐり抜けた。
「おのれ!」
刑部が振り向くと、喜之助は地面を転がって遠ざかった。
「小賢しい真似をしおって!」
刑部は柄を両手で握ると、転がる喜之助の腹を突き刺そうとしてきた。
刑部の刃先が、地面に深く突き刺さる。
喜之助は寝たままの体勢から、刑部の柄を握っている両手首を斬り落とした。
「うぎゃああぁぁ~!」
刑部が叫ぶ。
刑部の両手首は体から離れても、まだ刀を握っていた。
「待ってくれ、もうこの村に手を出すのはやめよう!
だから、見逃してくれ!」
刑部は手首より先の無くなった両腕を出して、懇願してきた。
「お前が一度でも命乞いしている旅人を、助けた事があるのか?
往生際が悪いぞ」
喜之助が冷徹に答えた途端、刑部は背を向けて走り出した。
喜之助は間違いなく、殺すつもりだと判断したらしい。
「貴様のような殺人鬼、生かして返すと思ったのか!」
喜之助は正国を逆手に持ち替え、槍を投げる要領で勢いよく刑部に投げた。
正国は一直線に飛び、刑部の背中に突き刺さった。
刑部はヨロヨロと数歩歩くと、バタッと倒れた。
「それが外道の末路だ、刑部・・・」
喜之助は、安堵のため息をついた。
殺された村人の無念は、晴らす事が出来たのだ。
燃え盛る家屋の炎を前に、刑部が死んだ後でも
地面に刺さった刀には、残された手首がまだしっかりと握っていた。




