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大事な人質

その頃村では、刑部、源三郎、ともう一人の手下の三人で残された村人たちを監視していた。

三十人ぐらいいる村人を制圧するのに、三人では不十分だ。

賊の数が少なくなると、村人たちはワッと一斉に逃げ出した。

「このお!止まれ、止まらんと殺すぞぉ!」

坊主頭の手下が威嚇(いかく)したが、村人たちに押されて倒れてしまった。

皆、死にもの狂いで走っている。

宙を見つめている茜の死体をも踏みつけ、村人たちは次々に村を脱出して行った。

「源三郎、その女だけは逃がすな!」

刑部が怒鳴ると、源三郎は逃げ去る途中の綾音の後ろから手を回して、喉元を締め上げた。

「お前は喜之助を殺す、大事な切り札だ!」

「放せ、もうあんなクズ野郎とは何の関係もない!」

綾音は首に回っている源三郎の腕を、食いちぎるつもりで噛んだ。

「うげえぇぇぇ!」

源三郎の腕の力が弱まると、綾音は足のつま先を踏みつけてやった。

痛みで源三郎が綾音を放すと、振り返る事なく走り続けた。

振り返れば悪魔が魂を奪いにくるつもりで、綾音は走りまくった。


    ―――――――――――――――――――


喜之助が山に入って姿が見えなくなると、賊たちは続々と山に入って行った。

素早く草むらの中に身を隠すと、それを知らぬ賊たちは喜之助の横を順々に通り越して行く。

最後の一人が走って行く瞬間に草むらを出ると、その男を後ろから斬り捨てた。

一人いなくなった事に気づかずに、賊たちは進んで行っている。

賊たちは固まらずに、散開して行った。

喜之助は先回りして、地面に穴を掘った。

喜之助はその中に入ると、穴の上を落ち葉で隠して地面と変わらないようにふさいだ。

これで誰も足元に喜之助が潜んでいるとは、思いもよらない。

早速、誰かが近づいてきた。

足音からして、多分一人だ。

喜之助は、賊が一歩手前まきた時点で穴から素早く腕だけを出して、賊の股関目掛けて突き刺した。

「ウググエッ」

賊は声にならないうめき声を出して、地面に倒れた。

喜之助は穴から出ると、男の死体を穴の中に入れて隠した。

次に大木の陰に隠れて、賊が近づくのを待った。

しばらくすると、左後方から走る音が近づいてきた。

喜之助は正国を、構えた。

近い。

後三歩・・・、二歩・・一歩!

喜之助は相手を見ずに、片手で正国を左後方に振り上げた。

ビシュッ。

鈍い音がしたかと思うと、賊の首が足元に転がってきた。

残るは七人。

喜之助は、残りを探しに出掛けた。


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