喜之助、森に向かう
田んぼの泥水に倒れた男の死体を踏みつけながら、賊の一人がしゃべった。
「敵に背を見せ、逃げるとは言語道断。
仲間とは言え、容赦はせぬ」
喜之助の前には、後から追いついてきた三人が
立ちはだかった。
三人はジワジワと、喜之助に近づいていく。
突然、喜之助はダッシュして三人に近づいた。
一人目の男は、左手を斬り落とした。
「ウググエッ」という声と共に、左手は田んぼの中に落ちた。
左手を失なった男は激痛で、田んぼの中をのたうち回った。
一人が背後に回り込んできた。
後ろから、喜之助を斬るつもりだ。
だが、そうはさせるものか。
背後の男は喜之助の頚を斬ろうと、刀を横に振り上げてきた。
喜之助はすぐに身をかがめ、後ろからの攻撃的をかわした。
田んぼの中で正座したままの格好になり、後ろに上半身だけ倒れさせた。
両手で正国を握ると、背後の男のへそ目掛けて突き刺した。
もう一人の男が、こっちへやってきた。
すぐに正国を後ろの男の腹から、引き抜いた。
背後で男が倒れ、バシャッと泥水が跳ねる音がした。
喜之助が立つと、三番目の男が肩目掛けて振り下ろしてきた。
喜之助はほんのわずかに動いて、これをかわした。
その継ぎに一歩前に出て、男の刀を左脇に挟むと左手で刀を押さえつけた。
男が刀を押さえつけた引き抜こうとしたが、ビクともしない。
その隙に、右手で正国を胸に突き刺した。
男は刀から手を離し、仰向けに田んぼの中に倒れた。
喜之助の左脇にはまだ男の刀が残っていたが、それも田んぼに捨てた。
田んぼを見回すと、八人の死体で一杯になっていた。
その中で唯一、左手を斬られた男だけが悶え苦しんでいた。
その男は喜之助が近くに迫ったのを見ると、哀願してきた。
「どうか、命だけは・・・」
「今すぐ消えんと、たたっ斬るぞ」
男は右手で左手の傷口をかばいながら、その場から逃げた。
村の方向へ目を向けると、遅れてきた手勢数十人が追いかけてきている。
喜之助は近くの山を目指し、さらに走った。
平地よりも山地に入って行方をくらませば、敵も分散せざるを得なくなる。
そうなれば、しめたものだ。
一人ずつ、背後からブッた斬ってやる。




