元に戻った喜之助
「そうだ。それでいい。
やっと、やる気になったか」
刑部が我が意を得たり、と笑った。
刀を取った喜之助を見て、年少者たちが「喜之助!喜之助!」と大合唱のエールを送ってきた。
喜之助は一番近くにいる賊党二人を、斬った。
二人共に、喜之助は人を斬れないとタカをくくっていたので思いもよらない攻撃に、不意打ちを食らった感じだ。
喜之助の手に、刀を振るう感覚が甦ってきた。
今まで忘れようと努力してきたが、今となっては徒労に終わったようだ。
「次は重蔵、お前の番だ」
喜之助は重蔵に向かって、刀を構えた。
「信念を貫き通すのが、真の男ではなかったのか?
所詮、貴様は口先だけの男よ」
「状況によって変わる」
負けずに、喜之助は補足してやった。
「慌てるな。
わしと闘う前に、貴様の腕が錆び付いておらぬかどうか、確かめねばならん。勝負はそれからだ」
重蔵が手を上げると、後ろから二人の男が飛び出してきた。
一方が右側、もう片方が左側から斬りかかってきた。
一人で二人を相手にするのは、初めてではない。
喜之助は左からきた男の刃をかわすと背後に回り込み、後ろから一刀両断した。
残るは一人。
仲間の死を見て、動揺している。
喜之助はその一瞬の隙を、見逃さなかった。
相手の間合いにすぐに飛び込み、横から刀を振り下ろし、首を切断した。
頭の無くなった切断死体はドサッと、地面に倒れた。
「しかと見届けた。
しかし、わしの秘蔵っ子がこうも簡単に殺られるとはな。
どうやら六年経っても、貴様の剣の腕は全く、錆び付いておらん」
重蔵は、ようやく刀を構えた。
「次はお前の首が無くなる番だ」
重蔵が、斬りかかってきた。
しかし重蔵の攻撃をかわす事は、喜之助にとって容易い事だった。
こいつはただガムシャラに、刀を振り回してるだけなのだ。
芸もなく、勝てるつもりでいるらしい。
重蔵の横からの刀を喜之助は地面に膝をついてかわすと、腹に真一文字に突き刺した。
重蔵は口から洪水のように血を吐き出し、喜之助の頭に降りかかった。
「どこまでも甘い男よ・・・。
これ程の腕を持っていながら、農民に身をやつするとはな・・・」
血を吐きながら言うと、重蔵は死んだ。
やはり、わしの体は覚えていた。
人を殺す剣術を。
忘れては、いなかった。
村人たちの驚愕した目線が、自分に集まった。
こんな姿を、見せたくなかった。
特に綾音には。
綾音は目を丸くして、喜之助の闘いを見守っている。
ついに、刑部の賊たちのとの決戦の時はきた。
「刑部、わしを殺せるなら殺してみろ!」
喜之助は背を見せると、走って逃げた。
村を出て、どんどん遠くに逃げた。
もちろん自分が逃げれば、大多数の賊たちは追いかけてくるだろう。
その間に村の者たちは、脱出する機会が生まれるはずだ。
全員で逃げれば、賊の残りの人数だけで制圧出来るはずがない。
安全な場所に、逃げてもらわねばならなかった。
「追え、逃がすな!息の根を止めろ!」
刑部はがなり立て、手下の者に命令している。
喜之助の計算通り、少数の者だけを残して残りは追いかけてきている。
それこそ、思う壺だ。




