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恐怖の処刑

重蔵は大勢いる村人の中から、一人連れてきた。

それは、藤吉だった。

「藤吉!」

喜之助は、思わず叫んだ。

重蔵は藤吉のノドに、刀の先を当てた。

「喜之助、お主が闘わぬと申すのであれば村人たちの首、片っ端からハネていくぞ!」

重蔵の言う事にウソはない。

人の命など、虫けらのようにしか思っていない男だ。

「喜之助、五つ数える間に刀を取れ。

さもなくば、この者の首と胴は永遠の別れを告げる事になる」

刑部が余裕たっぷりの態度で言った。

それとは反対に、藤吉は全身がガタガタと震えている。

なにしろ、自分の命は喜之助の行動一つに託されているのだ。

「どうじゃあ、これでも取らぬと申すか?」と重蔵。

「取らぬ」

喜之助の心に、迷いは微塵も無かった。

重蔵はそれでは仕方ないな、と肩をすくめると死へのカウントダウンを始めた。

「一・・・二・・・三」

一向に動く気配のない喜之助に、藤吉が叫んだ。

「頼む・・・、刀を取ってくれ・・・、それで大勢殺してきたんだろう!」

涙声で、藤吉は訴えた。

喜之助は動く事が、出来なかった。

重蔵は何のためらいもなしに、藤吉の首をはねた。

藤吉の首から飛び散る血飛沫に、皆悲鳴を上げた。

「貴様も、しぶとい男よ。

他人ならば、見殺しに出来るという分けじゃな。

ならば、致し方あるまい。

こやつの女房、子供を連れて参れ!」

刑部は手下に、命じた。

喜之助は、動揺を隠し切れなかった。

それにしても何故、奴らはわしが結婚して子供がいるという事を知っているのだ?

喜之助は3人が見つからぬよう、祈った。

「許せ、藤吉・・・。わしは二度と悪鬼には、戻りとうないんじゃ・・・」

喜之助は首と胴が離れ離れになった藤吉の死体を見ながら、自己弁護のようにつぶやいた。

焦燥感に駆り立てられている内に茜、志乃、清作が賊たちに捕えられてきたのを見た。

「喜之助?!」

茜が叫ぶ。やはり、無理だったか。

お前らだけは、何とか逃げおおせてくれと願っていたが。

「よくやった、源三郎」

刑部が言う。

喜之助の家族を捕えた源三郎は、上機嫌だ。

「はっ、山の中へ逃げ込もうとした寸前に、ひっ捕えて参りました」

刑部は喜之助に近付き、耳元でささやいた。

「喜之助、もう一度だけ武運をくれてやろう。刀を取って、わしと闘え。

取らぬと言うのであれば、お前の目の前で、バラバラにしてくれようぞ!」

喜之助は全身から、汗がどっと噴き出してきたのを感じた。

「喜之助!この子らのためにも、闘って!」

茜は叫んだ。

「刀を取って、闘って!今でも十分勝てるはずよ!」

茜は必死に、喜之助を説得しようとした。

「信念を貫き通すのが、真の男だ!」

喜之助は茜の言う事を、かたくなに拒んだ。

「拾え、喜之助!」

刑部も連られて、がなり立てた。

「拾うのじゃ!」

「くどいぞ、この魚住喜之助、体は腐っても魂まで腐ってはおらん!」

茜・・・。

究極はお前たちに不利と知りつつも、わしは人を殺すのだけは嫌なのだ。

今まで過去の悪行から必死になって逃げてきたが、この場になって双六(すごろく)のように振り出しに戻るとはな。

例え刀を取ったとしても、わしにはもう振るう気力もない。

闘う気がないのだ。

その最中、志乃の清作はワンワンと泣いていた。

余りのやかましさに堪えきれず、重蔵はカッとなった。

「ええい、このうるさいガキめ!」

重蔵は刀で、志乃と清作を斬った。

喜之助には周りの状況の音が全く耳に入っておらず、無音の状態だった。

音のない世界の中で、志乃と清作は死んだ。

「どうやら、この腑抜けに何を言ってもムダならしい。

こ奴の愛しい女房も、あの世に送ってやれい」

刑部は落胆して、命令した。

「喜・・・之・・・助・・」

それが、茜の最期の言葉になった。

重蔵は一刀ともとに、茜を斬り捨てた。

喜之助の目には茜が倒れるまでの間、スローモーションの、ように遅く見えた。

倒れるまでの茜は茜ではなく、美代に見えた。

血だるまになった美代がピクリとも動かなくなると、茜の変わっていた。

とうとう、喜之助は観念した。

もはや二度とこの忌まわしき刀、手にする事はないと思っていた。

今の自分には茜の死よりも、昔の自分に戻らざるを得ない方が悲しかった。

どうにもならぬ。

やはり、人殺しに戻るしか道はない。

ならば、心ゆくまで鬼に戻ってやろう。

否、鬼に戻ってやる。

今まで渋々鬼にならざるを得ない状況に追い込まれてきたが、今度は自らが進んで鬼になるのだ。

喜之助は無念断腸の思いで正国を拾うと、鞘(さや)から刀身を出した。

刀身に、喜之助の顔が映った。

太陽光線の反射で、刀がキラッと光った。







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