刑部との再会
見たくもない汚物を、久し振りに見た。
そうか、そうであったか。
刑部がこの賊を、率いていたのか。
となると狙いは、やはりこのわしか。
わし一人の命のために、村全体を火の海にするとは。
喜之助は刑部に、こらえようもない憎悪を抱いた。
同時に己は何処に行こうが、この腐りきった連中と離れられないという、諦めも感じていた。
「喜之助、貴様はここにお集まりの皆様方に己の正体は話したのか?」
刑部が聞いた。
この野郎、痛い所をついてきやがる。
喜之助は何も、話す事は出来なかった。
「否、話してはいまい。
話しておれば、こんな所で皆と仲良く畑仕事など出来んからな」
刑部は声を一段大きくして、村全体に響き渡るよう説明してやった。
「皆の衆、面白い話を聞かせてやろう。
ここにおわす魚住喜之助は、実はカマイタチの賊徒だったのだ。
裏切り者として処刑したはずが、うまく逃げられてしまった。
それで年月経て、我々は喜之助を確実に始末するために攻撃してきたのだ。
恨むのなら我々ではなく、この魚住喜之助を恨むがよろしかろう。
こうなった原因も、魚住を村の一員として認めた皆様方にも責任がある」
村人たちの視線が刑部の軍団にではなく、喜之助一点に注がれた。
刑部がわしの化けの皮を、一枚一枚剥がしていっている。
自分の本当の姿を、赤裸にされてしまったのだ。
喜之助の近くにいた綾音が、信じられないという顔を向けてきた。
「喜之助・・・、あんたって人は・・・」
もはや喜之助には、綾音とまともに目を合わせる事が出来なかった。
綾音が喜之助に抱いていた偶像は、一瞬で粉々に破壊された。
「今まで喜之助に惚れ続けてきた己が恥ずかしい。あんたは人でなしよ、悪魔よ!」
これで完全に綾音は、儂から離れた。
喜之助は縛られている村人たちを、見回してみた。
どこにも茜、清作、志及の姿は見えない。
三人はどうやら、無事脱出したらしい。
喜之助はホッと、胸を撫で下ろした。
「カマイタチに入って、どれくらい旅人を殺してきたの?」
綾音が冷たい視線と共に、聞いてきた。
儂を見下げはてているのが、よく分かる。
「いちいち数えてはおらぬ。
まあ、ざっと五十人は下らぬじゃろう・・・」
この一言で、綾音の怒りの導火線に火がついた。
「お前のような殺人鬼、苦しみ抜いて地獄に落ちろ!
殺された旅の亡霊に呪われろ!」
綾音は怒って喜之助に殴りかかったが、賊の連中に引き離された。
刑部はニタニタ笑いながら、二人に近づいた。
「まあまあ、ご両人。
この期に及んで、仲違いはやめた方がよろしかろう。
見苦しいですぞ。
喜之助にも、外道の末路の常識という物を教えておいてやろう。
いくら虚栄の衣で身を飾っても、嘘は必ず白日の下にバレ、露呈する事になる」
刑部は手で、後ろにいる手下に合図した。
すると手下は、一本の刀を持ってきて刑部に渡した。
「喜之助、刀を取ってこの儂と戦え。
お主愛用の刀、正国をわざわざ持ってきてやったぞ。
受け取れい」
刑部は正国を、喜之助の足元に投げた。
しかし喜之助は、正国を拾おうともしなかった。
冗談ではない。
儂は人殺しはせぬ、と心に誓ったのだ。
この人の生き血を吸う魔刀、父の形見でも何でもない。
この正国には、斬り殺された者共の怨念が、今でも宿っている。
もはや、二度と握るつもりはなかった。
「どうした、刀を取らんのか?
それとも、怖じ気づいたか?」
「貴様の見ての通り、今の儂は昔の儂ではない。
刀などは、もう無用の長物よ。
貴様とやり合うつもりは、毛頭ない」
「腑抜けたか、喜之助!?」
刑部は、一喝した。
「お主、悪党の片割れから農民に成り下がったからと言うて、この儂と闘わぬ、そんな屁理屈が通るとでも思うておるのか?!
儂には、よく分かるぞ。
いくら善人の皮を被ろうとも、お主の体から湧き出る鬼の血は枯れ果ててはいない事がな。
どうしても闘いたくなければ、闘わざるを得んようにしてやるぞ」
刑部は後ろを振り向いて、叫んだ。
「おい、重蔵!誰でもいいから一人、連れてこい!」




