制圧された村
「よし、ここで火を放て~!」
刑部が命令した。
浪人たちは持ってきた弓矢を取り出した。
矢の先端に松油を塗り、火をつけると、弓で次々に放った。
放たれた火矢は、家屋の屋根に突き刺さった。
最初はほんのわずかな数が刺さっただけだったが、次第に増えた。
村の家屋の屋根という屋根に火矢が突き刺さり、火は燃え広がっていった。
まだ大部分寝ていた村の住民たちは、屋根の炎が広がり、
ごうごうと燃え盛る音で目を覚ました。
すでに家屋の中は、煙が充満している。
誰もがいっぺんに、飛び起きた。
「火事じゃ~!皆、起きろ~!」
どこの小屋の住民も煙と音で目を覚まし、火事だと勘違いして外へ飛び出して行った。
どんどん時間と共に、その数は増えていく。
阿鼻叫喚の光景を刑部らは、村の入り口で見物していた。
「皆の者、よく聞け。
村の者はすぐに殺してはならん。
生きたまま、捕らえるのだ。
ただし抵抗してきた者は、この限りではない。
遠慮なく、斬り捨てるがいい。
だが決して魚住だけはどんな事があっても、生かしたまま捕らえるのだ。
魚住を誤って殺した奴は、無惨極まりない拷問にかけてくれようぞ」
刑部が手を上げると、浪人たちは一斉に村へ入って行った。
村の半数近くの家屋はすでに炎上、倒壊していた。
逃げ遅れてそのまま炎に焼かれ、小屋の中で死んだ者も少なからずいた。
しかし全身を炎に焼かれ、火だるまになりながらも小屋から飛び出してくる者もいた。
数十歩走り回った所で力仕事尽き、バッタリと地面に倒れる。
また全身とまではいかないが、体の部分のあちこちに火が燃え移っている者もいた。
ある者は片手に火がつき、ある者は足に火がついている。
またある者はカチカチ山のタヌキのように、背中だけに火がついているのもいた。
彼らは井戸を目指し、その中に飛び込んだ。
しかし飛び込んだきり、井戸の中で死に絶えた。
村にある井戸は、すぐに満員になった。
一方助かった人たちも、火を消そうとしたが井戸は火傷を負って死んだ者だらけで、釣瓶で水を汲んで火を消す事が出来なかった。
もう後は、燃え尽きるまで待つしかない状態である。
そんな村人たちが茫然自失してる間に、刑部の軍団が現れた。
村人たちは最初、近隣の村から火を消すために応援に駆けつけてくれたのかと思った。
だが、様子が違う。
手には、刀が握られている。
火を消すのに、刀が必要あるのか?
そう思っている間に、浪人たちは村人たちを斬り殺すか、捕らえるかをしてきた。
あいつらは、我々を殺すつもりなのだ!
気づいた村人たちは、散り散りになった。
だが逃げる村人たちを、浪人たちは用意してきた網で捕獲した。
「喜之助はいたか?!」
刑部が叫ぶ。
「いえ、まだ見つかりません!」
と、源三郎。
「草の根分けても、探し出すのじゃ!」
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その頃喜之助は、少数の村人たちと共に畑作業の準備に取りかかろうとしていた。
その畑は村から離れた場所にあったので、まだ騒ぎは届いていない。
喜之助たち農夫は、黙々と作業を始めていった。
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茜は朝ご飯の準備を、していた。
今日も朝からかわいい二人の子供の世話で、手一杯である。
志及と清四郎は仲良く、一つの布団に入って寝ている。
茜はその寝顔を見つつも、周りが騒がしく叫んでいる声を聞いた。
これは、ただ事ではない。
何か、一大事が起こったのだ。
慌てて、外へ飛び出してみた。
茜には自分の目に飛び込んできた光景が、信じられなかった。
あちこちの小屋の屋根に火がつき、中には全焼しているのもあった。
それに、逃げ惑う村人たち。
火がついたまま、暴走する牛や馬などの家畜。
今となっては家財道具など持ち出せる余裕はなく、自分の命を守るのが先決だった。
全身火傷で体中黒焦げになって、倒れている者が大勢いる。
両足に火がつき、走り転げ回っている者も。
幸いにして、茜の小屋には火矢は飛んできてなかった。
茜はどこかの民家が火事になって、燃え広がったのかと思った。
もう一刻の猶予もない。
志及と清四郎を連れて、どこか安全な場所に逃げなければ。
自分たちのいる小屋にはまだ火の手が迫ってきてないが、
燃え移ってくるのは時間の問題だ。
急がねば!
茜は中に戻ると、まだ三才になる清四郎を抱き上げた。
そして寝ている志及を起こそうと、必死に肩を揺さぶった。
「志及、早く起きなさい!
一大事ぞえ!」
ようやく、志及が目を覚ました。
「母さま、どうしたのじゃ?」
まだ眠い目をこすりながら、志及は聞いた。
「火事じゃ、火事じゃ!
すぐにここから、逃げるえ!」
志及は状況が理解出来ないまま、立ち上がった。
茜は志及の手を引き、片手には清四郎を抱いて外に出た。
さて、どこに逃げればいいのだろうか?
火が近くにない所はどこだ?
取り敢えず志及と清四郎を、近くの山に連れて行こう。
二人をそこに置いて、自分はまた様子を見に帰ればいい。
茜は志及の手を引っ張って、裏山を目指した。
喜之助は、大丈夫なのだろうか?
喜之助が行ってる場所は、民家のない畑なのだから大丈夫だ。
二人を避難させたら、喜之助を迎えに行こう。
そして父・六兵衛も。
茜はその時点で、父が既に亡くなっているのを知らなかった。




