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殺戮の準備

四日後。

重蔵は駿府から、二十二人もの手勢を連れてきた。

刑部が泊まっている旅籠の全部屋が、満員になるほどの人数である。

「ご苦労だった、重蔵。

さて、本日皆様方にお集まり頂いたのは、他でもない。

私の配下だった裏切り者を、始末するためでござる。

その裏切り者は、ある村の連中にかくまれておってな。

不届きなる村の連中も、一緒に懲らしめてやらねばならぬ。

皆、力を貸してくれるであろうな?」

刑部は集まった浪人連中に、演説した。

すると浪人連中の中から一人、返事がかえってきた。

「そんな事は、答えるまでもありません。

わしら二十二人、互いに身辺の状況は違えど皆、刑部様にご恩をたまわってきた。

若君が下野(しもづけ)高崎で自刃された後、飯や居住の世話をしてくれたのも、皆刑部様のお陰でござる。

その刑部様お困りの事あれば、いつでも馳せ参じて仕えるのが我らの使命。

皆、同じ存念にござりまする」

全員が一同に、うなづいた。

刑部は満足行く、返事を聞く事が出来た。

「よく分かり申した。

頼もしい味方がいてくれて、何よりじゃ」

その時、階段を駆け上がってくる者がいた。

源三郎である。

「刑部様、只今帰ってめえりやした。

喜之助の野郎ですが、村へ戻るのを見て参りました。

七十人程の小さな村です」

「でかしたぞ、源三郎」

刑部は、これで準備は整ったと感じた。

「それでは各々方、明朝旅籠を出発いたし申す。

みな、手抜かりのないようにな」

言い終わった後、浪人の一人が質問してきた。

「刑部様。その魚住とか言う男、かなり手強い相手なのでしょうか?」

「かなりの腕だ。

一人や二人でかかって行っても、たやすく斬られてしまうぐらいじゃ。

だからこうして、腕っぷしの自慢のある者を、選りすぐって連れてきた。

皆の者も、肝に命じておけ。

その魚住を相手にする時は、決して油断せぬようにいたせ。

鬼神をしのぐ程の男よ」


   ――――――――――――――――――――――――――


明朝、刑部の軍団は旅籠から出発した。

大井川を渡って、川沿いに歩く事数時間。

村の近くにある、小高い丘にたどり着いた。

その場所からは、村の全体が一望の元に見渡せた。

刑部と重蔵は、村を眺めた。

「思っていたほど、大きくはないな。

あれぐらいの広さなら、すぐ焼き払える」

刑部は村の全体像を見ると、振り返って浪人連中に言った。

「よいか、皆の者。

明日の未明、あの村に総攻撃をかける。

全員、皆殺しじゃ。

しょせんは、百姓の集まりよ。

我々に歯向かう事すら、出来ぬ連中じゃて。

女子供戸手、一切容赦いたすな。

もちろん、喜之助もあの世へ送ってやる」

刑部が演説を終わった時、一人の百姓がすぐ近くを通り、帰ろうとしていた。

その村人とは、茜の父・六兵衛だった。

夕暮れ時になり、六兵衛は熟した果物を取って帰る途中だったが、何やら物騒な連中が村を見下ろす丘に陣取っているのを見た。

手には刀、槍、弓矢などいくさに必要な物を取り揃えているのを見ると、野武士の集団か。

まさかこの近くで、大きないくさでも起こるのではあるまいか。

六兵衛が危惧している最中、源三郎が話しかけてきた。

「あいや、待たれい。そこの者」

六兵衛は野武士に自分が咎(とが)められたのかと思い、立ち止まった。

「そなたに是非、折り入って聞きたい事がある」

「へえ、何でごぜえやしょう?」

六兵衛は畏怖の念から、源三郎に従った。

「その方の村に、魚住喜之助という者はおるか?」

「へえ、喜之助ならおりやすが・・・」

この連中は喜之助を知っているのか?

六兵衛は何やら、怪しい雰囲気を感じ始めた。

「では正直に答えて頂きたい。

その喜之助はどうやって、この村に住むようになったのじゃ?」

「それは・・・大部昔の事になりやすが、私の娘が川で洗濯をしている時に、その喜之助が流れてきたという分けです」

六兵衛の話を聞いて源三郎、刑部、重蔵は納得がいった。

「親分、やはり谷の底は川だったようですな」

源三郎が言う。

次は刑部が、六兵衛に質問してきた。

「喜之助は今、どうしておる?

妻がいるそうだが、子供はおるのか?」

「子供ならうちの娘との間に、二人作っておりやす」

喜之助はこの凶悪そうな野武士の集団と、知り合いなのか。

こうしてはおれん。

六兵衛は早速村へ降りてこの事を茜に話し、喜之助と引き離さなければならないと思った。

「あっしは急いでるんで、ここらへんで帰らしておくんなさい」

六兵衛は軽く頭を下げると、刑部らから足早に遠ざかろうとした。

その背後で、刑部の声が上がった。

「我々が明日、攻撃を仕掛ける前に見られてしまった。

重蔵、足をひき止めた礼をいたせ」

「はっ」

重蔵は懐から、短刀を出した。

一方六兵衛は礼、と聞いて何か褒美が出るのかと思い、振り返った。

その途端、重蔵は短刀を抜くと六兵衛のノドを、一瞬にして切り裂いた。

ドクドクと血を垂らしながら、六兵衛は倒れた。

「重蔵、源三郎。

先程の話は聞いたな。

喜之助には、子供が二人いるそうじゃ。

生きたまま、捕らえるのじゃぞ」

「はっ」

源三郎、重蔵は答えた。

日は沈み、夜になった。

村人の誰一人として、明日起こり得る惨劇を予想出来た者はいなかった。


   ――――――――――――――――――――――――――――


明くる日の朝。

鶏の鳴き声で、村人たちは目を覚まし、朝の準備に取りかかった。

まだ村人たちのわずかな数が小屋から出た光景を、刑部の軍団は朝日を浴びながら見下ろしていた。

「準備は整いましてございます、刑部様」

浪人の一人が言った。

「よし、行けい!」

刑部の合図と共に、浪人たちは丘を降り、一路村へ向かった。

村の者たちは、まだ全員が起きた分けでさなかった。

大部分の者は、まだ寝ている最中だった。

浪人たちは村の入り口付近に、たどり着いた。







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