↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
41/56

悪夢の再会

茜と一緒に嶋田まで買い物をしに、三泊の旅に出る事になった。

まず金谷まで行き、宿に泊まった。

次の日は、有名な大井川の徒(かち)渡しである。

川会所で川札を買うと、ごつい体格をした川越人足たちが、肩車をしてくれた。

茜と一緒に、反対側の岸まで運んでくれた。

喜之助はもう、カマイタチの事などすっかり忘れていた。

喜之助自身がカマイタチの事を忘れようと、務めてきたからである。

もう二度と、あんなゲスの輩と会う事はない。

そう、信じ切っていた。

だが悲しい事に、幸運の女神は完全に喜之助を捨てていたのである。


   ――――――――――――――――――――――――


川越人足の一人に、元カマイタチにいた男・土門源三郎がいた。

喜之助を谷に突き落としてからと言うもの、カマイタチは派手な動きは慎んできた。

旅人連中を装った道中奉行所の隠密同心や岡っ引きに仲間が襲われ、散り散りになってしまったのである。

ある者は斬られ、ある者は捕らえられ、カマイタチは解散になってしまったのである。

源三郎もカマイタチから去り、川越人足として雇われ、日雇い労働者として生活していた。

遠国から江戸に向かう御家人の乗った連台を、四人がかりで担ぎ上げている。

水深の浅い所を通っている最中、源三郎は向こう岸にたどり着いた喜之助と茜を見た。

最初は喜之助だと分からず、どこかで見たような顔の奴だなと思った。

だが何処で会ったのかが、なかなか思い出せない。

ようやく川を渡った時に、ハタと気がついた。

あの男は魚住喜之助だ!

だが、待てよ。

あいつは確かに、谷に落ちたはず。

源三郎はもう一度よく、喜之助の顔を見てみた。

間違いない。

喜之助の顔を、見間違える分けがない。

あの野郎は、生きていやがったんだ!

喜之助を殺したと思い込んで、六年。

ところがどっこい、奴は女と一緒にいる。

喜之助は茜と一緒に、嶋田の方へ去ってしまった。

喜之助が生きておると分かった以上、こうしてはおられん。

早速、この事を刑部に知らせねば。

そして必ず今度こそ、喜之助を地獄に送り届けてやる。

源三郎はそのために急いで番小屋に戻ると、衣服を着た。

それを見た川越え渡しの番頭が、叫んだ。

「源三郎、何やってんだ、お前は?!

まだ向こう岸には川越えの旅客が大勢残ってるのが、分からねえか?!」

源三郎は着替え終わると、番頭に向かって言い返した。

「もうこの仕事は終わりだ!

今日の分の日当は、お前にくれてやる!」

そう捨てセリフを残すと、刑部のいる場所へ駆けて去って行った。


   ――――――――――――――――――――――――――


その晩、喜之助と茜は嶋田の旅籠に泊まった。

茜は二階の窓枠から、下を見下ろしていた。

夏の蒸し暑い中、ウチワで扇ぎながら、下の道の通行人がせわしなく歩く姿を眺めている。

「こんなに遠くまできたの、何年ぶりかしらねえ?

喜之助は前にもきた事があるんでしょう?」

飴を頬張りながら茜は、後ろで寝っ転がっている喜之助に聞いた。

「ああ、東海道は数えられぬ程往来した。

東は江戸、西は京都までだ」

喜之助は寝たまま、答えた。

「あたしも喜之助みたいに、色んな所を訪れる事が出来たらなあ。

旅人連中がほんと、うらやましい」

喜之助は、上半身を起こした。

「茜、今度の収穫が終わったら、お伊勢参りでも行ってみるか」

「うん、もちろん連れてって。

でも道とか、間違えたりしないでね」

「何を申すか。

わしは伊勢の国の生まれであるぞ。

幼き頃、両親と姉の四人でお参りに行った事がある。

道など行けば、たやすく思い出す。

それよりも、行って何を願(がん)かけるのじゃ?」

茜はしばらく上を向いて、夜空の星を眺めた。

「一つはね、あの二人の子供がすくすくと育ってくれますようにってね。

もう一つは・・・」

「何じゃ、もったいぶらずに申せ」

喜之助が聞いても、茜は振り返らない。

「喜之助との愛情がいつまでも、続きますようにって。

今あたしが望んでるものは、この二つだけ。

それ以上は、何もいらない」

喜之助は、畳の上にあぐらをかいた。

「茜、もっと近う寄れ」

茜は振り返ると、喜之助の近くに座った。

「茜、わしはこれから先、決してお前を手放ぬ。

死ぬまでな。

そんな事はわざわざ遠くまで行って、祈るまでもない。

それに考えてみろ、願い事は一つでたくさんじゃ。

二つも願えばそれこそ、伊勢の神さんが貴様は欲張りじゃと、怒りかねん」

「それなら、一つでやめとくわ。

でも今から行くのが楽しみねえ」

喜之助はカマイタチにいた頃、お伊勢参りに行った帰り道の旅人を襲って殺したのを思い出した。

その旅人は土産に、赤福を買っていた。

それに、伊勢神宮のお守りも買っていた。

その旅人を平気で殺しておきながら、自分は今頃のうのうとお伊勢参りに詣でるとは。

その事を考えると、自分のやった馬鹿さ加減が許せなかった。


   ――――――――――――――――――――――――――


源三郎は息を弾ませながら、駿州屋という旅籠にたどり着いた。

ここの二階に、刑部と重蔵が泊まっているのだ。

刑部がキセルで煙を吸っている最中、何者かが階段を大急ぎで駆け上がってきた音を聞いた。

「て、てえへんだ、親分!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。